11

図書委員の仕事を終え、学校を出た亮太。

「よっ、待ってたぜ。」

正門を出ると、光が待っていた。

大抵亮太の方が帰りは遅いので、都合がつく日は光はこうして亮太が帰るのを待っている。

そして、こうなった時2人が向かう場所は決まっていた。

「本屋、寄るか?」

駅近くの大きな本屋、「好書堂」である。

ただ、この日はいつもと違った。

「いいや。なぁ、光。」

「何だよ?」

「この辺りに古本屋ってないのか?少し昔の本で欲しいのがあるんだが、あの店古い本はあんま扱ってないからさぁ…」

「古本屋なら一軒あるぜ、行くか?」

「ホントにあるのか?」

「ああ、ついてこい!」

(マジであるのか……。)

半ば驚きながら、亮太は光の後についていった。直後。

「ってぇ!」

前を見ていなかったせいで、正門の隣に設けられていた選挙板に激突した。

「何であんだ‥ってそういや来月、市長選なんだったよな。」

現市長に2人の新顔が挑む構図となっているが、今のところ政局に大きな動きはない様子である。

(まあ、何にせよ選挙権のない俺にはまだ関係のないことだ。)

気を取り直した亮太は、光の後について歩き出した。


「古書堂 さざれ」

それが、その古本屋の名前だった。

奥に押すタイプの扉を開け、広いとは言えない店内に入ると、思わず亮太の口から声が漏れた。

「うわぁ。」

扉以外の店の壁には本棚が取り付けられ、本が所狭しと収められている。

また、店内にも本棚が規則正しく並べられ、やはり本が大量に収められていた。

どの本も、劣化を防ぐためかパラフィン紙で覆われている。

「凄い、大まかなジャンルごとに纏めて本を並べてる。しかも結構貴重な本まである!」

亮太はあっという間に興奮状態となり、本棚の間を駆け回り始めた。

その光景を見た光は、呆れつつ奥のカウンターへと向かう。

「子供かよアイツ。ああ店長、お邪魔してます。」

本とパラフィン紙を前に悪戦苦闘していた男が、光の声に顔を上げた。

「おや、いらっしゃい。すまない、今少し手が手放せないのでね。」

この古書堂は、彼が1人で切り盛りしていた。光はこの店の常連であり、彼とも顔見知りである。

「あー、パラフィン紙貼ってるんですね。」

「古書にはパラフィン紙を貼ることを、この店の決まりにしているのでね。申し訳ない。」

「いえ、大丈夫です。友人を連れてきただけで用があった訳じゃないので、」

2人の会話を亮太の声が遮る。

「ホラー系が少ないような、」

「え、そうか?」

光も見てみたが、やはりいつもよりホラー系、特に妖怪の物語が少なかった。

「あれ、ホントだ。店長、どうしたんです?」

「あー、どうもね、今妖怪のアニメが流行ってるだろう?あれによって、妖怪を取り扱う古書の市場価値が上がってるみたいなんだよ。」

「えーと、それって『妖怪ハンターK』?」

「うん、それそれ。」

『妖怪ハンターK』。

現在日本中で爆発的ヒットを飛ばしているアニメである。とある少年がひょんなことから妖怪ハンターとなり、人に仇なす妖怪を退治・捕縛する物語で、子供を中心に人気を博し、映画化も既に決定している。

「えーっと、あれでしょ?『これは妖怪の仕業だ!』って事あるごとに言うやつでしょ?」

どうにか会話についていこうとする光に、亮太から視線が投げかけられる。

「おい光、大事なことだから言うけどさ。」

「ん?何だよ急に。」

いつになく真剣な表情の亮太に、思わず後ずさりしてしまう光。

「『妖怪ハンターK』ではな、今のところ1度しかその台詞を言っていない。その台詞がアニメを代表する台詞みたいに扱うのはやめろ。」

表情は真剣な割に、言ってることはとてもどうでもよかった。


数分後。

「やったぁ!」

亮太はご機嫌だった。脇にはパラフィン紙に「買取済」というステッカーの貼られた本を抱えている。

「やっと手に入れた、フッフッフッ。」

「おい、不気味だからやめろその笑い方。」

「 」

何故か亮太からの応答がない。ややあって、独り言のように呟きがかえってきた。

「いないのも、それはそれで調子狂うなあ。」

「は?」

「高凪だよ。」

「毎日のように来てたもんなぁ。あいつ、今日はどうした?」

「それがさぁ、」


「おうい、亮太に光!」

2人の会話を、野太い声が遮った。

「あれ神永さん、どうしたんですか?」

停車中の車の運転席から、神永が顔を出していた。

駆け寄った2人に、神永は意外なことを言った。

「すまん、2人に話があるんでお前んとこに行こうとしてたんだ。」

「「俺たちに?」」

「ああ。立ち話って訳にもいかねぇし、誰かに聞かれたくないんでな。亮太のアパートまで送るから乗ってくれねぇか?」

神永の意図がつかめぬまま、2人は神永の車に乗り込んだ。

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