第11話 やっぱり頼れるレイラさん
「スキルが生えたあ!?」
「空中庭園」で更新した冒険者カードをラウルに見せると、彼は面白いくらいのリアクションを取ってくれた。
「ああ、そうなんだよね……」
「まじかよ、見せろや!」
俺の手から冒険者カードをひったくると、何度も何度も、カードの裏面を眺めていた。
「ほんとだ……」
「それで、まあ。もうパーティ組むのはやめた方がいいんじゃないかってさ」
「……そりゃそうだろうなあ?「単独行動」だもんな」
スキルの名前と効果を見るに、一人じゃないと発動しないのは明らかだろう。そうなると、パーティを組むなんてとんでもない選択だった。
「生えたってことは、一回は発動したってことだよな?」
「そうだなあ。となると、あのクエストしか考えられないよなあ」
確かに、先日森に行ったクエストは、すこぶる調子が良かった。それは、このスキルが発動していたからなのだろう。
森の中を一瞬で把握できる探知能力に、歩きでの行き帰りをものともしないスタミナ。さらには、宝箱にしかけられた罠に瞬時に気づいたことも。今まで冒険したときには感じたことのない感覚だった。
知らず知らずのうちに、スキルが発動していたからなんだろう。
となると、帰ってからぶっ倒れたのは、スキルの影響なんだろうか。
「クエスト中しか発動しねえとか?それで、帰ってきたから効果が切れたとか」
「そうなんだよな。このスキル、詳しい条件がわからないんだよ」
「俺のスキルも、実は細かいルールあるもんなあ」
そう言いながら、ラウルは晩飯の鶏肉をほおばった。
スキルには、実は細かいルールがある。
スキルの効果を十全に発揮するためには、特定の条件をクリアしないといけないのだ。
例えば、ラウルのスキル「一気呵成」は敵を倒すとパワーアップするスキルなのだが、このスキルにも発動条件がある。
それは、単純に「敵を倒す」だけではないのだ。
このスキルを発動するためには、「ある程度体力を削り、敵にとどめを刺す」必要がある。この条件をクリアしないと、ラウルの能力は上がらないのだ。
そして「ある程度」は、個人により変化するらしい。ラウルの場合、スキル評価はAであり、敵の体力を半分以上削らないといけないらしかった。
そして、このような詳細な説明は、冒険者カードには一切記載されていない。では、どのようにしてスキルの詳細を調べるのか?
方法は2つある。1つはひたすらに自分でスキルの使用条件を確かめること。もう1つは「鑑定」スキルを持つ者に依頼することだ。
前者は時間がかかる上に確証を持つことは難しい。3年費やして、結局違っていたというケースもある。逆に後者はそこまでの時間はかからないものの、お金がかかるし、「鑑定」もスキルなのでランクが低いとこちらのスキルを鑑定できないことがあるのだ
そのため、自分のスキルを鑑定を依頼するときは、自分のランク以上の「鑑定」スキル持ちに依頼することが常識なのだが。
「で、EXってよお。どうすんだこれ?」
見たことのないスキルの評価の場合は、話が別だ。今までにこんなスキル評価を持った冒険者はいない。
「やっぱり、Eなのか?表記ミスとか?」
「いえ、あり得ないですよ。コバくんのだけ表記がおかしいとか、そんなんじゃないと思います。そもそも、スキルは最低でもD以上の評価になるはずですよ」
そうかー、と二人で納得しかけて、ばっと横やりの声がした方を見ると、マイちゃんが立っていた。
「どうも。仕事が終わったので」
「あ、ああ。どうも」
「こんばんは、アンネちゃんといたしちゃった最低男のラウルさん?」
マイちゃんは笑顔だが、本来笑顔は相手を威嚇するものだと誰かが言っていた。ラウルに対する笑顔は、まさにそれだ。
「ご、ごめんよ。あの、手続きにはまだちょっと……」
「あれ、お前まだ返納してないのか?」
エリンちゃんも冒険者カードを返納していたし、こいつも道具屋を継ぐなら返納が必要なはずだ。とっくに済ませたものと思っていたのだが。
「サイカさんから直接聞きました。「俺が認めるまで、冒険者をやめることは許さん。根無し草になられても困る」ってことなんですよね?」
「……そうです。せめて見習いから半人前になるまで、それは取っとけと言われました」
ラウルは恥ずかしそうなんだか申し訳なさそうなんだか、ばつが悪そうにそう答えた。
「……まあ、いいですけどね。やめる分には。こっちは然るべく対応しますから」
やっぱりちょっと拗ねているのが、なんとなくわかった。ラウルがいなくなってしまうのが寂しいんだろうなあ。
なんて思っていると、マイちゃんは俺に向き直った。
「それより、問題はコバくんの方ですよ。ここに来たのもそのためです」
「あれ、飯食いに来たんじゃないのかい?」
水を持ってきたレイラさんが、残念そうに言った。
「ああ、ごめんなさい。もちろんいただきますけど……」
そう言って、マイちゃんはレイラさんに頭を下げる。
「……どなたか、腕のいい鑑定士さんをご存じないですか……?」
結局、俺のスキルについて、ギルドとしてはレイラさんに頼ることにしたらしい。
まあ、最善だと思うけど。俺もこの後聞こうと思ってたし。
「マイちゃんが担当ってなると、やっぱりこいつ?」
言いながら、わっしと俺の頭を掴むのはやめてほしい。食事中ですよ?
「はい。彼の冒険者カードのステータスが、異常というか、前例がないもので……」
「あー、なんとなく聞いてた。EXでしょ?」
レイラさんはそう言って、俺の冒険者カードをまじまじと見る。
「「単独行動」ねえ。まー、パーティ慣れしてるこいつには意外というか。なんというか」
「パーティが解散になっても、二人で冒険してたもんなあ」
「そんで後衛が足りないっつーんで、また人募集をするんだよ」
俺とラウルが飯を食いながら話している間に、レイラさんは少し考えたようだった。
「いや、紹介できる鑑定士はいるよ?そいつなら多分、鑑定できるとは思うんだけど」
「多分、ですか?」
案の定というか、何というか。この人の人脈やらなにやらぶっ飛んでいるのは、もはや驚くことではない。そんなのはこの町に来たての少年少女がやることだ。
「そいつのお父さんがあたしの古いなじみでね?そいつなら多分分かっただろうけど、そいつだいぶ前に死んじまったからなあ」
あーだこーだと言ってはいたが、レイラさんはさらさらと紙に文字を書き始めた。その後、自分の物であろうサインを入れる。
「とりあえずこれと、あんたの冒険者カードの写しを送っときなよ。まあ、学院の先生よりは早く鑑定してくれるんじゃない?」
それをマイちゃんに渡し、そのまま彼女を座らせた。
「そんじゃ、注文。今日の定食は角煮だよ」
「あ、ダイエットしてるので野菜サラダで」
笑顔で承ったレイラさんは、デカ盛りの野菜サラダに巨大な角煮を乗っけてきた。
ひきつった顔のマイちゃんに、レイラさんは笑みを浮かべている。
「そんな細っこい身体で、ダイエットなんて倒れるよ?」
さっきのマイちゃんの威圧的な笑顔よりも、はるかに恐ろしい威圧感が店いっぱいに広がる。さっきまで談笑していた常連どもも手を止めてこっちを見ていた。
結局、マイちゃんは角煮を少しだけ食べ、あとは周りの野菜をむしゃむしゃと食べていた。残った角煮は、俺とラウルで食うことになった。
その後、2日は何も食べずとも余裕でクエストをこなせた。どんだけのカロリーだ。
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