第12話 「単独行動」スキルとは?
レイラさん紹介の鑑定士がいるのは、王都少し手前の町らしい。そのため、レイラさんに書いてもらった紹介状がそもそも届くのに1週間はかかるとのことだ。基本日銭稼ぎの冒険者に、そんな悠長な余裕はない。
俺は、鑑定士の返事が来るまでの間も、ソロクエストに励まなければならなかった。正確な条件はわからずとも、自分の中である程度の憶測くらいはできる。
俺のスキル「単独行動」の条件は、「パーティを組まずソロで活動すること」だということは、まず間違いないだろう。そう判断して、俺は積極的にソロでクエストを受けた。
マイちゃんにお願いして、俺でもできそうなクエストを片っ端から用意してもらう。ソロでできるということは、パーティならより簡単にできるということだ。うかうかしているとほかの冒険者に持っていかれてしまう。
俺はそのクエストから優先的にできるものを選んで、こなしていくことにした。2~3日以内にできそうなクエストなら、先に受注しておく。
クエスト内容は基本採集クエストにした。「レンジャー系の職業専門」という条件に目をひかれたのだ。護衛などのクエストは、ウォリアーやタンク向けなのでやめておく。
クエストを受注して、ギルドを出る。そうしたらその日こなすクエストの依頼人と打ち合わせをして、現場へ向かう。森だったり、山だったり、湖だったりとほとんどだ。
そして、俺のスキルの効果のほどを確かめながら、慎重にクエストをこなしていく。
実際に感触を確かめて、わかったことがある。
このスキルは、俺の「レンジャーとしての性能をとんでもなく上げる」ということだ。
罠探知も、気配探知も、宝箱や索敵を主とするレンジャーにとっては必須技能。その感度が抜群に上がるのだ。
また、俺の敏捷や器用さも上がっていた。これは、森を駆けまわったり、手製の罠を作ったりしたときに感じたことだ。
そして、俺もびっくりしてしまったのが、ステルス能力があること。どういうことかといえば、「相手に気づかれないくらい存在感を消す」ことができるのだ。
クエストをこなす以上、冒険者として戦闘は避けられない事態だ。レンジャー一人の場合、大型の魔物と出くわしただけでも相当に厳しい戦いを強いられることになる。
だが、それは相手がこちらに気づいている場合だ。
戦闘の経験もしてみないとダメだろうと思って、とある山に行った際に見かけた魔獣を練習台にした時のことだ。
その魔獣はいわゆるイノシシなのだが、イノシシのわりにやけにでかい、ビッグ・ボアという魔物だ。嗅覚が鋭く、牙と突進で多くの冒険者が毎日犠牲となっている。
もちろん、匂い消しや足音を立てないという、最低限の注意を払ったうえで、奴に近づいたのだが。
寝ているならまだしも、まるでこいつ、俺に気づく気配がなかった。
真後ろで突っ立ってみても全然気づかず、糞をぽろぽろとケツから垂らしている。完全に無防備だ。
まさかと思って、俺はイノシシの横を通る。だが、イノシシはまるで気付く様子もない。
とうとう真正面に来て、眼が合ってはいるのだが、イノシシは叫ぶでも突っ込んでくるもなく、大きなあくびをして、そのままとことこと歩いて行ってしまった。
このイノシシが特別間抜けなのかはわからないが、俺を認識できていなかったのだ。
俺は短剣を手に取り、そのままイノシシの喉元にあてる。イノシシは抵抗する様子もない。
ここで、さらに分かったことが一つ。
俺の短剣捌きが、異様に良くなっている。
イノシシを殺した時も、そのあと捌いた時も、まるでどこに線をひけばいいかわかるみたいに、自然と奴の身体を切り裂いた。筋肉の抵抗などみじんも感じずに、紙を切るように短剣の刃が通り抜ける。
これもスキルの影響で、もしかしたら戦闘にも影響しているのかもしれない。
俺の武器は短剣だけでなく弓もあるので、そっちでも試してみた。矢をつがえて、弓を構える。狙いは遠くの木だ。
狙った気のはるか遠くの景色が、まるで近づくように視界に入った。驚いて指を離し、矢を放つと、その矢は目標の木をすり抜けるように通り過ぎて、そのさらに遠くの果実のど真ん中を射抜いていた。その様子まで、俺にははっきりと見えていた。
俺はその場に座り込んで、小さく笑ってしまった。
「はは……」
クエストに必要な素材は既に集まっている。採集の能力も上がっているし、おまけに体力も全然減っていない。
俺は自分の身体をもう一度見検めた。
「とんでもないスキルが生えたもんだなあ、俺も」
苦節9年。冒険者をやってきて、スキルが生えるとは思ってもいなかった。
新生活を始めるにあたり、とんでもなく幸先がよくなったことに、俺は笑みが止まらなかった。
とはいえ、このスキルには欠点もある。
クエスト中しか持続しないのか、俺がギルドに帰るといつも疲れがどっと押し寄せてくるのだ。
おかげで、報酬をもらった後、しばらくギルドで休んでから帰らないとならない。これはなかなか不便だ。
折角早く終わっても、帰ったらくたくたで寝るくらいしかやることがなくなってしまう。
でも、わかりやすい欠点としたら、俺が感じるのはそれくらいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます