3

亮太が光と出会ってから、1ヶ月ほどたった。

亮太は力を少しでも安定して使えるように、体力トレーニングを始めていた。

元々腕っ節は強かったため、少しずつだが運用時間が長くなっていた。


そんなある日。

亮太は光のアパートへと向かっていた。

特に用が有るわけではない。

元々人付き合いを避けてきた彼にとって、用がないのに人を訪ねるというのはかなり進歩である。

何故か緊張しながら、亮太は光のアパートの部屋に着き、インターホンを鳴らした。

しかし、応答はない。

「おかしいな、この時間はいるはずなのに…」

不思議に思いながらドアノブに手をかけた、次の瞬間。


ドアが、開いていた。鍵はかかっていなかった。

「ウソだろ…?」

驚愕しつつ、亮太は部屋に足を踏み入れた。やはり光は部屋の中にはいない。

(几帳面なアイツが鍵を締めずに家を空けるはずがない、となると……)

彼の思考は、次第に結論に辿り着く。

(おそらく何者かに連れ去られたか。だが何処へ?仕方ねぇ、使うか………)

覚悟を決めた亮太は、右目の眼帯を外した。


(玄関脇のハンコとボールペン、ドアの縁の段ボール繊維、外の道路のタイヤ痕………)

視界に次々と情報が飛び込んでくる。

その情報一つ一つを的確に捉え、組み合わせ、導かれる事象を思考。

それを幾度も繰り返し、一つの結論を組み立てる。そして。


「ふう、」

答えを導き出し、思わず息をついた亮太。眼帯を外してわずか3秒後の出来事である。

この3秒の間に、彼は犯人達の誘拐手段、逃走の方法及び経路、大まかな逃走先まで導き出していた。

(あんま使いたくはないけど、やっぱすげぇなこの力……)

自身の力に改めて感心した亮太は、眼帯を元に戻し、自らが導き出した逃走先へと向かった。

(しかし、一体何のために光を連れ出したんだ………?)

考えつつ歩いていた亮太。しかし…

「ん?」

何かを感じ振り返った亮太。背後には白猫が一匹いるだけである。

(気のせいかぁ…。視線を感じたんだが…。)

首を捻りつつ、再び亮太は歩き出した。


しかし、亮太は気づかなかった。

その白猫こそが、視線の主であり、自らに重大な影響を及ぼす存在であることに………。


亮太が白猫の正体を知るのは、もう少し先の話になりそうである。

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