元SM令嬢が乙女ゲームの悪役令嬢に転生して、鞭で本気の悪役令嬢を目指します。〜ヒール(悪役)になって断罪され、平民になるのが目標です〜

香 祐馬

第1話

花々がゆらゆらとたゆたう春。

学園の大聖堂には、今年の新入生が集っていた。ステンドグラスが光によって神秘的な空間を演出している。

乙女ゲームのオープニングそのままである。


私には、前世の記憶がある。

没年33歳。SM嬢をしていたが激昂したお客さんに殺された。

被虐趣味の客だけくればいいのに、頭の固い男が来ちゃってね。ご臨終。


そんな嗜虐趣味の私がハマったゲームが今の世界。

病んでる青年が、ヒロインの聖なる魔法のおかげで闇が晴れてハッピーエンドになる。

でも私はハッピーエンドと逆のことをひたすらしてバッドエンドにひたすら向かうという楽しみ方をしていた。

バッドエンドでは、被虐趣味の攻略キャラがヒロインになびかずに悪役令嬢に叩かれちゃって、はぁはぁしちゃうの。

つまり私の推しがいる世界です!

騎士科の犬がいるの。名前はなんだっけ?


壇上には新入生代表の王子が挨拶している。

さらさらの金髪、切れ長の目、鼻は高い。

老若男女が見惚れるというのはこの男のような容姿なんだろう。

まあ、私には関係ない。ただ生物学上男なんだと思うだけだ。


この王子は、所有欲が強すぎる。

バットエンドでは、ヒロインが監禁されて一生部屋から出れないの。

うん、監禁じゃあ萌えないよね。せめて亀甲縛りで監禁くらいしないとさぁ。


ちなみに、私はどの攻略対象にも悪役令嬢で登場してヒロインをいじめる。私が必ず婚約者になるからだ。

ヒロインにちょっと注意すると断罪されるお決まりパターンだけど、私は被虐犬を探すのが忙しいから無視する。

勝手にハッピーエンドを迎えておくれ。

強制力で断罪されても、問題ない。身分剥奪のうえ隣国で平民になるだけ。ご褒美だ。


王子の演説終わったな、騎士科に向かおう。


教室を見渡すと200人くらいの人員がいた。

この学園を卒業すれば、出世の道が開け富が築けるゆえに入学試験は、熾烈を極める。

当然私も受けて合格した。しかも、首席だ。

私は生まれた時から、追放されても傭兵として生きれるよう鍛錬していた。

同時に、魔道の家門ゆえに魔術も学んだ。体は小さくても大人な頭脳をフルに使った結果、今では最強だ!


「私の名は、ネフェルティ・ヴァンキュレイトだ。」

パァーンっとケインを振り落として自己紹介をした。

私の武器は、計3つ。

右腰に2個の鞭を携帯している。一つは縄の鞭:ブルウィップ。もう一つは棒状の鞭:ケイン。この2つを自由自在に操る戦闘スタイルだ。

まずブルウィップで相手を拘束する。その後、時と場合によって武器を変える。

痛めつけたい時はケインで叩く!

死傷させたい時は、左腰のレイピアで突く!

これに魔術も加えると、私の死角はない。


入学から2ヶ月ほどたったある日。

「ネフィ!!辞めてぇぇ。うわぁっ!」と弱虫エドが訓練場を逃げ惑っていた。

「エドワード!逃げるな、鞭で捕まえるぞ!」

「ひぃぃっ、鞭がパシンパシン言ってるぅぅ。怪我するよ、いや今日で僕の人生が終わるぅぅ!!」

大量の涙と鼻水を垂らしながら全力疾走だ。

私はブルウィップを振り回して、エドを捕まえた。

「ぎゃぁっ、捕まった。待って待って!ハリ〜、助けてぇ」訓練場にエドの悲鳴が響き渡る。


「...エド、諦めろ。結局救護所に行くのは変わらない。それが今か、後になるかの違いだ...」ハリソンは、眼鏡を指でクイっと上げて諭した。

「ハリー。君は剣を構えるだけで、すぐ意識を飛ばすじゃないか!?僕は、ネフィの打撃を食らっても意識がなかなか飛ばないんだっ!!何度も死線を越えるんだぞ!」

プルプルしながらもエドは、剣を構えた。


ザンっ  ぐえぇっ!

ドスっ  ごふぉっ!

バキっ  ................ ぱたん


「「「おぉぉ、二発耐えたぞ、さすがエドワード。」」」周りは拍手喝采だ。

えいさっ、ほいさっと、男たちがエドを救護所に運び込んだ。


はぁ、予定が狂った。

そもそも、被虐趣味な推しメンを探しに騎士科に来たのに何故いない!

名前は覚えてないけど、何度も見たから容姿は覚えてる。

バグ??

私が魔道科に行かなかったから、シナリオが変わった?

でも一人くらいマゾヒストがいるのではと希望をもってみたが、痛みに恍惚とする奴が見つからない。

正しくは見つけられない。

私が強すぎて、みな1撃で完璧な失神をするからだ....。

エドワードは、唯一何発か耐えるが逃げるので違う、ただの臆病者だ。

ハリソンは、構えた瞬間威圧もしてないのに失神される。なんだかわからないやつだった。学園に入学できたこと自体謎である....

こうなってくると、ヒロインが入学してるのかも不安だ。私は追放されて平民になりたい。貴族堅苦しい。


初秋、中庭に王子がいた。その横には庇護欲掻き立てるヒロインが居た。

くりっとした黒い瞳とさらりと伸ばした絹糸のような黒い髪、口はあひる口。うん、可愛い。

これは、王子ルートか?これは断罪されないと王子妃になってしまう。

「ハリソン、あのクズお...、第二王子の横にいる女生徒知っているか?」

「黒髪で王子の周りにいる女性は多分マリーナという商家の娘だと思う。最近、一緒にいることが増えたようだ。良い友人ってところか。」

ハリソンが現状を教えてくれた。


ふむふむ、ハッピーエンドを試したことがないから、全くといって攻略度合いがわからん!ま、いっか。


ある日、今日もエドと鬼ごっこをしていた時のこと。

「こないでぇ!こないだ五発くらって救護所に行ったばかり。ネフィは、もう騎士団に入ってもいいんじゃないかなぁ!?ヒイっ!」

ブンっと鞭を振るうが、全てエドに避けられる。


チッ。逃げ足が早い。


「「「エドワードぉぉ、今日も頑張れぇ!」」」

周りの有象無象がうるさい。


どぉぉんっ!


爆煙が上がって、砂埃の中から人が出てきた。

『騎士科のくせに魔術を使う女ゴリラはどこだ〜!!』と叫ぶ魔道科の制服を着た男が出てきた。


「ゴリラとは、私、ネフェルティ・ヴァンキュレイトのことか!?」

ケインをビシッと突きつけて、相手を威圧する。(美人のわたしがゴリラ!?許さん!)


「俺は、魔導科デイビット・サーキュリットだ。俺と勝負しろ!」と決闘をいいだす。

ネフェルティは、ハッとした。

「お前は、根暗サイコパス野郎!」

攻略対象!バッドエンドではヒロインを人体実験に使い続けるという頭がいかれてる自己中心野郎だ。

なぜ、サイコパスは居るのに、騎士科の犬がいないのだ!理不尽だ。


「俺は、そんなんじゃない。お前に何がわかる!」

「夜な夜な新しい魔術を動物にかけて、高笑いしている奴が、根暗でもサイコパスでもないと?」

「な、なぜそれを知っている!?もういいっ!俺の魔術を受けてみろ!」とデイビットが魔術を構築し出した。


魔法陣が光り輝いて行使され....ない!


パーンっ

魔法陣を斬り、一閃する。

「鞭で陣を破壊した。それを防ぐための守りの陣が足りない。出直せ。」と吐き捨てた。


しばらくすると霧散したエネルギーが渦のように集束し、弾丸のようにデイビットに戻って行く。

エネルギーを受け止めきれず、デイビッドが訓練場の壁まで飛ばされ壁を倒し失神した。


それからは、事あるごとににデイビットが現れるようになった。

「今日は守りの陣も構築した魔法陣を用意してきたぞ、魔女め!」

パシーッン。

ブルウィップで即一閃。

「構築までが長い!構築途中で棄却され放題だ!出直せ!」

また別の日、

「今日こそ、勝負だ!魔獣め!  いてぇっ!」

バッシっ。

ケインで叩く。

「せめて人に例えろ、根暗サイコパスめ!

