第十話 一家と兵士を罠にかける

 食後のお茶を楽しんだ後、相変わらず攻撃を続けている相手の対処に移ることにした。

 ドラドが特にやる気で、機関銃を使わせてくれと強請る。美味しい晩ご飯を食べて気分がいいということもあって、ミニミの使用を許可した。


 M134は秘密兵器にしたいからと言ってやめてもらった。実際のところ、人間相手ではオーバーキルだ。


 わざわざ手の内を明かす必要もないしね。


 カグヤたちは先に風呂に入ってもらおうと思っている。昼間はワイバーンという大物を獲ったのだ。本日最大の功労者は早めに休む権利をあげたい。


 ついでに言えば、その方が早く寝れるだろうからね。


「ナノマシン登録者じゃないと入れないらしいから安心してお風呂に入って。間に合えばブラッシングするからさ!」


「わかったわ!」


「今度は洗って欲しいな!」


「みんなで入れるお風呂をオプションで買おう! そしたら一緒に入ろうね!」


「うん!」


 カグヤの頭を撫でた後、団らんを邪魔した者共の始末をしにいく。


「ドラド、行くぞーー!」


「おぉーー!」


 ドラドは、一階の窓から銃口を出して派手に攻撃して引きつける役。

 俺は二階にあるベランダから、サプレッサーをつけたライフルで離れている敵を静かに倒していく役だ。消しきれない銃声は、ドラドのミニミが消してくれるだろう。悲鳴もあるしね。


 今回使う銃は「L96A1」というボルトアクション式のライフルで、使用する弾は7.62×51mm NATO弾だ。

 ボディーアーマーすら貫く弾だから、人間が着て動けるほどの金属鎧など着てないのと同じだろう。


 まぁヘッドショットを狙う予定だから大丈夫だと思う……多分。


 ――《暗視モード》

 ――《望遠モード》


 視覚情報支援を夜間モードに切り替え、ドラドに通信する。


『ドラド、聞こえる?』


『聞こえるぞ』


『攻撃開始だ』


『了解だ』


 班員のアイコンを選べば、通信やカメラを使った視覚共有が可能なのだ。もちろん、これはオプションである。

 だけど人気が高いオプションでもあった。


 ――ダダダダッ!


 と機関銃の発砲音が聞こえてくる。同時に赤い光点が死亡判定の灰色に変化していく。


「こちらもやりますか」


 指揮官らしき人物を探し、伏射で銃を構える。銃を構えると自動照準機能が作動し、クロスヘアが赤色に変化する。

 そしてどこにいても一度ターゲット認定された者は、構えを解くまで自動で照準を合わせられ逃げることはできない。


 スーハーと呼吸を整えて、スコープを覗いてクロスヘアと重なるときを待つ。


 ――パシッ!


 という空気が抜けたような音がした後、標的の頭が衝撃で揺れてその場に倒れた。

 もっともサプレッサーで減らされた音も、機関銃の発砲音でかき消されているのだが。


 マップで次の標的を探しつつ、ボルトハンドルを引き、排莢と弾薬装填の為のコッキングを行う。


 側面からドラドを攻撃しようとする者や逃げようとする者から狙撃していき、混乱を引き起こしていく。


「こ、降ふ――」


 武器を捨てて降伏しようとしても、無慈悲な弾丸が体を貫いていった。中途半端な降伏ではドラドに届くことはない。

 機関銃を連射している彼には聞こえていないのだから。


 まぁ散々攻撃しておいて、死にそうになったから助けてくれというのは、少々身勝手すぎると思う。


『おい、ディエス! 弾が尽きたぞ!』


『残ってる敵はいないから片付けしに行こう! ミニミは収納していいからね!』


『分かった!』


 比較的綺麗な状態の死体を見ると、どこぞの国の紋章がついた鎧を着ていた。


「こいつらは【聖王国】の者たちだな。何でこんなところにいるんだ?」


「……知り合い?」


「主と行動していた『聖騎士』の出身国だ」


「ここから遠いの?」


「あの寂れた町がドラゴンに滅ぼされた町なら、この森は【絶界の森】ということになるな。小国ならすっぽり収まるくらいの大きさなんだが、【聖王国】はここから南東に行って森を抜けたところにあるはず」


「うーん……。軍事行動中の軍隊を殲滅してしまったか……。まぁ『聖騎士』の国だからいっか!」


「だな!」


 近くに馬車が停められていたから、指揮官用の箱馬車と幌馬車を引いていた馬をもらい、幌馬車に死体を詰めていった。


 その際、金品や紋章がついていない短剣やナイフなどを回収していく。紋章がついていると売却時に面倒が起こるからだ。


 幌馬車は二台あり片方は棺桶にしたけど、もう片方は補給用物資が載せられていたから徴収させてもらった。

 二頭引きの幌馬車を四頭引きにして、元から四頭引きの箱馬車とともに神コテージに戻る。

 だが、戻る前に棺桶馬車に仕掛けを施しておく。上手く行けば鳴子の役割を果たしてくれるだろう。


「これ、どうするんだ?」


「……乗り物」


「…………」


 無言で睨みつけてくるドラドに屈し、急いで弁明する。


「冗談だよ! 冗談に決まってるじゃん! ほら! 今日、物資を買ってた人いたでしょ? あの人が森の方向に向かっていたから、もしかしたら情報を持っているかもしれないでしょ!? 情報料には物資の方がいいかなって!」


