第71話
「純おじさん!美夜がやベーってのはどういう事なんですかっ!?美夜はもう大丈夫って言ってたんですけど!?」
「あー、本人から大丈夫って聞いてたのな。俺が聞いた話だと、多分だいじょばないと思うよ」
だいじょばないってか…。
アイツ、今どんな状態なんだよ…。
「どういう事なのか詳しく教えていただけませんか?神崎さんがそうなったのは、私の責任なので…」
「愛美の責任じゃないっ!あたしの責任だからっ!」
「比田も相馬さんも、もうそれはいいって。きりねーからさ」
「雄信の言う通りだな。今はどっちの責任とかそういうのいいから。まず、純おじの話を聞こう」
どっちの責任でーす、って決めたって先に進むわけじゃねーし。
つか、俺だってこうなったのには責任感じてるんだっつーの。
「…ごめん」
「…ごめんなさい」
しょぼーんとする女二人。
俺と雄信の苛立ちに気づいたっぽい。
「お嬢ちゃん達が謝ることはない。むしろ俺が言葉足らずに不安を煽るような言い方しちゃってごめんなさいだよ。補足するね。美夜ちゃんがやべーとかだいじょばないって言ったけど、それは何もしなければの話。その気になればすぐに解決するから安心していいよ。だから責任とか、重ーく考えなくていいからね?」
『…はい』
…安心していい、か。
うん、純おじがそういうなら信じる事にしよう。
基本的に変な事は言うけど、嘘は言わない人だし。
「んじゃ純おじよ。部屋で詳しく教えてくんない?立ち話もなんだしさ」
「おっけー。でもその前にちょっと俺やる事あるからさ。先に行って待っててくれ」
やる事だと?
「待つのはいいけど、何すんの?」
「…とりあえず足を洗ってくるんだよ。体臭はそこまでじゃないと信じたいけど、足はガチだぜ?足が納豆臭いおじさんがそのまま部屋に行ったら、話どころじゃないでしょうに。お前1人だったら車に積んでた着替え持って来てたし、シャワー借りて全身洗うつもりだったんだけどな。待たせちゃ悪いだろ?」
…そういえば純おじ、わざわざ仕事早めに切り上げて、心配して来てくれたんだよなぁ。
仕事終わりで体が汚れて臭いのは当たり前か。
「先にシャワー浴びてこいよ。自分じゃ気付かない臭いもあるだろうし」
「おい待てや。足以外も臭いと、そう言いたいのか?俺、加齢臭とかするん?」
「若干な。こないだ泊まった時の枕カバーは臭かったぜ」
「…嘘ぉ」
まぁ、足以外はそれほどじゃないと思うけどね。
綺麗な純おじになって戻ってきておくれ。
もう変人バレは手遅れだとしても、多少はみんなのイメージも良くなると思うから。
「わたしも時間はありますし大丈夫ですので、お気になさらずゆっくり体を流して来てください。お仕事終わりでお疲れでしょうし」
「あ、あたしも待ちますっ!お気になさらずでっ!」
「あ、どぞっす。俺はあんま匂いとか気にしねーすけど」
「て事だから、さっさとシャワー浴びろし」
「…ありがとうよ、お若いの。しっかり不快な臭いを洗い流してくるからね…」
少し元気がなくなったな。
自分から加齢臭がするのがショックだったのだろうか。
「あ、そうだ」
ポケットの財布から一万円札を出し、手渡してくる純おじ。
シャワー料金にしてはかなりお高いのですが。
つか金とか取らんわ。
「何で金?」
「若者達よ、わりーけどおつかい頼まれてくれ。俺がシャワー浴びてる間はトイレが使えないし、万が一中年のラッキースケベが発動しても誰得だろうからな。丁度良いべ」
「…わたしは得だけどなぁ。参考になるしぃ…」
ボソッと何か聞こえた気がしたが、スルースキルを使用しよう。
幸い純おじには聞こえていないようだし、下手にツっこんで喜ばせる必要はない。
何の参考にするのかは気になるとこだけどね。
さ、相馬の事は置いといて、確かに万が一でも汚いラッキースケベを発動させるわけにはいかないな。
純おじとしても、狭いユニットバスだから中が水で濡れるし、着替えするのには風呂場の外でやった方が楽に決まってる。
俺達がいたらやりにくいだろうよ。
仕方ない、言われた通りおつかいに行ってきますか。
「おつかい了解。で、何を買ってくればいいんだ?」
「あー、あれだ。あそこのスーパーの先にちょいお高めなケーキ屋あったろ?そこで適当に個別のケーキを買ってきてくれ。あ、見栄え良さげな4個は別の入れ物にして買ってくれると助かる。残りの金は自分達で食べたいのを買えるだけ好きに買えばいい」
ふーん、随分と太っ腹じゃあないか。
さてはパチで勝ったなコイツ。
「あたし達の分までいいんですかっ!?」
「いいんですよ。さっき不安にさせちゃった詫びもかねてるから」
「やったー!!」
「わたしはお詫びなんて、そんな…」
