断章

幕間

夕暮れ。

どこかの建物の一角で、2人の男が密談をしていた。

「やれやれ、召喚師の奴め。余計なことをしてくれやがって。」

「まあまあ先生、いいじゃありませんか。あれは完全に自爆です。それに恐らく先生の前に立ちはだかってくるであろう輩たちを目視出来た訳ですから。」

的を射た発言に黙り込む「先生」に、男は立て続けに話す。

「しかも、先生の力で彼の口封じも成功。先生の情報は向こうには掴めませんよ。」

「まあ、それは収穫かもしれんが、おかげでこちらは動きづらくなっちまった。」

「それはそうですねぇ‥。どうするんです?」

「もしかしたら、その、召喚師を追い詰めた奴らが、うまいこと使えるかもしれんな。」

「どういうことです?」

「奴らを使って、邪魔な輩どもを一掃出来るかもしれんということだ。」

「ははあ、そうやるんですか。しかし、こちらの思惑通りに動きますか?」

「それはだな‥。」

密談は、誰に聞かれるでもなく進んでいった。


召喚師の事件から数日後の朝。

ホームルーム前の騒がしい教室で、高凪ちとせは自習をしていた。

「おはよ、ちとせ。あれ?」

友人の1人、翡翠冬香が話しかけてくる。彼女も異能力者だ。

「おはよう、冬香。どうしたの?」

「いや、ちとせ少し変わった気がして。最近なんかあった?」

「変わったって、何がどう変わったの?」

「うーん、なんていうか、前のちとせはなんか暗さ?後ろめたさ?みたいなのがあったんだけど、今のちとせはそれがないからさ。むしろ前より明るくなった気がすんの。」

「そっか、ふふっ。」

(私、そんなに顔に出てたのか。)

思わず笑ってしまった。

「ちょっとぉ、何がおかしいの?」

「ごめんごめん、最近確かに色々あってさ。びっくりして笑っちゃった。」

「色々って何よ?」

「それはねぇ‥。」

話すか否か、決めかねていたちょうどその時のことだった。


「よう、ちとせ。」

登校したばかりの泊亮太が、声をかけてきた。

初めての事態に驚きつつも、ちとせは挨拶を返す。

「あ、泊君。おはよ。」

返事をもらった亮太は、安堵したかのように息をつくと、そのまま自分の席へと向かった。

(挨拶するくらいで、何も緊張しなくたっていいのに。)

そんなことを考えていると、冬香から声がかかる。

「ねえねえ、その色々ってもしかしてさ、泊が関わってんの?」

「うん、よく分かったね。まあ、冬香なら分かるか。」

「だって初めて見るよ?あの泊が自分から誰かに声かけるの。しかも名前呼びだし。噂だとヤバい奴だとか人間嫌いだとか警察に目付けられてる超一級危険人物だとか言われてたんだよ。どこまでがホントなのかは区別つかないけど、そんな噂のある奴とどうやって仲良くなったの?そういえば泊も最近雰囲気が変わったよね?前より丸くなったというのか‥。もしかしてちとせがなんかして助けてあげたの?」

「ううん、むしろ私が泊君に助けられたの。」

繋がりの見えない答えに、困惑する冬香。

「えー?どゆこと?」

「それは、秘密。」

「ええー、ケチ。」

「話したいのはやまやまなんだけど、私のことはいいにしても泊君のことを勝手に話すのはちょっと、ね‥。」

(泊君のことどこまで話していいのか分からないし、話すにしてもすごく重いし。)

「そっかあ、分かった。じゃあ、もし泊本人からOKでたら聞かせて。それでいい?」

「分かった。聞いてみるよ。なんていうかはわからないけど。」

「OK。じゃね。」

素直に聞き入れた冬香は、自分の席へと戻っていった。

(泊君は、少しずつ前向きになってきてる。私に挨拶してくれたし。私も頑張ろ。)

冬香の後ろ姿を眺めつつ、そう決意するちとせ。

そんなちとせには、冬香が考えていることなどわかりもしなかった。


(泊について話してる時のちとせ、なんかいつもより嬉しそうというか楽しそうというか‥。もしかして泊のこと好きなんかな?泊も泊でちとせのこと名前呼びだし。優等生のちとせと泊‥。なんか、いいかも。)

勝手に亮太とちとせをくっつけて、友人の恋路にニヤニヤする冬香であった。

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