第二話 イケメン種族に転生する

 目の前に広がるのは草の絨毯。ところどころに咲く花々が、色彩を豊かにして目を楽しませている。おかげ一目で違う場所に来たことが理解できた。


「ここはどこ?」


 そういえば聞き忘れたけど、この世界にステータスはあるのか? レベルは?


「とりあえず転移門が設置されているところを捜すか。養父さんたちなら住居くらい用意しているだろ」


 イジメなのか知らないけど、このパンツ一丁の姿をなんとかしたくて仕方がない。スマホもないから服も用意できない。


 立っている場所で一回転すると、半周を少しすぎたところで石造りの建物を見つけた。そこまで遠くないから走って向かうことにする。


 走り始めてすぐに気づく。


 体が異常なくらい軽い。身体能力の向上が走っただけで分かるほど、この体の身体能力が高く優秀らしい。


「全然疲れなかったな。これはいい!」


 新しい肉体に感動した後、石造りの建物に入っていく。見た目は洋風の石造りなのに、扉を潜ってすぐに現れたのは土足厳禁の日本の玄関だ。


 そして下駄箱の上には、念願の手紙とスマホが置いてある。


 やっとか……と思った直後、それよりも気になる物が下駄箱の横に置かれていた。

 物自体はどこにでもある姿見である。

 気になった理由は、映っている自分の姿が生前とは別物すぎたからだ。


「白髪の鬼じゃん……。根元に向かって黒くなる赤い二本の角が、本物の鬼っぽさを醸し出している気がする……」


 でも、角を気にせず鏡を見ればかなりのイケメンである。体毛は白いけど、美白な高身長マッチョは老若男女憧れの肉体ではないか?

 金色の瞳も魅力の一つだし、短髪なところも清潔感があって好感が持てるはず。


「これで翼が生えていたら天使じゃん!」


 サイコパスも分かってるじゃないか! と感心しながら手紙を開く。


『十蔵さん、転生おめでとうございます! パチパチッ! 連絡事項があったのを忘れていたので、お手紙を書かせていただきました! 決して、ミスでパンイチで放り出したわけではありませんよ! 鏡で見てもらおうとですね……!

 まぁそれはさておき、生前の貯金は【ディネ】に変換してあります。一ディネ、一円と考えていただければいいかと。それと個人的に持っていた私物もコテージに放り込んでおいたので、安心してください!

 次に言語ですが、安心してください! 刷り込んでますよ! この世界の基本的な知識や能力に関する知識と一緒に。

 最後に、ステータスやレベルはありません。だから、あなたのゲーム内のレベルを撤廃しました。代わりに、あなたは神様製のスマホを使えば、自他の能力が分かるようにしておきました! すごいでしょ!? それでは神様に感謝をしながら長生きしてください!

 PS.いくらイケメンでも地位は変わらず、相手にしてくれる天然記念物は絶滅危惧種です!』


 グシャッ!


 途中までは感謝していたのに……。余計な言葉を見て、思わず手紙を握りつぶしてしまった。


「サイコパスのことは諦めよう。彼は更生できない。それよりも服を着よう!」


 金色の太陽と虎、銀色の月と狼柄の銅色カバーに包まれた神様製スマホを持ってリビングに向かう。もちろん、足を拭いてからね。


 ん? 庭になんかいる?


