勇者の息子は従魔と神託騎士になる~FPSとMMORPG能力で自由気ままに人助けをします~

暇人太一

第一章 神託騎士への転生

第一話 サイコパスの騎士になる

 俺は月影十蔵、元サラリーマンだ。そんな俺は今、生前贈与でもらった無人島に来ていたはず。


 だが、目の前に広がる景色は白一色。


 無人島って天まで届く塔の上にあるのか? 修業のための部屋に迷い込んでしまったのか?


 ――ねぇ、どう思います?


「誠に――申し訳ありませんでした!」


 目の前で土下座をしている少年に視線を送ると、少年は謝罪の言葉を口にした。


「でも……でも、あなたも悪いんですよ! トロトロ、トロトロと! さっさと扉を潜ってくれなかったから、僕が背中を押してあげたんです!」


 はぁ!? 開き直るとは何事だーー! というか、何で声が出ないんだよ!


「それは……あなたが死んだからですね」


 ――はい? なんて?


「あなたは、コテージごと消滅しました」


 ――復活を希望する!


「無理です。消滅したら奇跡は起きません。ですが、この僕が魂だけ救い出しました! 感謝して下さい!」


 ……殺したのは、あなたでしょ?


「……誰かに操られていたんです!」


 無理だろ、それはっ! さっきトロトロって言ってたじゃないか!


「……そのときも操られていたんです! 信じてください! 僕は無実です!」


 俺はサイコパスの相手をしたくない……。奇跡が起きないなら、さっさと輪廻の輪に加えてください。


「あれ? あれれ? 諦めるのが早すぎですよ?! あなたはやり直せるんです! 一緒に頑張りましょう!」


 言い方! ソックリそのまま返すよ!


「あなたの新天地は、僕の担当施設だから安心していいんだよ! そこでやり直そう! 今は苦しいと思うけど、きっと思い出話にできる日が来るから!」


 俺を殺したヤツが管理している場所とか安心できないし、今苦しんでいるのはどこぞのサイコパスのせいだよ!


「……僕を操っていたヤツのせいだね?! 同じ被害者としてシンパシーを感じちゃった! だから目いっぱいサービスしちゃうぞ!」


 俺はシンパシーを感じない。同じ被害者でもないし、加害者と被害者は同じ立場じゃないし。


「はい! 細かいことはここまで! 建設的な話をしましょう! あなたは、僕が管理する【ハルディン】という世界に転生します。消滅が想定外だったから、体を一から創らなくてはならない状況になりました!」


 自業自得だな……。


「えぇ、えぇ。分かっていますよ。不安なのですよね? 大丈夫です! ちょうどいい死体がありましたので、複製して改造しておきましたから! きっと前世よりは快適に動けますよ!」


 話が噛み合ってない……。しかも死体を複製して改造とか……悪魔の所業じゃないか。


「悪魔と同じにしないでいただきたい! 僕は遊戯を司る神であり、創造神の一柱なんだよ! あのクソ共と同じ扱いは御免被る!」


 めちゃくちゃ怒ってるけど、俺も一応怒ってるんだけどね。そこはスルーするのかな?


「……コホン、コホン! 体に関して質問があるなら受け付けるよ?」


 ……まぁいいか。じゃあ魔法は使えるのか?


「使えません」


 え? 定番の剣と魔法の世界じゃないのか?


「剣と魔法の世界です」


 別に一問一答形式を望んでいるわけじゃないよ? 魔法がある世界に行くのに、何で魔法が使えないのかを教えて欲しい!


「複製した死体が魔力がない種族だからです」


 ……その種族の社会的地位は?


「奴隷です。もしくは引きこもりですね」


 正確には隠れ住むって言わないか?


「そうとも言いますね。……自称ですが」


 それって、サービスって言う? 詫びる気持ちはあるのかな? 地獄への招待なら欠席させてもらうよ?


「まぁまぁ! 転生させるためにはいろいろ条件がありましてね。チート能力をつけるなら、境遇や種族が劣悪な状況でないといけないんです。今回は元々能力を決めていて、転移のときに能力をつけるだけだったんです。その場合は加護という名目が使えたんですけどね……。残念です!」


 つまり、自業自得だと……。そして俺は追加の被害を受けたということか……。


「でもでも! この体はすごいですよ! 僕の世界は、魔法か固有スキルという二種類の力があるんです。魔力がなければ魔法は使えませんが、魔力が少なかったり皆無だったりしても、固有スキルは使える可能性があります」


 魔力がない人は多いのか?


