第十一話 盗賊エルフを撃退する
止まれと言われて止まる馬鹿はおるまい。
「はーい! 止まりまーす!」
だが、あえて止まろう!
「――え? 止まる?」
「止まりました。――それで? 何か?」
「す、素直ではないか! さすが【落ち人】である! 奴隷根性が染みついていると見える!」
「だから、何か用なんですか?」
また【落ち人】かよ。差別対象とか言ってたけど、こんなところに隠れ住んでいる人たちも、もれなく差別しているとは思わなかったな。
サイコパス神が言っていたことが本当なら、同じ引きこもり仲間なんだから仲良くやろうぜ!
「いいだろう! 特別に教えてやろう! その馬車と物資を献上する栄誉を与え、私に飼われることを許そうではないか! 嬉しいだろ?」
「これが盗賊ってヤツか! テンプレ来たぁぁぁぁ!」
「盗賊!? 我々が盗賊だと!? 【落ち人】の分際でッ! ――戦闘準備ッ!」
「盗賊でなくても卑怯者ではあるでしょ? 隠れて話しているし、神官を襲って物資を奪おうとしてるし。まぁそちらが戦闘を仕掛けるなら、こちらも自衛させていただきますよ」
「ほざけぇぇぇぇぇーーー!」
と叫びながら馬車の前に姿を現したエルフ風の男。
耳が長く金髪碧眼の色白ガリガリ男くんである。
刷り込まれた知識からエルフらしいことは分かるけど、病気を疑うほどにガリガリで思わず心配してしまった。
「え? お腹空いてるの? ガリガリじゃん!」
「――貴様ぁぁぁぁぁーーー!」
「『神官様! お恵みを!』と言えば、分けてあげないこともないんよ? 神官も分け隔てなく人助けをすることが許されていないけど、縋る者たちには何かしてあげたくなるものです」
何で? みたいな顔をしているドラド。可愛いから教えてあげよう。
『スラムの人や犯罪者を優先していると、御布施をしてくれる人が怒るでしょ? 多くの貴族や富裕層が御布施をやめてしまったら、治療院や孤児院の経営ができなくなるんだよ。それに神官にも生活があるしね』
『……なるほどな。おれたちの生活も大事だもんな!』
『そういうこと』
通信でドラドと会話していると、ガリガリ男くんは全身を震わせて倒れてしまった。
血圧上がりすぎちゃったのかな?
「よいしょっ!」
ガリガリ男くんに近づいて、彼が持っているナイフを抜く。体を引き起こして首元にナイフを近づけ、周囲の者に告げる。
「武装を解除して出てきて整列してください。五秒経つごとに一箇所ずつ刺していきます。それでは、ひとーつ。ふたーつ。みーつ。よーつ」
手を振り上げたところを狙っているのだろうが、そんなことはしない。
囲むと言っても馬車があるから半分は死角だ。もう半分をガリガリ男くんの体で隠せば刺し放題である。
「五つ!」
脅しだと思っているようなので、ズボンを下ろしてフルチンにした後、尻にナイフを突き刺す。
「ガアッ――」
ガリガリ男くんがうめき声を上げる中、俺はドラドとの会話を楽しんだ。
「お尻に穴が開いた!」
「元から開いてるだろ!」
「違うよ! えくぼができたんだよ!」
「片えくぼだな!」
「キュートだろ?」
「まぁ唯一ガリガリではないところだからな。でも、不浄な部分だから見たくはないな」
と言いつつ、ドラドもガン見して笑ってるけどね。
「次行くよーー!」
さすがに尻から流血しているのを見て本気だと分かったようで、エルフが森の中からゾロゾロと現れた。
「ひとーつ。ふたーつ。みーつ」
「待て! 出てきただろ!」
「よーつ。全員じゃないし、整列していないので! 五つ!」
今度は胸の中心を浅く刺した。……少しひねりを加えたけど。
「ギャァァァァーーー!」
「三つ目の乳首だぞ!」
「ドラド、違うよ。第三の目だよ!」
「それはおでこだって聞いたぞ!」
「……よく知ってるな!」
「まぁな!」
俺とドラドだけ、ほのぼのとしたときを過ごしていた。
ティエラたちは魔法で認識阻害をしており、未だ出てきていない者たちに照準を合わせ続けてくれている。
彼女たちがいなければ盗賊相手に遊ぶことなどせず、とっくの昔に乱射していた。
「……全員出てこい! そして並べ!」
「ひとーつ。ふたーつ。みーつ。よーつ。いつーつ! はい、えくぼ!」
「揃ったーー!」
今度のカウントは早くしてみた。
「早い……早いではないか!」
「『天使の顔は三度まで』って言葉知ってる? 三度まで許すって言葉じゃないよ? 繰り返す度に怒りが蓄積していくって事だよ? もう三度だけど? いつになったら理解するのかな? それとも、致命傷を負わせないと思って高をくくってるのかな? 次は女の子にしちゃおうかな!」
「早く並べ! 殺すぞ!」
俺とやり取りする男が弓を引き殺気を放ったことで、ようやく全員が出てきて並び終えた。
「……遅いよ。君たちは自分の立場を分かってるかな? 盗賊は犯罪だよ?」
「お前は【落ち人】だろ!? 【落ち人】から奪っても犯罪にならねぇんだよ!」
遅刻してきたヤツがイキる。
「はい、ドーン!」
ガリガリ男くんの尻を一突き。
「ギャァァァァーーー!」
「なっ――! 卑怯だぞ!?」
遅刻してきたヤツ――遅刻魔が卑怯とさえずる。
「え? え? なんて?」
