ごぼうガール

@takahashinao

ごぼうガール

 朝目覚めたらごぼうになっていた。

 ご存知だろう、あの根菜を。


 手足はかろうじて動くが、手足と呼ぶには程遠い。

 ひょろひょろ。

 風になびいた方がよく動くことを、いつもどおり立ち上がり窓を開けたときに気づいた。


 鏡を見ようとしたが、やめた。

 人間だったときにもろくに見なかったものを、今、見なくてもいいと思った。服を着替えて学校に行った。


 日常は何も変わらなかった。

 学校で会った友人は「ごぼうだねえ」と言ったきり、特段そのことに触れなかった。

 友人はただ、他にも野菜になった人がいると教えてくれた。それだけだった。

 私が疎いだけなのかはわからなかったが、私はそれを知らなかった。


 野菜になってなおオンリーワンにはなれないことに自分らしさを感じた。


 変わったことといえば。

 土がやたらと恋しくなった。

 学校からの帰り。

 持てるだけの園芸用の土を近くのホームセンターで買った。

 ふかふかで、あたたかくて、くさい。

 初めて、戻りたいと思った。


 結論、ごぼうになったとて、何も変わりはしないということだ。

 自分で変わろうとして変わったわけではないからだ。

 皮をむくと変色するし、臭いもきつくなるから、そのうち、やめた。

 茶色のからだを抱きしめて今夜も敷き詰めた土に埋もれて眠る。


 別の野菜と一緒に添いとげ、サラダになる夢を今日もみる。

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