息をするごとく魔術も自然に出るようにしろ。」


なぜかデイビットが毎日毎日飽きずに挑んでくる...。

日々鍛錬をしているため根暗っぽさがなくなり、サイコパスでもない。

私が、シナリオを変えちまったぁっ!!



冬が明けて、最終学年に進んだ春。

とうとう私は第二王子の婚約者になった。ヒロインは、王子ルートなんだね。


「なあ。本当に王子と婚約したのか?」

ハリソンが唐突に聞いてきた。

「えっ、ネフィ。王子妃になるの?えっ、熊も素手で昏倒させる王子妃ってなに?」

エドをパシっと叩いてやった。

「痛いよぅ!すぐ鞭が出る王子妃なんて子供の夢が壊れるよ。」とシクシク泣き始めた。

「打診じゃなくて、王命だったから断れなくて。ただし、条件は付けさせてもらった。」

「...どんな条件をつけたんだ?」

「王子妃になっても騎士団に席を置く条件だ。」

「...そうか。王子と話は合うのか?」

「その王子な、春期休暇の時に屋敷に来たんだが....。」と私は回想し出した。



「お嬢様!大変です。ジュリアン殿下がいらっしゃいました!」とメイドが慌てて走ってきた。

「はぁ?先ぶれなしで?」

私は、ありえない事態に困惑した。普通は、先ぶれののち、しばらくたってから訪れる。

そうこうしてるうちに、鍛錬場に殿下が現れた。

「はじめまして。ジュリアン・セントワールだ。」と王子が挨拶をした。

「お初にお目もじかかります。ヴァンキュレイト家が娘ネフェルティです。殿下は息災であられますか?(頭正常か?いきなりくるとは、俺様至上主義すぎるだろう。)」

きっと、美しいものが好きな男だからこの私の格好は嫌悪の対象だろうな。汗まみれ、髪ボサボサ、土つきまくりの3連コンボだし。

あぁ、どんどん顔がしかめられてく....

「ああ。今日は、あなたに言いたいことがあってきた。この婚約は、王命で決まったもので愛はない。今後もあなたとは、愛を育まない。声をかけるな。では失礼。」と殿下は帰っていった。


「ってなことがあって、婚約者の肩書がある他人になった。卒業後は騎士団に入り浸るから、これからもよろしく!」と二人の肩をバシバシ叩いた。

するとエドが、こそこそ声を潜めて

「王子、愛し合わないの?子供どうするの?」と直球で聞いてきた。

「...多分、愛人を作るんじゃないか?」とハリソンも声を潜めて訝しげた。

マリーナを愛人で置いて、婚外子として育てると思う。

無事にシナリオ通り断罪されたら、マリーナが王子妃になれるがね。



本格的な夏が近づくと感謝祭が開催される。全ての神に感謝を示し、3日3晩踊り明け暮れる。貴族も舞踏会が開かれ、国中の貴族が集まる。

当然、私も参加する。しかも今回は婚約者として殿下のパートナーだ。


舞踏会当日になって、朝から磨かれる私。

今日の私の装いは、スリットがガッツリはいったマーメイドラインの赤いドレス。

太腿には、隠して鞭を一つ仕込んだ。


殿下が迎えにきた。


「久しぶりだな。今日は、一緒にいることを我慢してやる。空気でいろ?!?」

俺様殿下がこっちを見てびっくりする。

着飾ると美しいだろう?ふふん、空気だから無視。微笑で返事をする。


「...ヴァンキュレイト嬢。ヴァンキュレイト嬢!」

うるさいなぁ、私今空気だから返事できないの!さっきから殿下話しかけすぎ、うざっ。

「返事をしないか!」と、怒られちゃった。

「...空気でいろとおっしゃられたので返事ができませんでした...なんでございましょう?」と殿下を見ずに返事をした。

「お前の名前は長い!愛称で呼びたい。」

ヤダなぁー。

「...学友たちは、ネフィと呼んでくれてますが、殿下はお前で結構ですよ。愛称など恐れ多いです。」

「そうか、ではネフィと呼ぶ。」と殿下が宣った。

いや、呼ぶなしっ!