耳に手を当て聞き返す。
「卑怯だって言ってるんだよ!」
「大勢で神官を襲うのは卑怯ではないと? 隠れたところから攻撃するのはいいとして、人様の物資を奪うのは卑怯ではないと? エルフとは誇り高い種族のようですね。蛮族の鑑だ! この話は世界各地のエルフにしてあげなければ!」
「生きて帰れると思うのか!?」
「俺たちが死ぬ前にガリガリ男くんが死ぬと思うけど。いいのかな?」
というか、何で並ばせたかも分かっていないだろうな。
全員が並んだ後、ドラドが無言でミニミを構えていることを疑問に思って欲しい。
遮蔽物がない至近距離で機関銃の制圧射撃を喰らうとか、死神に自ら魂を捧げる行為である。
つまり、もう詰んでいるのだ。
「戦いに犠牲はつきもの――」
見捨てる発言をした遅刻魔は、真っ先に出てきた男に首チョンパされて犠牲になった。
「確かに犠牲はつきものだ。――阿呆が失礼を働いた。誠に申し訳なかった。許して欲しい」
「……宗教とは許すのが仕事です。一度目は許しましょう。悔い改めてください。あなたたちは更生できるのですから。……彼と違って」
許すとは言ったが、解放するとは言っていない。だから、ガリガリ男くんはまだフルチンである。
「……物資の取引をしたいのだが、村長と話をしてくれませんか?」
「いいでしょう。彼は取引完了後に引き渡そうと思いますが、よろしいでしょうか?」
「……はい」
保険は必要だよね。
ちなみに、死体は俺がやったわけじゃないから無視だ。
ドラドはついに御者の役目を放棄し、馬たちに任せていた。ドラドはミニミを構えたまま警戒を続け、俺はガリガリ男くんを引きずるようにして歩いている。
無言のまま歩き続けてること十数分。
森の中に丸太で組まれた防壁が見えてきた。
物見櫓にいる弓兵が、俺たちに狙いを定めて弓を引く。
その行動に連動して、ガリガリ男くんの首元にナイフを近づけた。
「待ってくれ! やめさせるから待ってくれ! おい! 客人だ! 弓を下ろせ!」
……一向に弓を下げる様子がない。
もしかして、ガリガリ男くんたちは見限られているのかな?
「あの。俺たちの攻撃が向こうに届かないと思ってます? まだ自前の武器を使ってないのに?」
俺はずっとガリガリ男くんのナイフを使っていて、手札を一つも切っていない。
ナイフを持っているからナイフしか使えないというのは、あまりにも盲目的だと思わざるをえない。
俺の言葉でようやく気づいた交渉役の顔が、徐々に真っ青に変わっていく。
しかもそれだけではなく、我が家の天才スナイパーが弓兵に狙いを合わせている状態だ。矢を放つ前に、12.7x99mm NATO弾が頭を粉砕しているだろうよ。
「また五つ待ちましょうか?」
「すぐに下ろさせるから、お待ちいただきたい!」
慌て過ぎて言葉遣いがおかしくなっている。
「そうですね。五分だけですよ?」
「感謝する!」
深々と頭を下げた後、防壁に向かって走って行った。なかなか門を開かないことにキレた彼は、門を吹き飛ばそうと魔法の準備を始める。
直後、門が開いたことで事なきを得たが、代わりに門衛が殴り飛ばされていた。……不憫だ。
まだまだ時間があるなと思っていると、彼は村内に駆けて行ったと思ったら誰かを担いで戻ってきた。
体つきがしっかりしているから分かりにくいが、どうやら老人のようだ。多分、担がれている人物が村長だろう。
「ただいま戻りました! 交渉をお願いいたします!」
「お手数かけます」
「何だ! 何をする! 交渉とは何だ!」
まぁいきなり担がれて連れて来られれば喚いても仕方ない。むしろ同情する。
「初めまして。神託騎士――オラクルナイトのディエスと申します。この度は物資が入り用と言うことでしたので、話し合いの場を設けました。御理解いただけましたか?」
「なっ――! オラクルナイトだと……!?」
「おや? ご存知でしたか? この留具が証となっております」
「……間違いない。しかも創造神様の証だ。しかし……」
チラッと俺の頭部を見る村長。
口にこそ出さないが、【落ち人】が何故? とでも思っているのだろう。
「お前たち……無礼は働いていないだろうな?」
「そ、それは……。村長、オラクルナイトとは何です?」
村長が交渉役の男に問いかけているが、ガリガリ男くんは目に入らないのだろうか?
「オラクルナイトとは、簡単に言えば人間を助けてくれる監視者だ。対となる存在に【使霊獣】様がいるが、あの方たちは人間を助けない監視者で、むしろ罰を与える方々だ」
「――え? それでは使徒ということですか?」
「当たらずとも遠からずと言ったところか。各神が神官騎士の中から一人ずつ選んだ者たちだが、同じ神のオラクルナイトに二人同時に選ばれた者たちがいた。長い歴史の中で唯一のことで素晴らしく有名なことだと思ったが、長命種や教会関係者以外でオラクルナイトを知る者は少ないようだな」
「村長、その方々は?」
俺の疑問を交渉役が代わりに聞いてくれる。
「何だ、知らんのか? 勇者様と賢者様のことではないか」
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