第43話 ロウナンド来襲

「うううううう……」

 

 クエストからの帰路を、俺はルーフェを背負って歩いていた。当の本人は、俺の上で何やらうなっている。


「……一発に魔力込めすぎなんだよ。なんだ、動けなくなるって」

「今度からは気を付けるぅ~……」


 ひとまずはギルドに報告に行かないといけないが、おんぶだとすると少し時間はかかる。今が昼すぎなので、日が暮れるまでにはギルドへの報告も終わるだろう。


(それにしても、手加減ゼロとはいえ、あの魔力量はすごいな)


 もしかしたら、ルーフェには才能があるのかもしれない。貴族の娘や道具屋の店員では見いだせなかった、冒険者としての才能が。


(俺のスキルもそうだし、ハートさんに鑑定してもらうか?)


 なんてことを考えていると、ルーフェがこちらをじっと見ていた。


「……何?」

「いや?……でもなんだか、慣れなくてなあ。人におんぶしてもらうの」

「そうなのか?」


「おんぶしてくれたと言えば、母様くらいだから」


 そういうルーフェの腕に、わずかに力がこもる。


「……コバの背中は、大きいな」

「俺よりデカい背中の奴なんて山ほどいるわ。それこそサイカさんなんてデカいだろ」

「……そうだな」


 ルーフェはそう言うとくすくす笑い出した。なんか、変なこと言ったか?


 考えてみても、俺にはわからなかった。


***************************


 本当は、ギルドに報告を済ませてこそ、いっぱしの冒険者なのだが。


 さすがに動けない彼女にそこまでさせるのは酷だろう、ということで、彼女は道具屋に置いてきて、俺一人で報告に行くことにした。


 ギルドの門を開けると、やけにざわついていた。冒険者どもが揃いも揃って、ちらちらとこちらを見ている。


「……どうかしたのか?」

「あ、コバくん!」


 駆け寄ってきたのはマイちゃんだ。困ったような顔でこちらを見ている。


「なんか用事?」

「今日、平原のクエストを受けたの、コバくんたちよね?」


 ああ。そういうことか。あの大爆発の調査ね。


「ああ、あれは……」


 俺が、ニヘラと笑ってマイちゃんに説明しようとした時だ。


「説明できるなら、こちらでしてもらおうか」


 聞き覚えのある声だった。だが、知り合いというわけではない。俺が、一方的に聞いたことのあるだけの声。


 人ごみがはけると、ギルドの待合所の椅子に、超大柄の男が座っていた。


「俺はコーラル伯爵領の冒険者、ロウナンドという者だ」


 そう言って、冒険者カードを見せてくる。俺も自分の冒険者カードを見せた。


「あ、ああ……コバだ」

「コバ?確か、筋肉猪を倒したとかいう……」


 そう言って、ロウナンドはじろりと俺を見る。

 そして、あからさまに怪訝な目をした。


(悪かったなぁ普段はこうなんだよ!)


 俺は作り笑いをしながら心の中でぼやく。絶対、こいつ信じないだろうな。


「……まあいい。今日来たのはそれは関係ないからな」

「……じゃあ、何のようで」


「今日、平原で爆発があったのは知ってるだろ?お前、平原にクエストに行ってたそうだし」

「え、ああ。知ってるけど。すごかったなあ、あれ」


「アレの原因を知りたい。何か知らないか?」


「ああ、原因ね……」


「何か知っているようだったが?」


 耳ざといなこいつ!

 ロウナンドはじろりとこちらを見つめてくる。


「コーラル伯爵が2,3日後にこの町に来る。領主に会いにな。その時の交通ルートであの平原横を通るんだ。万が一、また爆発が起こっても困るんでな」


「……そういうことか。いや、あの爆発はさ、俺の持ってた魔石が暴発したんだよね」

「魔石?」

「火の魔石。俺さ、いろんなクエスト掛け持ちしてるから」


 とにかく、こいつの前でルーフェの話は絶対にしてはいけないだろう。そもそも、ルーフェがぶっ倒れて報告に連れて来なかったのも僥倖だった。見つかったらどうなっていたかわからない。


「……魔石の事故、ね」

「おかげで、コボルトは逃げるし商品はぶっ飛ぶしでさ、大赤字で困っちまうよ」


 そう言って俺は誤魔化すように笑った。魔石の収集自体は実際やってたし、あまり無茶な話はしていない。冒険者なら十分にありうる事故である。


「…………」


 ロウナンドはじろりとこちらを見たまま、一切視線を逸らそうとしない。さすがに実力者だ。眼光が鋭い。見られているだけで武器を構えたかのような緊張が走る。


(ばれたか?さすがに……)


 そして、ひと呼吸おいて、ロウナンドは溜息をついた。


「……わかった。そういうことなら、特に危険性があるわけではないと報告する」


(あっっっっつぶねえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!)


 俺は心の中で全身汗だくになっていた。


 そして、ほっとしたのもつかの間、ロウナンドの顔面が俺に迫ってきた。


「……冒険者なら、魔石の扱いくらい気をつけろ。伯爵が帰るまで、平原のクエストは一切受けるな」


「……き、肝に銘じます」


「……ふん」


 ロウナンドは鼻を鳴らしてギルドから出て行った。俺は崩れ落ちそうになるのを、必死にこらえていた。


 耳ざといアイツに気づかれたら、絶対に面倒だからだ。

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