「……冗談は一回だけだからな」


「ありがとう!」


 ドラドはケットシーだから、動物と意思疎通ができるという。俺もドラドも御者ができないのだが、馬は迷うことなく神コテージに辿り着いた。


 神コテージには庭があって、囲うための専用の柵がある。馬たちにはそこに入ってもらい、結界の恩恵を受けてもらう。


 後始末が終わった俺たちは風呂に入って就寝した。

 この日は結局ブラッシングという至福の時間は味わうことができず、ベッドに入って速攻で寝た。


 何故か枕を持ってついてきたドラドと一緒に寝れたことが、唯一の癒しである。


 ◇


 翌朝。前日と同じく、毛布代わりに抱きついてくるドラドのおかげで目が覚めた。

 モフモフモコモコと柔らかい虎毛が体を包み、ドラドの体温が心地よい。呼吸に合わせて動くお腹が腕に当たるのも気持ちよく、そして愛おしい。


 今日は手を動かさずにいようと決めていたのだが、俺には無理だった。


 据え膳食わぬは男の恥という言葉をご都合解釈して、ドラドをモフモフする。


「……なにしてるんだ?」


 結果、気づかれた。


「……起こしてた」


「……そうか」


 言い訳を真実にするために顔を洗ったり歯を磨いたりと朝の支度をして、神スマホでアバターリストに登録しておいた装備を自動で装備した。


 両腕を広げているだけで自動換装されるのだ。


「そ、それいいな! おれはできないのか?」


「できるよ。やる?」


「やるーー!」


 ベストとポーチにスリングをつけたM870を登録して、料理長コスチュームも登録しておいた。

 《カーゴ》やアバターリストの登録は、元々所持していた異世界産の物も登録できた。


 だから、養母さんにもらった調理器具を《カーゴ》に入れ、コスチュームをアバターリストに登録したのだ。

 快適な仕事を環境を用意するから、美味しいものをたくさん食べさせて欲しいと言ったら、「任せろ!」と言ってくれた。


 頼もしい虎さんである。


 ついでにティエラとカグヤの分も設定しておいた。女の子は準備が大変だからね。


 ちなみに彼女たちはすでに起きていて、庭にいるお馬さんと対面している。

 アラクネであるカグヤと早めに対面させて、ティエラの魔法で恐慌状態にならないようにならしているそうだ。


「朝食は?」


「サンドイッチだ。昨日作っておいた」


「何サンド?」


「野菜サンドだ」


「え? 卵は?」


「卵は高級品だろ?」


「冷蔵庫に入っているのはなくならないから、どんどん使ってくれていいんだよ!?」


「……その言葉は昨日聞きたかったな」


「……ごめん」


 仕方ない。今日は野菜サンドで我慢しよう。


 それにしても、卵は高級品なのか……。まぁ馬車しかなかったらそうなるよな。


 ◇


 美味しい野菜サンドを食べた後、早速出発しようと神コテージを収納して馬車に乗り込む。

 女性陣は箱馬車内に入り、御者台にはドラドと俺が座る。幌馬車の馬たちにはついてくるようにドラドが指示を出し、南を目指しながら森の中を進み始めた。


 しばらくすると、遠くの方から「ドンッ」と爆発音が鳴った。

 音の発信源を見てみると煙が上がっており、鳴子が機能したことが分かる。


「アレって、昨日のヤツか?」


「そうだ。仕掛けたトラップにかかった馬鹿がいたみたいだ」


 馬なしの馬車から兵士の足だけを出して注意を引き、垂れ幕をめくったらピンが外れるように手榴弾を設置してきたのだ。


 証拠隠滅と陽動のためでもある。


 寂れた町でパー・プーさんが、【聖王国】に引き渡せばお金がもらえると言っていた。

 つまり、あの町の何人かは【聖王国】の協力者ということになる。


 でも今回の爆破で協力関係に疑心暗鬼が生じたはずだ。

 なんてったって、爆破位置は町のすぐ近くの森の入口で、近づいて幌をめくった瞬間の爆発である。狙撃しかないと思うはず。


 その場合の第一候補地は寂れた町になる。


 仮に引っかからなくても、爆撃魔法が使えるというブラフが張れるから問題ない。


「おい、囲まれてるぞ?」


「そうだね。囲んでくれてありがとうと思ってるよ」


「……なんで?」


「情報を持ってきてくれたってことでしょ? それに盾があるし」


「それもそうだな!」


 我が家の優秀な子たちの索敵能力は高く、御者台から車内を覗くと、すでに完全武装で銃を構えた姿があった。


『二人とも撃っちゃダメだからね!』


『『はーーい!』』


 やる気のない返事に少しだけ不安が残る。ドラドも含め、みんな好戦的だからね。


「そこで止まれ!」


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