第1章 5 会えなかった理由
「お久しぶりですね、ヒルダ様。お元気でしたか?」
ルドルフは笑みを湛えてヒルダを見た。
「ル・ルドルフ・・・」
(何故・・・?何故そんな笑顔で私の事を見るの?私の事・・・避けていたんじゃないの?)
「ヒルダ様?どうされたんですか?顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」
その顔は心配気だった。
「ルドルフ・・・ひょっとして・・私の事・・心配してくれているの?」
「あ・・当たり前じゃないですか。」
ヒルダはフッと笑って言った。
「ありがとう・・・やっぱりルドルフは優しいのね・・・・。」
「ヒルダ様・・・。」
ルドルフは何か言いたげにヒルダを見つめた。
「あの・・ね・・・ルドルフ。ここ最近貴方の姿を見かけなかったんだけど・・・何かあったの?」
遠慮がちに尋ねるヒルダ。
「え?あ・・ああ、そうでしたね。実はクラスメイトのグレースとノラの勉強を見ていてあげてたんです。」
「まあ・・そうだったの?ルドルフは頭がいいのね?感心してしまうわ。」
「い、いえ・・そんな事は・・。」
ヒルダに褒められてルドルフは顔を赤らめた。
「ルドルフ、それでは来年卒業したら上の学校へ進むの?」
「い、いえ・・・。それは・・無理な話です。僕も本当はもっと勉強したいですが・・経済的に余裕が無くて・・・卒業したら就職します。」
何処か寂しげに言うルドルフの顔を見てヒルダはハッと思った。
(そうだった・・・!元々上の学校へ行くには頭がいいだけではなくて、お金も必要だったわ・・・だから貴族か商家のお金持ちの子供しか進学出来ないと言われているんだっけ・・。)
なのでヒルダは慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい!ルドルフ。私・・・貴方に無神経な事を言ってしまって・・・。」
「ま、待って下さい、ヒルダ様。そんな貴族のお嬢様が・・・僕達のような平民に頭を下げるなんて・・・。」
ルドルフは慌てたように言う。
「だけど・・・。」
その時、ヒルダは思った。
(そうだわ・・・私は来年高等学校へ進むことが決まっている。だったら・・。)
「あ、あのね・・・ルドルフ。提案が・・・あるのだけど・・・。」
「提案・・・ですか?」
「え、ええ。私・・・もう来年は高等学校へ進学する事が決まっているの。だからもしルドルフさえ良かったら・・・週末とかで構わないのだけど、教科書を貸してあげるから・・・勉強したらどうかしら?」
ヒルダは顔を真っ赤に染めながら言う。まるでデートの申し込みをしているような気分になって心臓の音が高まって来た。
「え・・?ヒルダ様・・・。」
てっきりヒルダはルドルフが喜んでくれるかと思ったのだが、彼の声は困惑した声だった。
「あ・・。ご、御免なさいっ!変な事言って・・・こんな提案・・迷惑だったわよね?・・今の話は・・・忘れて・・・。」
ヒルダはスカートを手でギュッと抑えると俯いた。すると、突然ルドルフがヒルダの手を取ったのだ。
「!」
ヒルダが驚いて顔を上げると、ルドルフがじっとヒルダを見つめていた
「あ、あの・・・・。」
ルドルフに手を握られてヒルダは顔を真っ赤に染めた。
「ヒルダ様。実は・・・僕は学校を卒業後の進路がまだ決まっていないんです。町で働くか、それともここではなく、もっと大きな町に出て、その土地で働いて暮らすか・・・。だから、ヒルダ様とお約束できないんです。すみません。」
ルドルフは申し訳なさそうに言う。
「そ、そう・・・だったの・・・。で、でも・・ルドルフがいなくなると・・さびしくなるわ・・・。」
ヒルダの口から思わず本音がポロリと出てしまった。
「え・・?」
ルドルフはその言葉を聞き逃さなかった。
「あ・・な、何でも無いわ!い・今の話は聞かなかった事にして!」
ヒルダはますます顔を赤らめて俯く。するとその様子を見ていたルドルフは優しく笑うと言った。
「本当に・・・ヒルダ様は可愛らしい方ですね・・。」
「え・・?」
ヒルダが顔を上げた時・・・ルドルフはヒルダの額にキスをした―。
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