 大きな透明の窓に近づき、外にいる何かを確認する。何かも俺を見つめている。


「虎……?」「誰だ?」


 ほぼ同時に出た言葉に驚くも、それよりも驚くことが遅れてやってきた。


「しゃべったぁぁぁぁーーー!」


「うるさいぞ! というか誰だ!? 何でその家に入れる!?」


「――あっ! ペットって虎のことか?」


「おい、答えろよ!」


「うるさいわね! 何を騒いでるの!?」


「ティエラ、家に誰かが侵入したんだ!」


「――何ですって!?」


「ふ……ふ……増えたぁぁぁーーー!」


 ◇


 窓を挟んだ騒ぎはしばらく続いたが、幸いなことに窓があるおかげで暴力沙汰になることはなかった。

 落ち着きを取り戻した後に、窓越しでの話し合いを行った。


「じゃあ何? あなたはわたしたちの主様から、わたしたちの世話を頼まれた御子息ってこと?」


「正解! 見た目のせいで信じられないのは分かるけど、これは神様のせいだからね!」


「じゃあ両親の名前を言ってみなさい!」


「『月影真』『日吉渚』で、俺は『月影十蔵』だ!」


「確かにこちらではその名前はわたしたちしか知らないけど……。じゃあわたしたちの名前は?」


「それなんだけど、聞いたままを言わせてもらっても怒らないでよ? 両親に聞いた通りのことを言うんだからね?」


「ん? 間違っても怒らないわよ! 追い出すだけだから!」


「……犬は『ティエラ』で女の子。猫は『ドラド』で男の子」


「「誰が犬(猫)だーー!」」


「……だから言ったじゃん。怒らないでよ? って」


 俺は、モフモフの動物が好きならペットの面倒を見て欲しいと頼まれた。犬と猫だから大丈夫と言われていたのに、目の前にいるのは狼と虎だ。


 全然違うだろ! と抗議したい……。


 しかもしゃべるとは思わなかったから、パニックになってしまった。


「……まぁ、犬猫と聞いていれば驚くのも無理はないわね! それで見た目はともかく、何であなたは裸なの?」


「それも神様のせい! 服を着ようとしたら、ドラドくんと目が合ってしまったというわけだ」


「ふーん……。それで【落ち人】のあなたがこの世界で何をするの?」


「【落ち人】? 異世界人のこと?」


「異世界人のことは【異邦人】と呼ぶわ。【落ち人】は、神の落胤で祝福を受けられなかった者の事を指すの。端的に言えば足手まといね」


「あぁ、なるほど! 差別用語ね! てっきり異世界から落ちてきた人のことを言うのかと思った!」


 それにしても異世界人の通称があるということは、異世界人がいるってことだ。同じ世界出身者がいた場合、日本らしい十蔵はやめておいた方が良さそうだな。苗字もやめておこう。差別対象者が、苗字を持っているはずがない。まぁ武器でバレそうだけど、それはそれとして黙秘しよう。


「それで力がないあなたが何をするの? わたしたちと一緒にここに引きこもるのかしら?」


「力はあるから大丈夫! 神様に気になることを聞いたから、引きこもることはしないよ。そうだ! 友好の証にお見せしよう!」


 神様製スマホ――略して神スマホのカバーを開くと、ナノマシン認証なる画面が表れた。

 指を当てるように指示されたため、画面に右手の人差し指を当てる。直後、バチッと静電気が起こったみたいな痛みに襲われる。


 これが認証の準備だったようで、ホーム画面が映った。右下にデフォルメされた神様がいるのがウザい。消せないかな……。


 スマホには基本機能を除くと、【世界の境界】のアプリが入っているだけだった。


 【世界の境界】は両親が創ったゲームで、近未来的な世界に突如幻想地下世界へと繋がる門が発生し、幻想地下世界から流出する侵略者や魔物から世界を守る幻想戦士になるというMMORPGだ。


 ただし、武器に銃器やSF武器が含まれる。


 コアなFPSプレイヤーやMMORPGプレイヤーには、どっちつかずで邪道だと言われていたが、ガチ勢が多いFPSはハードルが高いという人には人気だった。


 しかもどちらかといえばMMORPGだから、生産や商売もできるところもよかった。ゲーム内で稼いだお金で装備が購入できるから、無課金者にも充実した装備を揃えることができるのだ。


 両親が創ったゲームでテスターも兼ねていたし、ボッチだった俺がコツコツとできるゲームということで、【世界の境界】しかやって来なかった。おかげで、装備の充実度は誰にも負けないと自負している。


 ミリタリー知識は乏しいから、効率よく使えているかは分からないけどね。


 閑話休題。早速起動してみよう。


「おぉーー! ほとんど同じだ! まずは服かな。装備も決めないと!」


 ――《コンテナ》


 《コンテナ》は簡単に言えばアイテムボックスみたいなもので、基本的な大きさは四十フィートコンテナサイズだ。

 条件やオプション次第で最大五個分までの拡張や複数所持が可能で、特殊な個別設定も可能である。


 たとえば時間停止機能を持たせたり、設備を揃えてコンテナハウスにしたり。

 コンテナハウスは特に優れていて、扉を閉めれば亜空間内で生活できる。まぁ居すぎると、強制的に外に出されるけど。


 俺はアバター専用倉庫にしている《コンテナ》を出す。目の前にはコンテナの扉が表れ、扉を開けて中に入る。


 扉の中身を窓の外から見えるように設置したから、ペットたちにも同じように見えているはず。


「な……何それ!」「何だよ、何だよ!?」


「ふふん! すごいでしょ!?」


 思わずドヤ顔をしてしまった。


 まずはインナーを着て、パワードスーツを装着する。俺のサイズに最適化されている上、そこまでゴツゴツしてないから装着感が抜群に良い。


 次は防具だけど、この世界の装備に近くてガチャガチャしないものか……。甲殻鎧風のボディーアーマーかな。一部を布で作ってるから動きやすいし、パワードスーツを丸ごと隠せるはず。


 タクティカルベストやカジュアルアバターは、悪目立ちすること間違いない。強度も心配だしね。


 情報処理端末はヘルメット型ではなく、ヘッドセットタイプにしよう。普段はス○ウターのように縮小しているが、スイッチ一つでサングラス状態になるタイプだ。


「ん? これが騎士の外套か……。派手だな……」


 外套を選ぼうとすると、一際目立つ外套か目に飛び込んできた。


 白を基調にした外套に、神スマホのカバーと同じ柄の刺繍が金糸と銀糸で施されている。あの柄が好きなのか?


 黒いボディーアーマーの上から外套を纏って姿見を見ると、騎士らしいとは言わないまでも、一端の戦士には見えるから不思議だ。


「どうよ?」


「だからぁ、それは何なのよぉぉぉ!」


 窓に貼り付いてガン見しているモフモフコンビは、俺の姿を見て絶叫するのだった。


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