第54話 夢
「…………まさかお前が女の子泊めるとか思わんじゃないか。しかも3人も」
家に帰ってきた俺と父ちゃんは、俺の部屋で寝ている3人を見た。
父ちゃんが感嘆の声を上げる。
「結構いい暮らししてるんだなあ。愛人か?ラウルの次はお前か?」
「違うよ。ただの知り合い」
「またまた。彼女とかじゃないのか?」
「違うってえの」
「ま、2人ともこれでも飲みなさいな」
俺たちが帰ってきて、母ちゃんが起きてきてくれた。そして、俺と父ちゃんにお茶を出してくれる。悪いなあ夜中に。
「私も驚いたわあ。あの子たち、アンタの事を慕っているのねぇ。寝てる間に話聞いたんだけど、結構頑張ってるみたいじゃない」
「……あれ、俺ってそんなに評判ないの?筋肉猪とか、結構頑張って倒したんだけど」
「「そもそもコバってうちの村だっけ?ってなってたんだよ」」
なんだそりゃ。そもそも忘れられてるって、そんなのありかよ。かなり苦労したのに。
「俺も実際半信半疑だったが、あれを見たらなぁ。やっぱりお前だったのか」
「そうだよ」
「なんか上京してからずっとパッとしなかったから……ねえ?」
母ちゃんと父ちゃんが顔を合わせて頷く。これ以上言っても、俺の印象はうだつの上がらなかった9年の方が強いらしい。
「……ところで、俺の部屋に貼ってた女の絵は何なんだよ」
俺は父ちゃんを軽くにらむ。父ちゃんも父ちゃんで、剥がされて丸めてある女の絵を広げていた。
「あーあ、剥がしちゃったのかあ。まあ、女の子に見せるもんではないしなあ」
「ほんと何だよコレ。俺が変な趣味みたいじゃんか」
「うーん」
父ちゃんは悪びれもせず、女の絵を見つめている。その様子から見るに、全く反省はしていないようだった。
「……しかし、丸めるなよな。せっかく、うまく描けたのに」
「何言って……」
俺は父ちゃんに文句を言いかけて、動きが止まった。
「…………なんて言った?今」
「ん?丸めるなって」
「その後だよ」
「うまく描けたのにって」
「ちょっと待てやぁぁぁぁぁ!」
俺は父ちゃんの言葉に耳を疑った。
「え、何?これ、アンタが描いたの!?」
「そうだよ。そんで、うまく描けたのを壁に貼ってたんだよ」
「いやいやいやいや待ってくれよ!つうか、母ちゃんもいるのに、何だってそんなの描いてんだ!?」
「いやあ、貼っとかないと、設定がわからなくなるもんだからなあ」
「……設定?」
俺の言葉に、父ちゃんは飲んでいた茶を一気に飲み干した。
「実はな。父ちゃん、副業を始めたんだ」
父ちゃんの言葉に、母ちゃんも諦めたように首を振っていた。
「副業って?」
「……冒険小説だ!」
「は?」
「冒険小説を書いて、売れるようなものを書いてやろうと思ってな!」
どや顔を決める父ちゃんの顔面に、俺の足がめり込んだ。
「バカかアンタはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
「俺は大まじめだぞ!」
父ちゃんは俺の蹴りをギリギリでそれを躱す。現役の狩人は伊達じゃない。
そんだけの腕があるんだから、副業なんてやらんでもいいだろうに。しかも冒険小説って。
「……母ちゃん!止めろよ!」
「私も最初は止めたのよ?何言ってんのって。でもねえ、お父さんすごく楽しそうに書くし、それに…………書いたやつ見せてもらったら、結構面白いのよ」
そう言って、母ちゃんは照れ笑いを見せる。俺は頭を抱えた。
「大体、俺が冒険小説を書こうと思ったのはお前の部屋にあった冒険小説が原因だからな。暇つぶしに呼んでたらハマってしまったんだよ」
「俺の部屋のって……ああ、あれか。にしてもさ、女の子の絵はなんで描いてんだよ?」
「いや、登場人物を書こうと思ったら、文字だけでどう表現したらいいかなって思って。それで、キャラの描写を固めるためにこんな感じかなーって描いてみたんだよ」
いや、まさか父ちゃんが描いたものとは思わないじゃないか。しかも結構うまい。
「ちなみに、メインヒロインは母ちゃんの若い頃がモデルだな」
「聞きたくねえよそんなこと!」
俺は耳を塞いで叫ぶと、そのまま机に突っ伏した。
「…………なあ、コバよ」
「何よ?」
「夢を追うのに、年齢なんか関係ないな」
そこまで言って、父ちゃんは独房に眠りに行ってしまった。
残された俺と母ちゃんは、お茶のお代わりを飲んでいる。
「……お父さんね。ちょっと前に、ケガして狩人の仕事ができなくなった時があったの」
「え、聞いてないけど?」
「アンタには言うなって。心配かけるし、下手すれば狩人の仕事継ぐって戻って来かねないから」
「……言ったかもしんないな、その時なら」
「あの人ねえ。あなたには夢を追ってほしいみたいなのよ。何しろ、コバの一世一代のわがままだからって」
「わがまま?」
「覚えてないの?アンタ、土下座して冒険者になるって言ったんじゃない」
ああ、そう言えば。
俺が冒険者になる時、親に土下座して冒険者になるって言ったんだったか。
うちは一人っ子だから、俺がいなくなれば父ちゃんの仕事を継ぐ人はいなくなる。
だが、俺のわがままを両親は受け入れてくれたのだった。
「……そういや、ラウルを冒険者に引きずり込んだのも俺だったっけ」
「そうよ?当時ラウルのお母さんにめちゃめちゃ恨まれたんだから。まあ、ラウルは活躍したからすぐに機嫌は直ったけど」
長いことラウル中心の生活をしていたからか、てっきりラウルが俺を冒険者にしたものだと思い込んでいたが。
そうか、そもそも冒険者になりたかったのは俺か。
「……ラウルは引退したみたいだけど、アンタは続けるの?」
「ん?」
俺はお茶を飲むと、一息ついた。
「あたり前じゃん。まだ夢の途中だよ。こっちだって」
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それからラウルの結婚式は、盛大に行われた。
アンネちゃんの投げたブーケを女性陣が取り合って乱闘気味になったのは、いい思い出だ。
さらに1年がたち、俺は冒険者資格更新となった。
ドール子爵領の冒険者を代表して、王都にあるギルド本部に所属することとなったのだ。
ラウルの奴は涙ぐみ、別れの時は抱きしめてきたが、相変わらず力は強かった。
だが、ちょくちょく仕事で王都に来るらしい。なんだそれ。
ルーフェは1年の間に冒険者としての経験を積み、ヴァレリア領に帰っていった。
「父上たちをぶん殴ってくる!」
という意気込みはすさまじい。本当にたくましく成長したもんだ。
エリンちゃんは晴れて魔導学院に入学し、ハートさんの家から通いながら魔法の勉強をしている。王都に行ったら友達を紹介したいとのことだ。
マイちゃんとは、お別れかと思ったら、どういうわけか俺と同じ王都行きの馬車に乗り込んできた。
なんでと尋ねると、彼女はにっこりと笑って言った。
「私、今期から王都の本部に転勤になったんです」
俺は心底驚いたが、王都に知り合いが増えるとなると、悪い気はしなかった。
そんなわけで、そこまで人の縁が切れることもなく、俺は王都へと旅立った。
そして、2年が過ぎ、俺にとってはかなりの大事件が起こることになる。
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