第三話 モフモフ従魔を入手する
窓に貼り付くモフモフが可愛い。
ブーツを持って《コンテナ》を閉め、モフモフに会いに庭に行く。
「どうよ、どうよ? 大丈夫そうでしょ?」
「だからぁぁぁーー!」
「分かった! 説明するから! 簡単に言えば固有スキルなんだって。前世に両親が創ったゲームを、こっちの世界で使えるようにしたらしいよ。今は武器を装備してないけど、武器も強力だから戦闘能力は心配いらないと思う!」
「それはMMORPGというヤツか?」
虎のドラドくんからまさかの言葉が飛び出した。
「え? 知ってるの?」
「主の能力も主たちが遊んでたゲームが元だったからな。それで、その能力はおれたちにも使えるのか?」
「え? 両親の能力は使えたの?」
「使えなかった」
じゃあ無理なんじゃないのか? ――いや、待てよ。認証したときにナノマシン登録をしたな。ナノマシンが鍵になってるなら……。
「ちょっと待ってて!」
――《コンテナ》
武器庫のうちの一つを選択して、サバイバルナイフを一つ取り出す。
「これを持ってみて。……持てるなら」
虎の姿でナイフを持てるのかという疑問が、ナイフを渡した後に湧いてしまった。もっと早く気づくべきだった。
「持てばいいのか?」
「……持てるなら」
ドラドくんは二足歩行になりナイフを持とうとするも、ナイフはドラドくんの手に当たるとスッと消えてしまう。
でも俺はそんな予想していたことよりも、二足歩行になったドラドくんの方が気になって仕方がない。
「おい、消えたぞ!」
「――ドラドが……立った!」
「それはもう主のときにやった! おれもティエラも妖精種のケットシーとクーシーだから、二足歩行もサイズ変更もできるし話せるんだよ!」
「なるほど! あと、消えたのは予想してたから大丈夫!」
「……じゃあ無理なのか」
「いや、まだ検証は終わっていない」
刷り込まれた知識によると、スマホのアンテナ部分からマイクロチップを射出できるらしい。
これを打ち込めば従魔にできるらしく、ナノマシンの情報が打ち込まれれば【世界の境界】も一部使えるようになる気がする。
違った場合は問い合わせをしなければ。ペット問題が解決していないと。
「俺は魔力がないんだ」
「知ってる」
「魔力がないと従魔を持てないんだ」
「それも知ってる」
「従魔を持つ方法が小さい機械を埋め込むことなんだ」
「それをすれば能力が使えるのか?」
「可能性は高い」
「やる」
ドラドくんは即答したけど、怖くはないのかな?
「じゃあ首の付け根に打たせてもらうよ」
「やってくれ」
神様製だから痛くないと思うけど、俺もやったことないからな。
「じゃあ失礼して……」
首元をモフモフする。手を包み込むフワフワモフモフの虎毛が俺の手を喜ばせている。俺の手が、細胞レベルで喜んでいる!
「……おい!」
「すまんね。つい……」
ジト目を向けられて注意されたことで、なんとか我に返る。あのまま進んでいたら全身をモフモフしていたことだろう。危ない危ない。
気を取り直してマイクロチップを射出する。
「まだか?」
「え? 終わったよ。今はスキャンしてるみたいだから、少しそのままで待ってて。というか、痛くなかったの?」
「全く! 何も感じなかったぞ!」
「そうなの? まぁ痛いよりはいいか!」
スキャンは本当だが、別にくっついている必要はない。ただモフモフしたいだけだ。
――ピーーッ!
どうやら幸せの時間は終わりを迎えたらしい。画面に「終了」の文字が表示され、二足歩行のドラドくんのアイコンが追加された。
何気に家族以外で初めてのアイコン登録である。班員登録時に使用するので、ボッチには不要の機能だった。
「じゃあもう一度ナイフを持ってみて」
「……分かった」
ドラドくんは不安そうにナイフを受け取る。
「き……消えないぞ!」
今度は消えなかった。
「ナイフはクリアだね! じゃあ次――」
次々に《コンテナ》を出して武器のグレードを上げていったり、コンテナ内に入れるかを試したりした。
結果、神スマホの操作ができないから補給は俺を経由するしかないけど、基本的な機能は全て使えることが判明する。
「これでマイクロチップがあれば、能力の貸与が可能になると分かったわけだけど、ドラドくんたちはどうする? 何かやりたいことある? 俺は神様が言ってた両親が勇者と賢者であるということと、はめられて処刑されたことを調べたいんだけど」
「お前の親が勇者と賢者っていうのは本当だ。はめられたってのはよく分からないけど、待ち合わせに来ない主たちを捜しに行ったら、一緒に行動してた『聖騎士』が主たちを断崖から突き落とすように命令していた! おれたちは隠れていて、落ちる直前に主たちを掴んでここまで逃げてきたんだ! あの時、おれに戦う力があれば……!」
虎さんなのに? 事情があるのかな? だから能力が手に入るなら、マイクロチップくらいどうってことないと思ったのかな?
