7

「へ?」

光が天井を歩くという衝撃的な光景に、さすがの亮太もフリーズしてしまった。

一方のドクターはというと。

「ハーッハッハッハァ!期待以上だ!さすがは逆浪光!」

自ら改造した異能の力の凄さに酔いしれていた。それを見逃す亮太ではない。

「今だ!」

軽く飛び上がり、一旦縮めた両足を空中で伸ばして両方の踵をドクターの手の甲に直撃させ、鉄パイプを両手から弾き飛ばす。

ドクターの手を離れた鉄パイプは透明化の効果が消え、宙に舞っている。

踵蹴りで怯んだドクターに追撃を加えるべく、亮太は一旦着地、ドクターとの距離を詰めようと加速の体勢に入る。しかし。

「はあ?!」

目に飛び込んだ光景が、再び亮太をフリーズさせた。


先ほど天井にいた光が、足を離したかと思うと、次の瞬間には弾き飛ばされ宙に浮いていた鉄パイプを足場に蹴ってドクターに接近、そのまま膝蹴りを叩き込んでいたのである。


「ぐはっ。」

膝蹴りを叩き込まれたドクターは、吹っ飛ばされ壁に激突、意識を刈り飛ばされた。

そんなドクターには見向きもせず、光は床に着地。

「ふぅ、初見でも意外と使えるもんだな。」

そこへ、見せ場を取られた亮太の愚痴が飛ぶ。

「あのなあ、せめて俺のやろうとしてたことに横槍入れるのやめてくんない?っていうか何なんだよその異能は?」

「んと、『反世界』、”触れた物体の重力を思いのままに操る力”だとさ。」

「それで天井は歩けるしどんな小さい物体でも足場に出来るって訳ね。しかし何で右目が蒼いんだ?」

「…え?」

呆然とする光。やや沈黙した後、呟く。

「……マジで?」

「嘘言ってどうする。」

再び沈黙する光。その口から飛び出した言葉は、意外なものだった。

「まあ、いっかぁ。意識は保ってるし、人格変わったわけじゃねぇしな。」

(……お前は、強いな……)

そう思う傍ら、2人の右目についてあることに思い当たった亮太は、ドクターの元へ向かい、怒鳴った。

「おい、ドクター!」

「……何でしょう?」

意識を取り戻し答えたドクターに、亮太は質問をぶつけていく。

「光の右目を蒼く染めたのも、俺の右目を紫に染めたのも、アンタだよな?何で染めた?」

「その通りですよ…。実験台・被験者としてよくわかりますし、色を変えれば色で異能を判別できますからねぇ…。」

「もう一つある。俺を、どこで見つけた?」

「ハッキリとは覚えていませんが、確か町の通りで1人彷徨っていたのを見つけたんじゃなかったでしたっけねぇ…。」

「…そうか。分かった。そんだけだ。」

聞き終えた亮太は光の下へ向かおうとしたが、足が上手く動かない。

(あれ、力が入らねえ……)

軽くふらついた末に、思いっきり倒れこんだ。その音を聞き、光が駆けつける。

「おい、亮太!」

(やべえ、力を使いすぎた………)

「わりい、光…、俺……、疲れ………」

言葉を言い切れぬまま、亮太の意識は暗闇に落ちていった。


「亮太、亮太!」

光は慌てて、亮太の状況を確認する。

呼吸、異常なし。

脈、異常なし。

目立った外傷、なし。

ここまで来て、光はあることに思い当たる。

(確か、亮太の異能は身体への負担が大きいんだったよな、体に異常がねえってことは、異能の使いすぎで倒れた、ってことか……)


「無茶しすぎなんだよ、相棒。」


そう呟くと、光は後始末のために行動を開始した。

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