17

(マズい!)

ちとせを狙うゴーレムに気づいた亮太は、思い切り跳躍して妖怪軍団を飛び越え、踵回し蹴りでゴーレムを吹き飛ばした。

「泊君!」

安堵の表情を見せるちとせに、容赦なく亮太は怒りをぶつける。

「お前な、巻き込まれるって分かってたんだったら先に言えよ。」

申し訳なさに縮こまるちとせと、亮太に気づいた光も、軍団をかき分け2人の元へとやってきた。

「良かったな、無事で。」

「安心してもいられないぞ。妖怪どもがこっちに来る。」

亮太の言うとおり、相手を失っていた妖怪たちが3人に向かっていた。

「光。頼んでいいか?」

「内容にもよるがな。」

「ちとせを連れて先に行って、神永さんに被害者発見の一報を頼む。」

「それって泊君を見捨てて行けってこと?そんなの無理だよ!」

光よりも先にちとせが非難の声を上げたが、亮太の顔色は変わらない。

「コイツらは俺がまとめて潰す。3人でここ撤収したらコイツらはおそらく俺らを追いかけて街中に出てくる。それだけは避けたいからな。」

光は一つため息をつき、諦めたように言う。

「仕方ねえ、引き受けてやるよ。」

「助かる。奥に隠し扉があるだろうからそれ使って行け。何でそんなもんがこの倉庫にあるかは知らんが。」

天帝眼で見抜いた隠し扉の在処を伝えると、亮太は妖怪たちの群れに飛び込んでいった。

(さてと、どこまで行けるかな?)

ゴーレムとフランケンシュタインには勢いよく拳を叩き込んで吹き飛ばし、空を舞う鎌鼬には気配を掴んで飛び回し蹴りを当てる。天狗には団扇で吹き飛ばされるが、逆にその勢いを利用し宙返り、そこから踵落としを叩き込んでノックアウト。フェンリルはギリギリまで引きつけて、喰われる寸前でかわし、カウンター攻撃を正確に叩き込む。

しかし、ドラキュラには苦戦させられる。複数で取り囲む上、人間態とコウモリの姿を使い分けるため攻撃が当てづらい。

(天帝眼を持ってしても分析がしづらいとは、厄介だな。)

だが、実はそうではなかった。あまりに天帝眼を酷使したため、亮太が天帝眼を制御しきれなくなっていたのである。

そのため、後ろから迫る気配に気づけていなかった。

「ん?」

気づいたときには、時既に遅し。

残った妖怪の攻撃が、亮太に襲いかかった。


「よし。」

一方、ちとせと光は隠し扉を使い、倉庫から脱出していた。

早速光は、神永に連絡を入れる。

「もしもし神永さん?光です。行方不明者を発見しました。犯人?すみませんそっちはまだ特定出来てません。え?亮太は敵の配下の妖怪と戦ってますよ。ええ、大丈夫です。はい、了解しました。」

通話を終え、光はちとせに向き直る。

「もうすぐ、捜査担当の方が来るってさ。」

光の言葉は、ちとせの耳には入っていなかった。心配そうに、倉庫の方を見つめている。

ややあって、その口から、呟きが漏れた。

「やっぱり、私には出来ない。」

「え?」

光の困惑を他所に、ちとせの呟きは続く。

「泊君は、いつも自分より周りを優先する。あの時も、今も、」

「自分1人が傷つくことで、周りが傷つくのを守ってる。」

「危なっかしくて、黙って見てられない。ほっとけない。だから。」

唐突に呟きが止まる。彼女の目には、強い決意が宿っていた。

「ごめん、逆浪君。私、戻る。」

それだけ告げると、倉庫へ駆け出していった。


(あんな泊君をほっとくなんて、無理だよ。1人だけで突っ込むなんて。)

ちとせの脳裏に浮かぶのは、亮太の悲しみを浮かべた顔と、その時彼が呟いた台詞。

―――――どうしてこうなったんだろうなぁ。

(あの時も、泊君は私を責めなかった。自分1人で、痛みを抱え込んだ。)

それは、彼なりの優しさだったのかも、とも思う。

でも。

(私のせいだ。私のせいで、泊君は孤独になってしまった。)

だから、これは、そう。

過去の償い。罪滅ぼしだ。


「泊君!」

倉庫の扉を開けたちとせの目に飛び込んできた光景に、ちとせは言葉を失った。

倉庫内部は、氷に覆われている。

そしてその中央当たりに、雪女の腕を掴み、雪女共々氷漬けになった亮太がいた。


思考停止は、ほんの一瞬だった。

(私が、助けなきゃ!)

ちとせは駆けながら、異能「獣使い(ビーストテイマー)」を発動した。

次の瞬間、彼女は熊に姿を変えていた。

熊となったちとせは、氷漬けになった亮太の前まで来ると、前足を振りかぶり、氷に向かって振り下ろした。

ビシッ。氷にヒビが入る。

何度目かの攻撃で、亮太を包む氷が砕け散った。

雪女が消滅し、その場に何かが落ちる。

気を失っていた亮太が、ちとせの方へ倒れ込む。

「泊君?!」

慌ててちとせは亮太を抱きかかえ、雪女の代わりに現れたものを拾う。

(何で、これが?)

首をかしげた時、呻き声が聞こえた。

「…ううっ。」

「泊君!」

「高凪、か…?」

安堵したちとせは、小さく呟いた。

「…良かった。やっと、救えた。」

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