12

神永の車に乗って、亮太のアパートへと来た2人。

「んで、何ですか?俺たちに頼みっていうのは。」

窓を開けながら問いかけた亮太に、神永は話を始めた。

「最近ここいらで奇妙な事件が立て続けに起こってるのは知ってるよな?」

「まぁ、新聞に載ってましたから。」

とある女性の失踪、ビルの凍結、一軒家の破壊といった、ここ2週間に起きている事件のことである。

「たしか共通項はなく、どれも解決できないまんまコールドケースにされたんでしたよね?」

光の質問に、神永は首を横にふった。

「コールドケースにされたのは事実だ。ただ、メディアには共通項はないと報告したんだが、本当は違う。」

「「ええっ!」」

意外な話に、驚きを隠せない二人。

「実は、被害に遭っている人々は全員、現市長陣営の関係者なんだ。現市長陣営が自分たちが不利な状況になるのを恐れて情報を操作するよう迫ってきたせいで公表できないんだよ。」

「もしかして、それで捜査も思うように進まなかった、とか?」

「現場に証拠物件も痕跡もなかったのは事実なんだが、まあそれもある。」

ここまで来て、亮太は神永の狙いに気がついた。

「神永さん、もしかして俺たちにその捜査の続きを頼みにきたんですか?」

「…そういうことだ。こっちじゃもう手が出せないんでなぁ。やってくれねぇか?」

「珍しいですね、神永さんこういうことをやらないと思ってたんだけど。」

「お前が光と逢って、だいぶ精神的に成長したからな。頼んでも大丈夫だろうと思ってさ。こっちも手詰まりだし。」

少し思案した亮太は、光に顔を向ける。

「光、お前はどうする?」

「『どうする?』も何もねぇ。お前はどうしたいんだ?」

「無論、やりたい。」

亮太の答えを聞いた光は、満足そうに笑みを浮かべた。

「なら、それでいいじゃねぇか。俺はお前についてくぜ。」


「すまねぇなぁ。んじゃ、これ資料だ。」

そう言って、神永は脇の鞄からクリップで留められた紙の束を取り出し、二人に渡した。

「え、これ持ち出したらマズイんじゃ…」

「あぁ、心配すんな。俺の異能力で複製したやつだ。じゃ、頼むぜ!」

役目を果たした神永は、部屋を出ていった。


「神永さんも、異能力者だったのか。」

「知らなかったのか?物体を複製する異能力持ちだ。ただし、手に収まるサイズに限り可能で、生物の複製は不可。さて、資料の中身はと。」

早速、資料の確認を始める亮太。光は、そんな亮太に一つ、気になっていることがあった。

「ふむふむ、失踪した女性は現市長の専属弁護士の妻、氷漬けにされたビルは現市長派の地方議員グループの事務所、それから破壊された家屋は市長の奥様の実家、」

「おい亮太。」

「んあ?」

「さっきから気になってたんだが、お前頭にてんとう虫ついてるぞ。」

「てんとう虫?…あ、ホントだ。いつからいたんだ?」

「んー、いつからだったかな、部屋入って窓開けたときにはいなかったんだが、おい亮太何やってる?」

何故か、亮太は体の周りで手を払う仕草を繰り返している。

「いや、このてんとう虫を、追い払おうと、してるんだが、全然、外に、いかねえんだよ、この、この、この!…ん?……待て。」

とある可能性に思い至った亮太。

「おい、亮太、どうした?」

光の問いかけを無視し、目の前で滞空状態にあるてんとう虫を睨み付ける。

「お前、まさか…。」

次の瞬間。


「やっと気づいた。」

そう発したかと思うと、てんとう虫がいた場所には高凪ちとせが立っていた。

「おわぁ!」

突然のことにビックリ仰天する光。一方の亮太は、

「最悪だ…。いつからいたんだ?」

とても疲れたような顔。そんな亮太に、ちとせはさらりと答えを告げる。

「最初から。全部聞いてたよ。」

「冗談じゃねぇ…。神永さん呼び戻して不法侵入の罪で逮捕させてやろうか…。」

げっそりする亮太に、ちとせは変わらずしゃべりかかる。

「ねえ、私にも手伝わせてよ。私が役に立ったら、今度こそ2人の仲間にして!」

「何でだよ。お断りだ。これは遊びじゃない。」

鋭い視線をぶつける亮太。それに負けじと、ちとせも言葉をぶつける。

「遊びじゃないことぐらいわかってる!私だって、この町の力になりたい。困ってる人がいるなら救いたい。私の力が、存在が誰かを助けられるなら助けたい!それに、私もいずれ………」

最後は、亮太にも光にも聞き取れなかった。


しばらくして、光が言葉を発した。

「亮太、ここまで言ってるんだ。手伝わせてやろうぜ。」

「…。」

ため息をついた亮太は、諦めたように投げやりに言った。

「…仕方ねぇ。」

「やったぁ!」

歓喜に飛び跳ねるちとせを見て、再びため息をつく亮太であった。

「今日はもう遅いし、明日から動こうぜ。明日は休みだしな。」

気づくと、もう夕日が沈もうとしていた。

光の提案に、ちとせと亮太も賛成する。

「そうだね。」「…ああ。今日はもう疲れた。」

これにより、この日は解散となった。

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