15

「「これは、どういうことだ?」」

神永と高階の重なった疑問の声に、亮太は平然と応える。

「見たままです。ドラキュラ伯爵に噛まれた痕でしょう。多分他の被害者さんにも同じものがあるはずです。超特急で見せてもらえます?」

「ああ、わかった。」

亮太の淡々とした冷静な指示に戸惑いつつ、高階はPCを操作する。

その隙に、神永は亮太に訪ねていた。

「おい亮太、お前ドラキュラ伯爵の噛み傷があるって予測してたのか?」

「確証はありませんでしたが、天帝眼ではそういう結果が出ましたし、光から妖怪を使役する異能者の話も聞きましたから、おそらくあるだろうなとは。」

「ということは、他の事件も、妖怪の?」

「はい。」

「おうい2人共、出来たぞ。スクリーンを九つに分割した。」

高階の声に、2人は会話をやめ、映像に集中した。

やはり被害者の首筋には、噛み傷が残っていた。

「で、カメラの位置だが、上段左がガソリンスタンドのもの、上段中央が有料駐車場のもの、上段右が………。」

高階の一連の説明が終わると、即亮太は行動を起こした。

「高階さん、神永さん。この地域の地図ってあります?」

「あるが、何をする気だ?」

「犯人のアジトを割り出します。」

地図を前に、亮太は眼帯を外し、紫の右目を露わにした。

カメラの位置、被害者の歩く方向、位置同士の距離感………。

着々と流れ込む情報を処理・分析し、亮太は一つの答えを導き出した。

「犯人のアジト、少なくとも誘拐された人たちがいるのは、ここです。」

それは、所有者不在となっていた工場跡地に残された倉庫だった。

「今から向かってみようと思います。」

「待て、俺たちにも向かわせろ。犯人がいたら確保も出来る。」

「分かりました。とりあえず光に連絡させて下さい。」

亮太は眼帯を付け直し、光に電話をかけた。

「もしもし、光?」

『こっちは収穫なし、だ。そっちは?』

「犯人の基地らしき場所の特定に成功した。」

『マジか!了解。高凪には俺から伝えるよ。連絡がつき次第この後どうするか相談だな。』

「わかった。一旦部屋に戻ってる。」

電話を切った亮太は、2人の刑事に向き直る。

「済みません、ご協力ありがとうございます。一旦アパートに戻って仲間と作戦を立てます。神永さん一緒に来ますか?」

「おい亮太、リストどうすんだ?」

「あ、持って行きます。」

向かおうとした2人を、高階が呼び止める。

「おい待て、1枚忘れてる!」

「済みません。」

危うく忘れるところだった1枚のリストを受け取った亮太は、それを何気なく眺めた。

「え…嘘だろ?」

彼が驚くのも当然のことだった。

そのリストには、彼がよく知る人物の名があったのである。


高凪ちとせ。

彼女は、被害者候補の1人だったのだ。

(…アイツ、まさか自分が巻き込まれるかもしれないのを分かってたのか……?)

その時、狙ったように電話が入る。光からだ。

『亮太、高凪に連絡がつかないんだ。アイツ、ケータイ持ってたはずだよな?』

「……やっぱりか。嫌な予感が当たった、マズいな。」

『やっぱりかって、どういうことだ?』

「アイツの父親は、現市長の選挙対策委員長だ。アイツも被害者の候補だったんだよ。」

『だとしたら、今アイツはまさか…。』

同じ考えが、2人の頭の中を巡る。

「ちょっと確かめてみる。10分くれ。」

『分かった。俺がその間にそっちに向かう。』

電話を切った亮太は、2人の刑事に切羽詰まった様子で切り出す。

「神永さん、高階さん。状況が変わりました。やっぱり俺と光で行きます。それと、PC使わせてくれません?」

「おい、一体何があった?」

「すみませんが、今は言えないです。あと、今からちょっとばかり危険なことやるんですけど、黙っててくれませんか?」

明らかに焦ったようすの亮太にただならぬものを感じた2人は、それに押されるようにうなずく。

それを確認した亮太は、再び眼帯を外し、PCを操作し始めた。

PCから自分のケータイにログインし、高凪ちとせから送信されたメールのデータを解析、メール送信に使われたサーバを特定しそのルートを辿って高凪ちとせのケータイにアクセスする。

最後に、ケータイの位置情報サービスを起動させた亮太は、そこで初めて手を休めた。

そして、表示された位置情報を確認した。


「……最悪だ。」


彼女のケータイがあるのは、工場跡地の倉庫。

先程亮太が導いた、犯人の基地らしき場所と寸分違わぬ場所だった。

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