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「俺の異能を作ったのが………アンタだと?」

明かされた衝撃の事実に、亮太が返せた言葉はそれだけだった。

「ええ。私が人工的に天帝眼(エンペラーアイ)を作り上げ、移植しました。ただ残念ながら脳の記憶系に障害が発生したようで、教えたことを一切忘れてくるので失敗例と見なし放り出しました。まさか光君の友人になっていたとは………奇遇ですねぇ。おや、何か?」

「脳の記憶系に障害だと? そんな訳ない!光と逢ったことだって、俺が異能力者であることだって、昔イジメにあってたことだって………あれ?」


記憶が、なかった。

「イジメにあってた………誰に?いつ?どこで?どのくらい続いた?全部………全部記憶がねぇ………っ!」

小学生の時の記憶、それより昔の記憶が、一切、存在しなかった。

イジメにあってたこと、以外は。


「ウソだろ………」

衝撃の事実にぶち当たり、崩れ落ちる亮太。

「残念ながら光君も失敗例になってしまいましたよ。彼の異能力を改造すれば非常に高性能の異能力を産み出せるんですがねぇ、改造手術が終わっても目を覚ましゃしないんですから………」

ドクターの台詞は、亮太の耳に入って来なかった。


「アンタが……アンタが俺に、異能力を埋め込みさえしなければ……俺は、俺はぁァァァァッ!」


亮太は抑えられぬ怒りに任せ、ドクターに殴りかかった。

「うあぁぁぁぁぁっ!!」


直後、腹部に重い衝撃。

「げふっ…」

何かで腹部を思い切り殴られ、亮太は壁に叩きつけられた。

ドクターの手は何かを握っているように見えるが、そこには何もない。

「失敗作にはもう用はありませんよ。」

ドクターの台詞も聞かず、亮太は怒りをぶつけていく。

「アンタは……アンタは、俺の人生を狂わせたんだよっ!!」



「この力さえ、なければぁっ!」



「…バカ野郎っ!」

聞き慣れた声が、部屋に響いた。

「光!」

隣の部屋に通じるドアを開け、光が入ってきた。その右目は、蒼く染まっている。

「何ぃ、生きてたのか……」

ドクターを完全に無視し、光は亮太に語りかける。

「前にも言ったはずだ、失ったものを悔やんでも変わらないと!」

「………ッ!」

「確かにお前には、異能力のせいで失ったものがある。けどなぁ、異能力を持ってるからこそ、出来ることもあるんだよ!」

矢継ぎ早に、言葉を紡いでいく光。

その言葉には、重みがあった。

「お前がその力を使えば、普通なら助けられない人々を救うことができる。ここを見つけるのにも、力を使ったんだろ?」

「……ああ。」

「お前の未来には無限の可能性がある。自分でそれを潰すのは、勿体ねぇぞ。」

光の言葉を受け、立ち上がる亮太。

「……1つ、頼みがある。」

「…何だ急に。」

「俺はこれからも、時々異能力への怒りで自分を見失うかもしれない。そん時は……


こうやって止めてくれるか?」

しばし、止まる光。ややあって、笑みをこぼす。

「何言ってんだ、当たり前じゃねえか。何度だって止めてやる。だからな、どこまでだってついてくが文句言うなよ、亮太。」

「言わねえよ。頼むぜ、光。」

互いに、拳を突き合わせる。


ここに、松ヶ崎町の運命を変える、最強のバディが、誕生した。


「「さて、ドクター。」」

「ほう、今更何の用ですか?」

2人は声をそろえ、ドクターに宣言する。


「「アンタを、倒す!」」

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