8

「ん、」

夕日が差し込む部屋の中、亮太はようやく目を覚ました。

(ここ、俺の部屋、か?)

見慣れた自分の部屋の布団で、彼は寝ていたのだった。

枕元の電波時計で日付を確認すると、何とあれからもう一週間経っていた。

(ってことは、一週間の間ずっと俺は眠りこけてたってのか、)

布団から抜け出し思い切り伸びをすると、亮太は服を着替えて右目に白い眼帯をつけ、郵便を確認しようと玄関に向かった。

「ありゃ、これ誰が持ってきたんだ?」

郵便ポストには、高校からの配布物一週間分と一枚の便せんが入っていた。


”欠席連絡があったとのことなので、配布物だけ置いていきます。”


とても丁寧な字で、そう一言だけ書かれていた。

(誰だろ?)

疑問を感じた時、インターホンが鳴り、ドア越しに聞き慣れた声が響いた。

「亮太、起きたかー?」

「神永さん、起きてますよ。とりあえず入って下さい。」

ドアを開けると、そこには少しくたびれた茶色いスーツに身を包んだ、熊のようないかつい男性が立っていた。

「よう、元気そうだな。ドクターの件、後始末はさせてもらったぜ。逆浪光から警察に通報が入ってなあ、俺が対応したんだ。いい仲間持ったじゃねえか。」

「え、神永さん、光を知ってるんですか?」

「ああ。松ヶ崎町じゃ、裏の世界、つまり異能力者の世界の有名人だ。」

「そうだったんですね。あの、話変わりますけど、」

亮太にはひとつ、どうしても神永に聞きたいことがあった。

「神永さんが俺を保護したのって、この町を彷徨っていたからですよね?」

「ああ。どうした急に。珍しいじゃねえか、過去のこと聞いてくるなんてよ。」

「その時って、俺の右目は既に紫色でしたか?」

「ん?そういや、紫色だったな。ドクターから聞いたぞ、お前に異能力をあげたって。それがどうしたよ?」

「いえ、あの、実は、」


光と逢って、少し変わったことがあった。

自分の異能と、自分自身と、自分の過去と向き合うことができた。

だから。


「俺、両親を探そうと思います。異能のせいでなくなった過去を取り戻そうと思っているんです。過去を嫌ってばかりじゃ、前に進めないって教わったんで。どんな過去であろうと、受け入れるつもりです。と言っても、両親の記憶もないので逢っても分からないですが。」

神永はしばし言葉を失った後、呟いた。

「お前、大人に、なったな。本当にいい仲間もったんだなあ。」

そして、あるものを取り出した。

「ならこれは、お前に返さなきゃな。俺が保護したとき、お前が身につけてた物だ。」

それは、白い巻き貝をあしらった首飾りだった。

「ドクターにも聞いてみたんだ。アンタが亮太を見つけたとき、これを身につけてたかってな。答えはイエス。おそらくこれは、お前が家族か親しかった者からもらったものだ。」

早速つけてみる。何故か、とても懐かしい感じがした。

「おっと、そろそろ俺は仕事に戻らなきゃな。邪魔したな!」

神永は亮太の部屋を出で、帰っていった。神永と入れ違いに、光が来る。

「おー亮太、起きてたか。さっきの神永さんって、警察の人だろ?どういう関わりなんだ?」

「あのさ、俺、親の記憶が一切ないんだよね。」

「へ?」

戸惑う光にかまわず、亮太は話しを進めていく。

「過去の記憶が消えてるから昔の記憶がないのは当たり前なんだけどさ、1回もあったことないんだ。どうも俺捨てられたかなんかみたいで、町を彷徨ってたらしいんだよね。そんな俺を見つけて、保護してくれたのが神永さん。俺にとっちゃ恩人だ。」

「そうだったのか、」

「お前のおかげで俺は自分を受け入れた。過去にも、向き合おうって思ってる。両親を、探してみるつもりだ。」

「そうか、わかった。幾らでもサポートしてやる。」


その時、再びインターホンが鳴った。

「?誰だろ、」

ドアを開けると、そこには何故か白猫がいるだけである。

「ん?確かこの猫、光のアパートの前にいた気が、」

亮太が言葉を言い終わるのを待たずに、なんとその猫が言葉を発した。

「よく覚えてますね。」

「ね、猫がしゃべったぁ!」

次の瞬間、猫がいた場所には亮太の高校の制服を着た女子高校生が佇んでいた。

「こいつ、異能力者か!」

「あ、確か君は、」

「おい光、知ってるのか?」

「お前のところに配布物持ってきてた。1回お前の部屋向かった時に見てる。」

彼女は亮太に向かい、こう告げる。

「私はあなたのクラスメート、高凪ちとせ。今日の課題を持ってきました。ただし、渡すかわりにお願いがあります。」

「何だよお願いって。」

「私を二人の仲間にしてくれませんか?」


彼らの物語は、まだ始まったばかりである。

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