21

翌日。

事件の報告のため、神永が亮太の元を訪れた。

無論、光とちとせもいる。

「あの後逮捕した召喚師は、どうしたんです?」

開口一番、質問した亮太に、神永は苦虫をかみつぶしたような表情で答える。

「それがなあ、何も覚えちゃいねえんだあの野郎。」

「「「はぁ?!」」」

衝撃的な答えに、3人の声が重なる。

「ホントの話だ。何度問い詰めても、『何の話ですか?』の一点張り。ホントに忘れていやがる。」

その話で、亮太には思いついたことがあった。どうやら光も同じ結論に達したようで、不敵な笑みを浮かべている。

「もしかしたら。」

「ん?思い当たりがあるのか?」

「あの時出て来た妖怪の中に、対象者を記憶喪失状態にさせてしまう妖怪がいたんじゃないですか?」

「それなら理由がつくが……。」

「…あの男が口封じのためにそうさせたってことだろうな。」

神永の言葉を、光が引き取った。だが、これで終わりではない。

「何にせよ、これでホントに迷宮入りって訳ね。動機も、男の正体も分からずじまい。」

ちとせの的を射た発言に、全員がため息をついた。

「ただ、あの男とはまた会う気がする。」

亮太の呟きは、場違いな声にかき消された。

「パパー!」

「おうおう、車で待っててって言ったが、寂しくて来ちまったか。パパはここだぞー!」

部屋に入ってきたちっちゃい子供を、神永は嬉しそうに迎え入れる。

「え、パパって神永さんのことですか?」

「そうか、お前にも言ってなかったんだよな。神永楓。俺の娘だ。楓、この兄ちゃんが何度もお話した亮太兄ちゃんだ。」

「りょーたにーちゃん!」

楓は満面に笑みを浮かべ、亮太の脚に抱きつく。

「初対面だろ?ずいぶん懐かれてるなあ亮太。」

「なんせ俺が教え込んだからな!亮太は強くて格好いい兄ちゃんだって!」

「ちょっと神永さん!何適当なこと子供に吹き込んでるんですか!」

「いいなあ泊君。羨ましい。」

「待て待てちとせ、顔が怖いって!俺を死なす気か!」

いつになく、騒がしいひととき。

それが亮太には、何故か心地よく感じた。


「そういえば、泊君。」

それから数分後。

光と神永は帰路につき、ちとせも帰ろうとしていたが、急に振り返り亮太を呼んだ。

「何だよ。」

「昨日、泊君言ってたよね。自分1人だけの命だから、誰かの代わりに傷つくことぐらい何でもないって。」

「言ったな。で、それが何だよ。」

唐突な話に、困惑する亮太。

「私ね、父さんの仕事を見てて思ったんだけど、自分1人だけの命を持ってる人なんていないんだよ。人はみんな、誰かに必要とされている。だから、命はその人だけのためにあるんじゃない、その人と、その人を大事に思ってる人のためにあるの。」

「つまり、俺の命は俺だけのものじゃないって言いたいのか?」

「うん。神永さんだって、逆浪君だって、私だって泊君を大事に思ってる。それは、知っていてほしいんだ。だから、1人だけで傷つこうとかしないでよ?」

「分かった、善処する。」

「むぅ、政治家みたいな台詞言ってくれちゃって。さて、私も帰るよ。父さんも忙しいし。市長選、新顔の1人が徐々に勢力伸ばしてるみたいで、事務所がわたついてるんだ。何て言ったっけな、確か新藤悟だったっけ。んじゃ、また学校でね。」

「気をつけて帰れな。」


ちとせを見送った亮太は、物思いにふける。

(大事に思ってくれている人がいる、か。悪くないもんだな。)

いつになく、心が暖かかった。

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