第70話

「…出なくていいのぉ?」


 おや?

 おかしいな。

 相馬にも尊○マーチなチャイムの幻聴が聞こえているなんて。

 …まぁ、幻聴じゃない事なんてわかってはいるけどよ。


「友達?普通の客ならあんな変な鳴らし方しないっしょ?」


 友達でも、普通の客でもないんだよなぁ…。


「…なぁ、もしかして…」


「言うな雄信…わかってる」


 雄信にはヤツがどんな変人なのか説明済みだ。

 お気づきになられて当然だよね。


[プルルル、プルルル、プルルル…]


 ポケットから出した、スマホの画面に表示されし名前。

 これで外にいるのが、俺と血の繋がりがある変人だという事が確定した。

 ワンチャン、通りすがりの変質者という可能性も潰えたか…。


「…何で出ないのかなぁ?もしかして…仲の良い女の子とかぁ?」


「…ユキ君くん、早く出なよ。てか何?あたし達が居たら出れない相手なわけ?」


 変な勘繰りは止めてよね。


「誤解だ。あれは変人だから、ちょっと出ようか悩んでいるだけで…」


「変人?家に訪ねて来て、電話もする仲なのにぃ?」


「だね。変人ならあたしが追っ払ってあげるから待っててよ」


「あ、真理。わたしも行くよぉ」


 立ち上がり、玄関に向かう二人。

 どうしよう、完全に勘違いしておられる。


[ピンポ、ピンポ、ピンポピンポ、ピンポーン]


 やかましいわあの変人!

 そしてしつこいわ!


「ちょい待ち!あれは変人だが俺の叔父…かもしれない!だから二人は戻ってくれ!俺が1人で出るからっ!」


「叔父さん?ユキ君くんの叔父さんはこんな変な事しないっしょ」


 するんだよ!

 外面だけしか知らないくせにぃ!


「叔父さんなら尚更挨拶しなくちゃねぇ♪」


 絶対女だとか思ってんだろ。

 よく考えろ、尊○マーチでチャイム鳴らすヤツは、仮に女だとしても変人だ。

 まともな人間じゃないから危険だって。


「…さっさと1人で行って、友達居るからって言えば良かったのに…」


 ごもっともな意見、ありがとうございます。

 でも仕方ないじゃん。

 なんとか身内の恥を上手く隠す事は出来ないかって思っちゃったんだもん。


[カチャ…]


 あ、やべ。

 二人が鍵を開けやがった。

 間に合え俺、今ドアを開ける訳には…!


「ばみょーん!!!」


『ヒッ…!?』


「…oh」


 やってくれたな、変おじ…。

 何がばみょーんだよ。

 ボサボサ頭に無精髭のサンダルジャージ姿、その上変顔と謎ポーズまでしおってからに。

 比田と相馬が硬直するのも無理はないわ。


「…テイクツー入りまーす。あ、一旦ドア締めるからさ、チャイムが鳴ったら開けてちょ。いいね?」


 無言で頷く比田と相馬。

 そんなヤツの言うことに従う必要はねぇです。


[ピンポーン]


 放心中の比田と相馬を押し退け、ドアを開ける。


「こんにちは、可憐なお嬢さん達。幸人は…ああ、いたか。まったく、いるなら早く出て来なさい。少し心配したぞ?」


「俺は純おじの頭が心配だよ。あと今更外面良くしたって手遅れだかんな」


「俺もそう思う。つか何でお前がすぐ出ないのよ?お前のせいで俺ってば完全に変なおじさんじゃんか」


 おぉん?

 俺のせいっだってか、この野郎。


「チャイムの時点で手遅れなんだよ!普通に招き入れて紹介できるわけねーだろが!」


「はいはい、ごめんねごめんねー。あ、これから君達超ほっとっとタイム突入な感じかもだけどさ。俺も中に入っていい?カカカカモーンされていい?」


「おう。何言ってんだかよくわかんないけど、このまま外に出してるのも恥ずかしいから入ってくれや」


「あじゃーす。あ、そだ。我慢できなくなったら言えよ?終わるまで外で待ってるから。混ざりたいとこだけど残念な事に俺使い物にならんし、罪になるんで」


 もう手遅れだからって、JKの前でも構わずそういう発言しちゃう感じですか。

 そうですか。


「よし。もう純おじに我慢できないから、ずっと外で待っててくれな」


「あらやだ。冗談が通じない童貞だこと。つか、そもそも俺お前の保護者だしぃ。ここのスペアキー持ってるから追い出そうとしても無駄ですしぃ。ぶっちゃけさっきも留守なら中に入って待とうとしてたしぃー」