うーん……。
「じゃあ一緒に調べに行こうか? もちろんそれだけじゃなくて、両親の教えに従って手の届く範囲内での人助けや、冒険なんかもいいんじゃないかな? 俺はドラドくんたちとたくさん遊んで欲しいって言われたからね! どうだろう?」
「……一緒に行ってもいいのか? おれは珍しい個体だから迷惑を掛けると思うぞ?」
「ん? 色が金色っぽいのが? この刺繍の子がドラドくんなの?」
「それは【使霊獣】様で、おれじゃない。金色っぽいのもそうだけど、虎型ケットシーだからだ。普通はもう少し小さいんだ」
「なるほど! 百八十センチくらいある俺より少し大きいもんね! まぁ大丈夫でしょう! 神託騎士の従魔に危害を加えるのは、神罰対象だって言えばいいし、そもそも俺も【落ち人】っていうのらしいからお互い様だよ!」
「……そうか。ティエラともう一体も一緒にいいか?」
「一緒に行きたいならいいけど、無理矢理はダメだよ。両親に怒られてしまう」
夢に出てくる可能性大である。
「話してくる!」
ポテポテと走って行く姿が可愛い。ドラドくんはポッチャリ体型だから、可愛さが倍増するのだ。パンダみたく丸くコロコロした動物がたまらなく好きだから、是非とも癒やしのために一緒に来て欲しい!
「連れてきたぞ!」
「早かったね」
「ティエラがすでに話してあったみたいだからな!」
なるほど! しっかり者のお姉ちゃんって感じがするもんな。飼い主に似るって本当なんだな。ドラドくんは養母さん似の好奇心旺盛な自由人タイプだ。物怖じしないところはいいけど、問題を引き寄せることもあるから注意せねば。
「ティエラからお願いがあるらしいけど……いいか?」
「いいよ」
「主様の子どもが主様がいなくなる前に誘拐されたんだけど、現在も生きているか確認したいの。旅の目的に娘さんの生存確認も加えてもいいかしら?」
「え? こっちに子どもいたの? だから……向こうで子どもつくらなかったのか? 何年前のこと?」
「四十年くらいよ」
「マジか……。最低でも四十歳か……。誘拐も『聖騎士』の仕業なら、目的の一つに含まれるから問題ないよ」
「本当! よかった!」
銀色狼のティエラちゃんのモフモフもしっかり堪能して、もう一体の子を捜す。どんなモフモフかなと、心躍らせてキョロキョロと辺りを見回す。
「あれ? もう一体いるんでしょ?」
「その子は人見知りなんだ! 今まで勇気がなくて進化しなかったけど、親友のおれたちと一緒に行くために進化してくれたんだ! 人間は怖がるから嫌われたくないと、主たちも姿を見たことないんだ! だから傷つけないでくれよ!」
「まだ見てないから何とも言えないんだけど、進化した理由って銃を使うため?」
「そうだ」
「じゃあ大丈夫だと思うよ。ドラドくんたちは怖くないからね!」
「……だそうだ。出てこいよ!」
「……」
庭の端にある林に向かって声をかけるドラドくん。少しの間を置いた後、下を向きながら女の子が出てきた。
一目で女の子と分かるが、姿は人間でもモフモフでもなかった。よく見れば一部モフモフだけど。
「アラクネ……かな?」
「……そうだ」
「アラクネの子どもかな?」
「違う。進化直後だから小さいんだ。蜘蛛歴は長いから十分強いぞ! おれたちをずっと守ってくれてたんだからな!」
「そうなんだ。とりあえず……服着ようか! 上半身裸はちょっと……。子どもの半裸は犯罪臭がする。さっきまで人のことを言えない格好だったけども」
「……何とも思わないのか?」
「何で? ある程度予想してたし、赤い目だけど体や髪の色は白だから親戚の子みたいに感じる。それにドラドくんたちの親友なんでしょ? 一人で置いていくなんて可哀想だよ」
「ありがとな。そうだ! 名前をつけてやってくれ!」
「うーん……。俺の苗字が月影って言うんだけど、月に関係する神様で姫様でもある方の名前をいただこう! 『カグヤ』なんてどうかな?」
ぱあっと笑顔が浮かんだことを見るに、名前を気に入ってくれたらしい。良かった、良かった!
「お前の名前は何にするんだ? 主は本名はやめた方がいいって言ってたぞ!」
名前を決めたあとマイクロチップを埋め込みスキャンしていると、ドラドくんに重要なことを聞かれた。
今まで名前をどうしようかと問題を後回しにしていたけど、答えを出す時が来たようだ。
「やっぱりか。ドラドくんたちしか本名を知らないって言ってたもんね。……『ディエス』にする! 数字の十を意味するからね!」
両親につけてもらった名前に近いものが良かったから、カッコいいと思って覚えていた言葉を使うことにする。
「良し! これからはお互い呼び捨てな! よそよそしいのはイヤだからな!」
「分かった!」
握手を交わすついでにモフモフしておく。
「……お前もなのか?」
「……何が?」
「主と同じモフモフが大好きなのか?」
「……大好きです!」
「……気をつけなければ!」
クソ……。警戒心を抱かせてしまったか。少しずつ近づけば良かった。
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