第3章

22

召喚師による事件から幾日かたった。

泊亮太はいつものように高校を出、逆浪と歩いていた。

「そういやアイツ、なんか思い出したりしたか?」

「神永さんによれば、なんも進展なし。完全に迷宮入りだ。」

記憶を失わされた召喚師は、その後も記憶を思い出すことはなく、勾留されたままになっている。

その後、亮太の暮らすアパートで2人は雑談に興じ、日が落ちかけたところで光は帰っていった。


1人になった亮太は、眼帯を外し紫色の右眼を晒した。

(ホント、ここ数ヶ月で色々起こったよなぁ。全てはこの眼によるものな訳だけど。)

逆浪と出逢い、右眼の真実を知り、ちとせと出逢い、自身の過去を知り‥。

(今度は誰と出逢って、何を知ることになるんだろうか‥。)


(…ん?)

突如人の気配を感じ、亮太は振り返る。

しかし、そこには誰もいない。

風がふくのみだ。


次の瞬間、亮太は何かを避けるように横に飛び、直後にふく風に向かい踵を振り下ろした。

普通なら空を切るが、今は違った。

「ぐへっ。」

うめき声をあげ、風から出てきたのは亮太や光と年の変わらないくらいの青年だった。

「誰だお前。」

「異能を使っている状態のオレの気配を掴むたぁ、お前やるなぁ。」

亮太の質問には答えず、青年は楽しそうに話しかける。

「すまん亮太、忘れ物を‥って鎌鼬?!何でお前ここにいるんだよ!」

「げえっ、逆浪かよ。相手が悪いし、今日は帰るわ。じゃな。」

光を見て瞬時に顔を歪めた青年は、風と同化して消えた。

「おい、待てコラぁ!」

追いかけようとした亮太だったが、あっという間に青年の姿は消えていた。

「ちきしょー。おい光、アイツ誰だ?」

「裏の世界の殺し屋だよ。コードネームは『鎌鼬』。最近になって出て来たヤツだが、実力は結構ある。」

「ふうん、そんなヤツが一体俺に何の用だったんだろうな?」

むろん、答えは返ってこない。亮太は首をひねるしかなかった。


亮太の部屋から抜け出した鎌鼬。少し歩くと、彼の携帯が鳴った。

「ん、もしもし爺さん?随分早いね。」

『お主の腕ならもう終わる頃だろうからな。結果は?』

「ああ、しくった。ありゃ異能力者だぜ。風の状態のオレを見切りやがった。」

『ほう。あの子供がそこまでになったか。』

「んでどーすんの?連れて行きゃいいわけ?」

『勿論だ。彼奴が異能力者であれば問題はないのだからな。』

「アイツに何言われてもオレは知らねえよ?」

『構わん。それだけのことを一家でやったのだから。』

「腹は決めてるってワケね。んじゃ、明日か。」

男との会話を終えた直後、通信は切れた。

「やれやれ、爺さんはせっかちなんだから。」

鎌鼬のこぼした愚痴は、風と共に消えていった。

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