16

高凪ちとせの居場所が犯人の基地らしき場所と一致した。

それが何を意味するのかは、考えるまでもなかった。


ちとせは犯人に捕らえられた。

その1択である。


「マズい。」

焦りを露骨に浮かべてそう呟き、亮太は部屋を飛び出した、がすぐに2人に止められた。

「おい待て、一体何があったってんだ?」

「そんなに焦ってよぉ。せめて説明くらいしてくれ。」

仕方なく、亮太は手短に説明を始める。

「俺のクラスメートで、現市長派の関係者のヤツが、さっき突き止めたアジトらしき場所にいるみたいなんです。少々問題のあるヤツですが、アイツには傷ついてほしくありません。助けに行きます。」

「おい、そりゃ無茶だぞ!犯人と鉢合わせにでもなったら……。」

高階の問いにも、亮太は怯まない。

「危険が伴うのは分かってます。でも、俺は、助けたいんです。」

亮太の顔つきに、その覚悟の程を感じた神永は、一つため息をつく。

「…仕方ねえ、行け。ただし、犯人がわかったら必ず俺らに知らせろ。いいな?」

「了解です。恩にきます、神永さん。」

それだけ言い残すと、亮太は駆け出していった。

「おい神永、ホントにいいのか?彼に行かせて。」

「アイツは、本人が思っている以上に強くなってる。大丈夫だ。異能もあるしな。」

そう言うと、神永は外へ視線を向けた。

そこには、光と合流した亮太が見えた。


「何か分かったか?」

「ああ、おそらくアイツは犯人に捕らえられている。」

「!」

単刀直入な亮太の言葉に、驚き言葉をなくす光。ややあって、言葉を紡ぐ。

「お前が出した、そのアジトに向かってみるか。そこにいるんだろ?」

「…ああ。このまま直行する。アイツには傷ついてほしくない。」

即答する亮太。その手は、僅かに震えていた。

駆け出す2人。その様子を、旋回していた烏が眺めていた。


同時刻、例の工場跡地の倉庫。

中には、行方不明となっていた人々が壁にもたれかかって眠っていた。

そんな静かな空間で、動く者がいた。

黒のコートを着込み、顔はフードで隠されている。

その人物は、眠る被害者たちの前を横切りながら、嘆く。

「やれやれ、ここまで増えてしまうとは。ドラキュラ伯爵を使ったのは失敗だったかもしれないなぁ。こうして……」

そう言いながら、ある人物の前で止まる。

「真相を探ろうとする輩も出てきたし。まあ、先に動けたのは幸いだったけどね。」

そう言って笑みを浮かべるフードの人物に対し、その前にいる人物ー高凪ちとせは負けじと言い返す。

「何でそう言い切れるの?私があなたの引き起こした事件の真相を調べているなんて?」

それは挑発でもあったが、同時にちとせ自身の疑問でもあった。

(コイツには私が関係者であることは分かってるはず。なのにコイツは私が真相を探ってることまで分かってる。どうして?)

「悪いね、はったりをかましても無駄だよ。僕はこの町に独自の偵察隊を送っているんでね。ほら、彼らだ。」

フードの人物が指さした先には、多くの妖怪・モンスターや、空想上の生物がぞろりと集結していた。

(雪女、フランケンシュタイン、ドラキュラ、鎌鼬、天狗、フェンリル、ゴーレム。まるで妖怪大戦争ね。)

「そして、もう一匹いるんだが、おっと来たか。」

その声に呼応するように、倉庫上部にある小窓から烏が突っ込み、フードの人物の肩に止まった。よく見ると、烏には足が三本ある。

(これって、八咫烏?)

「青年2人が、この場所を突き止めた。もうまもなく着く。」

その八咫烏が、声を発した。

「なるほど。大方この子のお仲間だろう?ようし、盛大に出迎えてあげたまえ。」

その言葉を聞き、妖怪たちは一斉に動き出し、倉庫入り口にずらりと構えた。

その様子にちとせが目を奪われた一瞬のすきに、フードの人物はどこかへ消えていた。

(いつの間に?それより、泊君と逆浪君、この場所がわかったの?だったら私も動かなきゃ。)

そう考え、起き上がろうとしたちとせだったが………。

ガチッ

「何の音?」

手元の方から聞こえた音の正体は、両手首に繋がれた鎖だった。

(…仕方ない、これをどうにかして外さなきゃ。)

そうして鎖と格闘を始めたちとせに、更なる危機が迫っていた。


一方、亮太と光は倉庫の入り口前にたどり着いていた。

「…ここだな。」

「…ああ。」

「行くか?」

「待ってくれ。眼帯を外す。何が起こるか分からないからな。」

そう言って亮太は眼帯を外した。即座に、情報が入ってくる。

「入り口の向こうに、人ならざるものの気配多数。」

「具体的には分からないのか?」

「ああ、済まない。そこまでは分からん。なんせ気配が多すぎて区別がつかない。」

「ここからは出たとこ勝負、ってことか。おし、行くぞ。」

その言葉と共に、亮太と光は入り口の扉に蹴りをたたき込み、扉を吹き飛ばした。

吹っ飛んだ扉の向こうから、大量の妖怪、モンスター達が襲ってきた。

「こりゃ気配具体的には分からんわな。んじゃ、行くかぁ!」

そう叫んだ光は、勢いよく加速し軍勢に殴り込んだ。

亮太も続こうとしたが、視界の端に何かを捉えた。

(…ん?)

行方不明者たちに混じり、ちとせが手首の鎖を外そうとしている。

そしてその背後から、軍勢から離れたゴーレムが近づいていた。

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