「極少数です」


 クソ……。じゃあ魔力ありは全員どちらかの力を持っているのか? 魔力しかないなら俺よりも立場が低くないか?


「全員ではありませんが、あなたが考えているように魔力がない人は最下層なので、スキルがあっても立場は変わりません。むしろ、付加価値がついた奴隷という認識でしょう。あなたの体は覚醒していませんが、特殊なスキルを持っている種族としての認知度が高いですから。それもあってこの種族を選んだんですけどね。チート能力を使っていても珍しいで済むはず!」


 ……言いたくはないけど、何もできない人間よりも立場が低いのはおかしくないか?


「魔具がありますから、魔力があれば魔法が使えるんですよ。片や魔法の武器、片や鉄の剣。勝てると思いますか? 魔物もいるんですよ? 足手まといはいらないというのが、彼らの主張です!」


 転生を拒否する! 無理! 生まれる前に転生先の情報が手に入っただけでも良しとしよう!


「ちょっと、ちょっと! あなたは十歳若返った十八歳の姿で、転移門の出口側に送る予定ですよ! 赤ちゃん転生ではありません! それに、話は終わってませんよ?」


 転移門の先って言うと、養父さんたちが知っている場所か。それなら多少は希望が持てるな。


「……なんか引っかかりますが、聞いてくれるならいいでしょう! チート能力は、あなたが生前唯一遊んでいたゲームを神様製のスマホで使用可能にしました。一部変更点はありますが、概ね変更はありません。さらに、その体にはナノマシンも使っています」


 え? あのゲームを使える? データごと?


「データごとです! ほぼ無敵ですね! ただ、リソース不足で一部封印状態ですけどね!」


 おっと……。一部の部分がどこか気になる……。


「基本的な機能は全て使えますから安心してください! それよりもナノマシンのことを説明しますよ。あなたは魔力がないので魔法的な影響を受けません。外傷性の攻撃は受けますが、状態異常は受け付けません。それに加えて回復魔法もです。基本的に能力の治療薬や回復薬を使えばいいですが、魔力的な状態異常以外は対策にナノマシンを使います。解析して分解、そして物によっては吸収します」


 吸収? 何かいいことでもある?


「状態異常には病気も含まれます。ナノマシンが吸収することで新薬が作れるようになるのです。これはあなたが就く予定の職業にピッタリなのですよ。あと、あなたはペットたちのことを頼まれたはずです。魔力なしは従魔を持てません。従魔にしなければ、今までと同じくお留守番ですね。ペットたちにナノマシンの情報を込めたマイクロチップを埋め込むことで、魔力ではなくナノマシンを介した魂の結びつけを可能にします!」


 ドヤ顔がムカつくが、ナノマシンはすごい効果を発揮するようだ。


「血肉を吸収すれば時間はかかりますが、傷も癒やせますよ。回復薬の節約になりますね!」


 差別対象としての扱いを我慢すれば、かなり高い能力を持った体になるということか。……悪くない。ボッチは慣れてるからな。


「最後に、リソース関係なくお詫びとして、クルーザーとコテージを神様製で作り直しました。どちらも不壊、結界能力を持っています。クルーザーは燃料が切れず、コテージは前世で大量購入してきた物資が自動補充されます。それとコテージからのみ、能力の一つである転移門が使用できます。まぁ封印状態ですけどね!」


 詫びる気持ちはあったのか……。生前贈与でもらった物だし、なんとかできないかと思ってたから結構嬉しい。


「封印解除は迷宮核との交換で、【ハルディン】の通貨【ディネ】を【幻想通貨】に両替するのは、各教会に設置されている懺悔室の中だけですからね!」


 何で懺悔室?


「差別対策のために神官騎士の中でも七人しかいない、神託騎士【オラクルナイト】になってもらうからです! 各神が任命する騎士だから、枢機卿相当位を持つんですよ! 差別していい相手ではありません! よって、多少は差別が緩和されるはず! 専用の外套をプレゼントしますから、留具と金色の太陽と銀色の月の刺繍を見せれば、教会関係者は態度を改めるでしょう! ……多分」


 ……代わりに教会関係の仕事をしろと?


「それはお任せします! 自由に行動してくださって結構です! ですが、せっかくですから転生前に一つだけ。あなたの両親は先代の勇者と賢者でしたが、彼らをはめて処刑した者たちがいます。気になりませんか?」


 ――はっ? それはどういうことだ!?


「それでは、いってらっしゃいませーー!」


 おいっ! 待てコラァァァァァ――


「ァァァァーーー! って……ここどこ?」


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