 糞が。

 仮に比田と相馬を止めて居留守ができていたとしても、この変人と友人達との出会いは止められなかったということか。

 マジでさっさと俺1人でシメとけば良かった。


「あ、あのぅ…」


「ん?なんだい?日曜がいらないとか言いだしそうな美少女ちゃん」


「え?日曜…?」


 このオタ変人が…!

 ちょっとは自重しろや!


「相馬、この変人の言うことは適当に流せ。まともに会話すると穢れるぞ」


「そ、そう…」


「そうそう。その場のノリで喋ってるだけだから、俺の言うことはあまり深く考えない方が良いよ。で、何かな?」


「えっと、一応、ご挨拶をと…」


「おっと、すまんね。若者の前でテンション上がって忘れてた。それでは…俺は、未来の幸人だ!」


 そろそろ殴ってもいい頃合いかしら?

 若干ありえそうなのが腹立つ。


「えっと、あのぅ…確かに物凄く似てはいますけど…それは、あのぅ、なんといいますかぁ…」


 困惑した相馬とか、かなりレアだと思うんです。

 年上の変人キャラは苦手とみえるね。

 つーか、苦手じゃない人の方が珍しいわな。


「えーと、純おじさん。前会った時とは全然違くないです?ちょっとビックリっていうかー…」


「いやー、騙したみたいで悪いけどさ。こっちが本来のおじさんなんだ。ごめんね?比田ちゃんがお望みなら、おじさん今からスーパーに懺悔タイムするけど…」


「よし、比田。お望みしろ」


 とりあえず懺悔して皆様に謝れ。


「ユキ君くんまで何言ってんのさ!懺悔とかそういうの、別にいいんでっ!」


 チッ、遠慮しやがって。

 望めば喜んで懺悔すると思うのになぁ。


「さーてと、おふざけはこれくらいにすっか。比田ちゃんは知ってるだろうけど、おじさんの名前は下谷純。コイツの叔父だよ。変なところを見せて申し訳ない。嫌かもしれないけど、よろしくね」


「嫌なんかじゃありません!わたしは相馬愛美です!よろしくお願い致しますぅ!」


「いやぁ、しかし君も美人さんだね。幸人の周りは可愛い女の子ばっかりで羨ましいよ」


「お、お褒めいただき恐縮ですぅ!」


 …少しは真面目にやる気になったか。

 見た目は胡散臭いままだけど。


「部屋から覗いてる男の子は…もしかして雄信君かな?このバカ甥の親友の」


「あ、はい!俺が親友の大友雄信っす!よろしくです!」


「幸人から色々と話は聞いてるよ。君がいなかったら、このバカ甥はもっとバカになっていた思う。親友になってくれて、本当にありがとうね」


「いやぁ、お礼を言われるほどではないっす!なるべくしてなった感じっすし!」


「そうか。ま、皆これからもコイツをよろしく頼むよ。じゃあ若者達の邪魔をするのもなんだし、おじさんはこの辺で…」


 …最初からふざけないで、その外面モードで現れてくれてたら良かったのに…。


「…って、帰るわけにはいかないんだよなぁ。当事者達がいて非常に都合が良いし。なぁ幸人、俺が美夜ちゃん関係でここに来たってのは察しがついてんだろ?」


「…だとは思ってた。話を聞きに来た感じだったり?」


 おそらく美紗母さんから純おじに連絡が行ったのだろう。

 じゃなきゃちょっと前に会った純おじが、すぐにまた俺に会う理由なんて思い付かないし。


「まぁそんなとこ。昼に美紗さんからメールが来てて、見たらビックらこいたよ。電話して話してみたけど、美紗さん的にも詳しい状況がいまいちわかんねーのと、お前の様子がどうなのかも心配みたいでね。切りも良かったし、仕事を早上がりしてお前に会いにズバッと登場したわけ。ま、お前は平気そうで安心したわ。美夜ちゃんはやべーみたいだし」


「…は?」


 美夜がやべー?

 おいおい、なら返事のもう大丈夫ってのはどういう事だよ。

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