20

「ここで、いいの?」

「おい亮太、マジでここなのか?」

「ここにいるんだろうな?」

光とちとせ、そして神永から疑問の声が零れる。

あの後、召喚師の正体が分かったと宣言した亮太は、約束通り神永に連絡を入れ、とある建物の前へとたどり着いていた。

「大丈夫。間違いはない。」

ニヤリと笑みを浮かべた亮太は、ドアを開け、建物の中に入り込んだ。

「お邪魔しますよ、召喚師さん。」


その少し前。

召喚師は焦っていた。

(全く、マズいことになったな。コアを回収し損ねるとは。)

雪女の召喚に利用したコアが、乱入者と共に氷漬けになったせいで、回収出来なかったのである。

(透明人間を使って回収していたのに、あの、確か泊といったか。奴らのせいで持ち去られてしまった。)

コア自体には情報はないはずではあるのだが、回収出来なかったのは痛手であった。

(まあ、さすがに僕の正体には辿り着けないだろうけど。)

そう思ったときであった。

「お邪魔しますよ、召喚師さん。」

あの青年が、やって来た。


「お邪魔しますよ、召喚師さん。いや、古書堂『さざれ』の店長さん。」

そう、彼らが今いるのは「古書堂 さざれ」の店内であり、先程亮太が「召喚師さん」と呼んだ人物も、さざれの店長であった。

「何かと思えば、召喚師?一体、何のことだい?」

「しらばっくれても無駄ですよ。これ、回収しちゃったので。」

そう言う亮太の手の中にあったのは、透明なシートが掛けられた1冊の古本。タイトルは「雪女」。

「それ、うちの本じゃないよ?」

「どこまで惚ける気ですか?この本にはパラフィン紙が掛かってます。本に対してパラフィン紙を掛けるのはこの店のルール、でしたよね?そんなことするのは、この辺り一帯の本屋ではここだけです。それに、買取済のステッカーが貼られてませんから、この本は確実にここに持ち込まれ、買い取られていない状態であるってことです。そんな状態の本を気軽に持ち出せるのは、あなただけなんですよ。」

店長、いや召喚師は抵抗を諦めたのか、ゆるゆると首を振った。

「やれやれ、まさか本当に見破られてしまうとは。そうとも、僕が召喚師だ。」

「何でこんなことを?」

当事者でもあるちとせの問いに、彼が答えることはなかった。

なぜなら。


「そこまでだ、召喚師。」

聞き慣れない、低い声が店内に響いた。

いつの間にか、カウンターにいる召喚師の背後に、黒フードの男が佇んでいた。

その顔は見づらいが、黒く光っており、仮面か何かで覆われているように見える。

「お前の役目は終わりだ。」

そう告げた男の、仮面の向こう側の目が、赤く光った。

次の瞬間。

「ぐわぁぁぁぁ!」

苦しみだした召喚師の周囲に、近くの本から勝手に変化した魑魅魍魎どもが集まってくる。

彼らに取り囲まれ、召喚師の姿は見えなくなった。

「何が起こっている?」

困惑する4人を他所に、仮面の男は自身の背後にあったゲートをくぐり、姿を消した。

「あ、おい待て!」

慌てて男を追った亮太だったが、ゲートは男がくぐった直後に消失。追う手段は絶たれた。

仕方なく、苛立ちを吐き出す亮太。

「一体、何なんだアイツは?」

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