「いーからいーから。おじさん昨日黄金な騎士達がゲート潜りまくったおかげで財布が超ホットなの。所詮はあぶく銭だし、有意義に若者達へと使わせてくださいな」
やっぱりかい。
「あ、はい…ありがとうございます…」
「黄金ってもしかしてギャロっすか?知ってるセクシー女優が出てるってので、深夜の再放送見て一時期結構ハマった思い出が…」
「雄信君、キミ分かってるね!おじさん、実は初期のギャロシリーズのDVDはコンプしてるんだ!良かったらだけど貸そうか!?」
「いいんすか!?是非お願いしまっす!」
「よしきた!じゃあ今度幸人に渡しとくから!あ、幸人も見たかったら見るといいぞ!」
「俺はああいった特撮系はちょっとなぁ…。てかさ、四個を別にって…もしかして神崎家に?」
タイミング&人数も合うしな。
そして純おじが神崎家に行くって事は…。
「正解。ここでの話が終わったら、二人で一緒に行くからなー」
「…だよなぁ。そう言われると思ってた…」
純おじが来た時点で、なんとなくそうなるような気はしてたんだよ。
着替えを持って来ていたあたり、最初から身を清めて神崎家に向かうつもりだったんだろうね。
俺に会うだけなら、汚い姿のままでもいいわけだし。
純おじが家に友達がいる可能性を考えてなかったせいで、不幸な事故が起きてしまったけど。
「えっとぉ、それ、大丈夫なんですぅ?」
「ん?大丈夫って何が?」
俺が。
「それさっきあたしが無理にお願いしたんですけど…ちょっとユキ君くんつらそうみたいな…」
「あー、なるほどなるほど」
「無理くないすか?さっきコイツ超ヘタってましたよ」
はい、今も超ヘタってますよ…。
「ふーん…。幸人、何が無理なんだ?」
「…色々」
「色々ねぇ…ま、わからんでもないけどな。んじゃ、美夜ちゃんと話するだけならどうだ?それ以外は俺ができるだけカットしてやるからよ」
「…美夜と話すだけ?」
「そ。美夜ちゃんまで一本道。行きも帰りも神崎夫婦や妹ちゃんには会いません。それを神崎家の人に咎められるような事もさせません。ま、それでも物思う事はあるだろうけど、そこは我慢しろい」
…純おじには世話掛けさせてばっかりだな。
低い根性でもなんとかなりそうな道があるなら、行かないでどうすんだ俺よ…。
「…わかった、美夜と話してみる。悪いけど行きは、その、言ってくれた通り、カットしてくれると助かる。帰りは、あーと、ケースバイケースで…」
「おう、そこは任しとけ」
まともに話が出来るかわからんけど、なんとか頑張ってみる事にしよう。
ここで拒否ったら、レンちゃんに相応しい男には永遠になれなそうだしな。
後々ウジウジ後悔とかしちゃったりで、根性の成長に-補正が付く気がするもの。
「ユキ君くん、本当に大丈夫?あたしはさっき同じ事お願いしたし、大丈夫なら嬉しいけどさ…」
「大丈夫、超大丈夫。純おじが手助けしてくれるし、大丈夫。なに、一度バシッと覚悟決めちゃえば大したことないって。うん、大丈夫だから。みんな、さっきは拒否って悪かったな!」
「…本当に大丈夫ぅ?目は泳いでるしぃ、足も震えてるよねぇ?」
「やっぱ、無理してる感じなんじゃ…」
あー、女性にはそう見えちゃうかぁ。
きっと気のせいだよ。
バシッと覚悟決めた漢が、そんなヘタレな感じになるわけないってぇ。
「ハハッ!そんなバナナァ!目も足も、これ多分、武者シェイク的な感じだからさ!だから大丈ブイッ!」
「…無理してるようにしか見えないけどぉ」
「あー…本人が大丈夫って言ってんだからさ、無理してよう別にいんじゃね?それに、今更前言撤回とかするとかマジで超ありえねーし。な、幸人?」
雄信め、ニヤニヤしながら煽ってきやがって。
舐めんなよっ!
「あったりめーだろーが!このスカポンタン!俺はヤるときゃヤっちゃうタイプだこの野郎!前言撤回とか女々しい野郎共がする事なんかしますぇーん!!」
「さっすがー!言った通り、ヤるときゃヤってこいな!」
「おうよ!ヤぁってヤるぜ!」
…これで退路は無くなった。
よし、俺に後退は無い。
退かぬ媚びぬ省みぬの精神で頑張るぞーい…。
「うんうん。もしごねたら俺とした美夜ちゃんと話すって約束、あれの期限を今日までに変えたろって思ってたんだけどな!いやー、いらん考えだったわ!そんじゃ頑張れよ!叔父も陰ながら応援してやるからな!」
わぁ、最初から退路なんてなかったんだねー。
脅される前に自分で決めて良かったー…。
「くそったれぇ!もういい!ケーキだ!ケーキを買いに行くぞっ!畜生がっ!」
今だけは現実逃避して英気を養おう…。
ケーキ、ケーキ、良さげなケーキは、だ、あ、れ…。
神崎家ぇ…。
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