14

亮太は早速、冬天市警察署を訪れた。

困惑気味の受付の職員に、要件を告げる。

「すみません、泊亮太というものですが、神永刑事を呼んでもらえませんか?」

「申し訳ありませんが、個人の呼び出しには」

「任された件で頼みがあると言っていただければ結構ですから、お願いいたします。」

彼の圧に負けた職員は、内線で神永を呼び出した。


数分後。神永が現れた。早速亮太は頼みをぶつける。

「神永さん、現市長派の関係者のリストアップって出来ます?」

「出来てる。そう来るだろうなとは思ってたからな。着いてきな。」

彼に案内され、いくつかの階段とドアをくぐりデスクに案内されていた、その途中のこと。


ピーン

「メール?誰からだ?」

連絡先の交換を数えるほどしかしたことがない彼には、メールを送ってくるような知り合いはいないはずである。

(送ってくるとしたら光か、それともまさかのアイツか?)

携帯を開くと、予想した通り「アイツ」だった。

『件名:報告

 高凪ちとせです。

 このメルアドは逆浪君から教えてもらいました。

 連絡しようと思ったけど泊君クラスグルに入ってなかったからラインで連絡できないし、とりあえずメールで送ります。』

「光、お前俺のメルアド教えるなら事前に一言でも言ってからにしろよ。」

亮太はぼやくが、そんなことをここで愚痴っても意味はない。仕方なくメールを読み進める。

『町の人々が噂していたのを耳にして調べてみたのですが、どうもこの松ヶ崎町周辺で行方不明になる人々が多発しているようです。確か1件目の事件はドラキュラ伯爵と出たんでしたよね。だとしたら関わりがあるかもしれません。警察の捜査能力があれば捜査を効率よく進められると思うので、問い合わせてみて下さい。』

(なるほど、そうきたか。行方不明者の足取りを追えば奴らの拠点が分かるかも。)

そう考えた亮太は、前を歩く神永に尋ねる。

「神永さん、最近ここらで行方不明事件が多発してるってホントですか?」

「ん?ああ、俺は担当じゃねえから詳しいことは分からんが、どうもそうらしいな。急にどうした?」

「捜査の状況を聞き出せたりとか出来ませんか?もしかしたらこの事件と繋がってるかもしれないんです。」

少し突拍子な依頼に黙り込む神永。ややあって、口を開く。

「担当の所轄に知り合いがいる。聞いてはみるがあまり期待はするなよ。」


デスクにたどり着いた2人。神永は早速電話をかけ始めた。

「おう、神永だ。スマンな急で。お前、行方不明事件の捜査担当だったな?その捜査状況を教えてもらいてえんだが、ああそれが、俺の面倒見てる異能持ちの少年に依頼されてなあ、そうそう、例のアイツだ。おい、ホントにいいのか?すまねえな、んじゃ。」

「OKですか?」

「ああ、資料持って10分後にこっち来るってさ。その間に、ほれ。」

デスクを見ると、クリップで纏められた紙の束が。

「こっちのチェック、済ませるぞ。」

「色々ありがとうございます。」

「なぁに、気にすんな。元は俺がお前らのとこに持ってきた話だものなぁ、協力しない訳にはいかねぇだろ。」

早速2人は分担して、書類チェックを開始した。


10分後。

「お待たせ、神永。持ってきたぞ。」

書類チェックを進める2人の元へ、大きな手提げ鞄を持った人物がやってきた。

「おう、ホントに10分だったな。急で無茶な頼みなのに済まなかったなぁ。」

「まあ、気にすんな。おっ、この子が例の?」

「泊亮太といいます。よろしくお願いします。」

亮太の丁寧な挨拶に、その男は人懐っこい笑みを浮かべる。

「おう。俺は神永の同期で高階だ。よろしく。」

彼は手提げ鞄を床に下ろし、資料を出し始める。

「んで、これが被害者のデータ、こっちが防犯カメラの被害者を捉えた映像データ、こっちが足取り捜査の資料だ。さあ、どれから見る?」

「じゃあ、映像データを。」

亮太のオーダーに、高階はさっさと用意を調えてゆく。

「了解。神永、PC借りるぞ。んじゃ、まずは最初とされる被害者からだ。」

早速映像が表示された。

「この映像は、町内のコンビニの防犯カメラに映っていたもんだ。ほら、画像の中央当たり、前の道路を横切っていくのが被害者だ。この後の足取りがつかめないんだが。」

食い入るように映像を見つめる亮太。ややあって。

「あの、被害者さんの首筋辺りを拡大できませんか?」

「んー、ハッキリした映像になるかは分からんが、まあやってみよう。」

高階は一旦映像を一時停止にし、画像の解像度を上げたうえで首筋辺りに狙いをつけて拡大していく。

「ようし、こんなもんか‥ん?」

「おい、なんだこれ?」

神永と高階が2人揃って奇妙な声をあげる。

そこには、亮太が予想していた通りのものが存在していた。


何かに噛みつかれたかのような、傷の跡。

その傷はまるで、

そう、


ドラキュラ伯爵に噛まれたかのようであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る