「.....殿下のお好きに。」私は諦めた。


宴もたけなわになった時入り口付近が騒がしくなった。

耳をすましてみると、ドドドという地響きとたまにボカッという打撃音がする。なんだろう??

侍従たちが、避難を促し出した。

牛が暴れてる?

なぜ、魔道士を出さないんだと思ってたら、牛に反魔の布がかかっていた。

魔道士のローブか?厄介なものひっかけてる。


姿勢を低くして人並みを駆け抜け太腿から鞭をだし、牛の正面に回り込みショットっ!

牛の脚に鞭が絡んだところを、身体強化して放り投げる!


ドッカーン!! 


牛がひっくり返ってのびた。

牛に素早く近づき魔道士のローブをひっぺがえして、拘束の魔術を発動した。


この後貴族の間で私のことを「牛使い」と揶揄されて呼ばれることになった。解せぬ...。




そんなこんなで断罪される卒業パティーがやってきた。

王子は一時期「ネフィ、ネフィ。」とくっついてくることが多くなり、マリーナはキャンキャン吠えた。

下僕の犬は欲しいが、こんな犬はいらない。とりあえず鞭で威嚇して撃退した。


王子とマリーナが近づいてきた。

「ネフィ。今日も美しいな。」と、声をかけてきた。

「殿下も麗しいですね。」さらに「マリーナさんも可愛いですね。」と付け加えた。

(ほら、私じゃなくて横の子褒めて!)

「そうだな。マリーナは性格も可愛くて、魔法は温かいんだ。」と王子が話し出す。

「君と居ても心が満たされない。このまま結婚しても、君を愛してあげれない。だから婚約を解消してほしい。」


んんっ!!?破棄じゃなくて解消?

えっ!?ごめん、想定外。頭真っ白になっちゃったよ....


「婚約、...破棄でなく?そうですね、解消できるなら了承しますが、王命でしたから王様にうかがってみないと。」ととりあえず一般論を伝えてみた。

王子は、王様の方を向いて

「父上!私は、マリーナを愛してます。聖なる魔法ももっているマリーナは王族にふさわしい価値があります!この婚約を解消させてください。」と堂々と叫んだ。

周りの常識人たちはドン引きだ。

「ならぬ。令嬢自身に、何か瑕疵がない限り許すことができない。」

そりゃそうだ。

だが、不貞王子は私の悪行を喋り出した。

「ならば、証明してみます!ヴァンキュレイト嬢は、度々学園のものを壊し損害を与えています。」

あー、デイビッドがけしかけるから美術品っぽいものが壊れるんだよなぁ。


「嫌がるものに無理やり鞭を振るって暴虐無人の行いを日々繰り返している。」

それは、エドとの鬼ごっこだなぁ。


「このようなものが王子妃になったら、品位が落ちます。」と王子は進言した。


「それは、誠のことか?」

私は、肯定した。

「全て事実であります。(それに至った過程が説明されてないがね。)そのことで王家の品格を落としてしまうことに考えが至りませんでした。」

「そうか。では、婚約を解消とする。」と呆気なく王が宣言した。

「さて、こちらからの解消であるので何か一つ願いを聞こう。何かあるか?」と王が聞いてきた。


「ひとつだけ叶うならばわたくしの爵位を無くしていただきたく存じます。」と、進言すると周りがざわついた。

「私は先日の感謝祭で『牛使い』と揶揄されました。そして、この度の婚約解消にて、貴族としての価値が失われたと思われます。こんな私では貴族の方と結婚は難しいでしょう。故に、市井にくだりたいと思っております。」と悲しそうに言った。

「わかった。爵位を無くそう。ただし、平民として今後もこの国の騎士団に士官することを命ずる。」



なんと隣国に追放されずに平民になった。

これからは気楽に生きていこう。


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元SM令嬢が乙女ゲームの悪役令嬢に転生して、鞭で本気の悪役令嬢を目指します。〜ヒール(悪役)になって断罪され、平民になるのが目標です〜 香 祐馬 @tsubametobu

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