第42話 新冒険者ルーフェと初めての討伐クエスト

 「はい。これで、冒険者登録は完了です」


 冒険者ギルドにて。マイちゃんが新しく冒険者となった者に冒険者カードを渡していた。


 そして、その冒険者カードを受け取っているのはルーフェである。ルーフェは自分の冒険者カードを珍しそうに眺めていた。


「……思ったより簡単なんだな。冒険者になるのって」


 気合十分で試験に臨んだわりに、かなり拍子抜けだったらしい。まあ、俺も今となってはそうだろうとは思うけど。


「まあ、簡単な読み書きできりゃいいからなあ。……どれ、カード見してみな」


 ルーフェに言って見せてもらうと、俺は裏面を向ける。冒険者となれば、大事なのは裏面の方だ。


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〈冒険者データ〉

 冒険者ランク E

冒険者歴   0年

ステータス  筋力:E 

        防御:E 

        敏捷:D 

        賢さ:B

        器用さ:C

 スキル    なし

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「やっぱそんなもんかあ。っていうか、賢さ高いな」

「まあ、勉強したからな。それで、このステータスだと魔法職かな?やっぱり」

「そうだろうな」


 というか、魔法使いになる気満々だろう。今日の荷物に魔導書が入っているの知ってるからな。


「……とにかく、これで冒険者として活動できるんだよな?」

「ああ。初めてだったら討伐系のクエストにした方がいいだろうな。命のやり取りに慣れねえと」


 2人で掲示板に向かう。掲示板には難易度ごとにスペースが割り振られているので、見るのは端っこだ。明らかに初心者向けの植物や素材の採集依頼やゴブリンや大ネズミの討伐依頼がまばらに貼られている。


「結構少ないな?」

「初心者向けってだけあって、めちゃめちゃ簡単だからな。兼業とかしている奴だと、そういうの優先でとったりするんだよ」


 俺はそう言って、無造作に1枚のクエストシートを手に取った。


「それ、どんな奴だ?」

「ゴブリンだと面倒見切れない可能性もあるし、ひとまず広いところにいる奴。コボルドだな」


 コボルドは、犬の魔物だ。平原に2~3匹の群れを成して暮らしている。動きは少し早いものの、初心者が戦うにはちょうど良かったりする。


「とりあえず最初だし俺もついてくけど……行けるか?」

「ああ!サイカさんにはお休みをもらっている!」


 ルーフェは自信ありげに言って、にかっと笑った。


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 コボルドのいる平原は、町からそう遠くないところにある。街道を離れたところで、いくつもの群れが集まっているらしい。


 それこそスキルがなくても、俺が初心者の頃に一人で倒せた相手だし、ルーフェもちゃんと魔法が使えれば問題ないだろう。俺も弓を構えて、援護の準備をする。


 ルーフェの武器は魔導書だ。それも、オーソドックスな炎の魔導書。書いている呪文を唱えれば炎の弾を体内の魔力を消費して放つことができる。


 基本的には、ルーフェが自分でやることが必要なので、俺と距離を置いている。だが、俺は万が一の時のために、すぐに矢を射れる距離を保っておく。


「ルーフェ、まず大事なのは?」

「襲われないようにする、もし襲われたときにどう対応するか考えることだろ?」


 そう。魔法使いも、基本的にはレンジャーと戦い方は一緒だ。とにもかくにも、自分がケガしないようにする。戦士のように耐久力があるわけじゃないからな。


 ただ、魔法使いはレンジャーと違い回避も難しいため、基本的には先制攻撃で必殺をする必要がある。特に今のような状況だったら、攻撃を受けられる味方がいないため、うち漏らしなどをしないようにしなければならない。


「コボルドは、平原の岩場を巣にしていることが多いから、その辺を重点的に見ろよ。……ほら、いた」


 俺が指さした方をルーフェが見る。そこには岩場で眠っているコボルドの親子らしき姿があった。両親が見張り、子供が昼寝をしている。


 ただの犬なら微笑ましい光景なのだが、こいつらはどんどん増えるうえに、成長すると人も襲うようになるから厄介なのだ。だからこそ、駆除が必要な魔物として認定されているわけで。


「……あの、子犬も殺すのか?」

「あたり前だろ。むしろ子どもを殺さないと増えるから」

「で、でも……」


 ルーフェは遠くから様子を見て、どうにも踏ん切りがつかないようだった。


 気持ちは分からなくもないが、俺の場合は狩人の親父の手伝いをしていたから、クエストで動物の子どもを殺すことに、最初から抵抗があまりなかった。


 それこそラウルやエリンちゃんは、最初に子どもを殺すことを嫌がったのだ。仕方なく俺が殺したら、ラウルには「お前には人の心がないのか!」とキレられた。


「俺たちの都合で殺すんだから、こいつらの命背負って生きていくんだよ、俺らは」


 親父の受け売りだったが、俺はそういう時、決まってそう言った。ラウルとはケンカになったが、エリンちゃんの時は泣きながらも納得してくれた。


 そして、ルーフェにも同じように伝えた。


「……わかった」


 さすが、覚悟を決めるのが早い。一度肝が据われば、あとは一息で進めるのが、この娘のいいところだ。


 ルーフェは魔導書を開き、呪文を唱え始める。開かれた魔導書から炎の弾が生まれ、それはどんどん大きくなっていく。


「おお。すげえじゃん」


 なんて言っていられたのも最初だけ。


 炎の弾はぐんぐんと大きくなり、気がつけば、見上げないと全貌がわからないくらいの大きさになっていた。


「…………いや、デカくね?」


 当のルーフェは、魔力をさらに練りこんでいるのに集中しているのか、こっちの声にも気づいていないようだった。


 そして、こんなデカい火の玉、気づかない方がバカである。


 見張りをしていたコボルドの親がこちらに気づいた。そして、火の玉に気づくと、子犬を咥えて一目散に逃げだす。


「…………火球ファイアーボール!!!」


 ギルドの建物もすっぽり入るような巨大な火の玉が、ルーフェの上から逃げるコボルドに向かって放たれる。

 普通の火球同様の速度で飛ぶそれは、通常ならコボルドを取り逃がしてしまうだろう。


 だが、火球の質量と攻撃範囲から、コボルドたちは逃げることができなかった。


 地面に接地した瞬間に、大爆発と火柱が上がる。ルーフェが衝撃で吹っ飛んでくるのを、俺はとっさに受け止めた。とはいえ、俺も踏ん張りきれないので一緒に吹っ飛ばされる。


 コボルドの群れは、もはや陰形もなく消滅した。


 実際の所、消滅したのはコボルド含む平原の一部だったのだが。


「…………………おい」


 俺は、自分を下敷きにしているルーフェに声をかけた。


「なんだこれ」

「……ちょっと張り切りすぎた」


 ルーフェは俺からどこうともせずに言った。


「…………いや、張り切るとかの問題?じゃねえだろ」


 結局、ルーフェの初クエストは失敗に終わった。


 理由は簡単で、跡形もなく消し飛ばしてしまったために討伐の証拠品が手に入れられなかったことと、この爆発でほかのコボルトがすべて逃げ出してしまったのだ。

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