第43話 ロウナンド来襲
「うううううう……」
クエストからの帰路を、俺はルーフェを背負って歩いていた。当の本人は、俺の上で何やらうなっている。
「……一発に魔力込めすぎなんだよ。なんだ、動けなくなるって」
「今度からは気を付けるぅ~……」
ひとまずはギルドに報告に行かないといけないが、おんぶだとすると少し時間はかかる。今が昼すぎなので、日が暮れるまでにはギルドへの報告も終わるだろう。
(それにしても、手加減ゼロとはいえ、あの魔力量はすごいな)
もしかしたら、ルーフェには才能があるのかもしれない。貴族の娘や道具屋の店員では見いだせなかった、冒険者としての才能が。
(俺のスキルもそうだし、ハートさんに鑑定してもらうか?)
なんてことを考えていると、ルーフェがこちらをじっと見ていた。
「……何?」
「いや?……でもなんだか、慣れなくてなあ。人におんぶしてもらうの」
「そうなのか?」
「おんぶしてくれたと言えば、母様くらいだから」
そういうルーフェの腕に、わずかに力がこもる。
「……コバの背中は、大きいな」
「俺よりデカい背中の奴なんて山ほどいるわ。それこそサイカさんなんてデカいだろ」
「……そうだな」
ルーフェはそう言うとくすくす笑い出した。なんか、変なこと言ったか?
考えてみても、俺にはわからなかった。
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本当は、ギルドに報告を済ませてこそ、いっぱしの冒険者なのだが。
さすがに動けない彼女にそこまでさせるのは酷だろう、ということで、彼女は道具屋に置いてきて、俺一人で報告に行くことにした。
ギルドの門を開けると、やけにざわついていた。冒険者どもが揃いも揃って、ちらちらとこちらを見ている。
「……どうかしたのか?」
「あ、コバくん!」
駆け寄ってきたのはマイちゃんだ。困ったような顔でこちらを見ている。
「なんか用事?」
「今日、平原のクエストを受けたの、コバくんたちよね?」
ああ。そういうことか。あの大爆発の調査ね。
「ああ、あれは……」
俺が、ニヘラと笑ってマイちゃんに説明しようとした時だ。
「説明できるなら、こちらでしてもらおうか」
聞き覚えのある声だった。だが、知り合いというわけではない。俺が、一方的に聞いたことのあるだけの声。
人ごみがはけると、ギルドの待合所の椅子に、超大柄の男が座っていた。
「俺はコーラル伯爵領の冒険者、ロウナンドという者だ」
そう言って、冒険者カードを見せてくる。俺も自分の冒険者カードを見せた。
「あ、ああ……コバだ」
「コバ?確か、筋肉猪を倒したとかいう……」
そう言って、ロウナンドはじろりと俺を見る。
そして、あからさまに怪訝な目をした。
(悪かったなぁ普段はこうなんだよ!)
俺は作り笑いをしながら心の中でぼやく。絶対、こいつ信じないだろうな。
「……まあいい。今日来たのはそれは関係ないからな」
「……じゃあ、何のようで」
「今日、平原で爆発があったのは知ってるだろ?お前、平原にクエストに行ってたそうだし」
「え、ああ。知ってるけど。すごかったなあ、あれ」
「アレの原因を知りたい。何か知らないか?」
「ああ、原因ね……」
「何か知っているようだったが?」
耳ざといなこいつ!
ロウナンドはじろりとこちらを見つめてくる。
「コーラル伯爵が2,3日後にこの町に来る。領主に会いにな。その時の交通ルートであの平原横を通るんだ。万が一、また爆発が起こっても困るんでな」
「……そういうことか。いや、あの爆発はさ、俺の持ってた魔石が暴発したんだよね」
「魔石?」
「火の魔石。俺さ、いろんなクエスト掛け持ちしてるから」
とにかく、こいつの前でルーフェの話は絶対にしてはいけないだろう。そもそも、ルーフェがぶっ倒れて報告に連れて来なかったのも僥倖だった。見つかったらどうなっていたかわからない。
「……魔石の事故、ね」
「おかげで、コボルトは逃げるし商品はぶっ飛ぶしでさ、大赤字で困っちまうよ」
そう言って俺は誤魔化すように笑った。魔石の収集自体は実際やってたし、あまり無茶な話はしていない。冒険者なら十分にありうる事故である。
「…………」
ロウナンドはじろりとこちらを見たまま、一切視線を逸らそうとしない。さすがに実力者だ。眼光が鋭い。見られているだけで武器を構えたかのような緊張が走る。
(ばれたか?さすがに……)
そして、ひと呼吸おいて、ロウナンドは溜息をついた。
「……わかった。そういうことなら、特に危険性があるわけではないと報告する」
(あっっっっつぶねえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!)
俺は心の中で全身汗だくになっていた。
そして、ほっとしたのもつかの間、ロウナンドの顔面が俺に迫ってきた。
「……冒険者なら、魔石の扱いくらい気をつけろ。伯爵が帰るまで、平原のクエストは一切受けるな」
「……き、肝に銘じます」
「……ふん」
ロウナンドは鼻を鳴らしてギルドから出て行った。俺は崩れ落ちそうになるのを、必死にこらえていた。
耳ざといアイツに気づかれたら、絶対に面倒だからだ。
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