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「おい、待て!一旦止まれ!」

「なんだい?」

素直に止まったこの不思議な青年に、亮太は一気に喋り出した。

「まず、お前は誰だ。あのおっさんたちは何者だ。何故お前を襲っていた。それから…」

「いいからとりあえず付いてこい!」

亮太の話を遮り、青年は再び彼を連れて走り出した。

「ちょ、おいまだ話が…」

「心配するな、君に危害は与えない。」

その強い目の輝きと自分を引っ張る力に亮太は返す言葉がなくなった。


亮太が青年に案内されたのは、とあるアパートの一角だった。

「俺の部屋だ。入ってくれ。中でいろいろ説明するから。」

そう言われ、亮太は部屋に入り、机の前に腰を下ろした。

「すまない、何も説明せずに連れてきて。まず俺は…」

「逆浪光、高校生。両親とは離れて一人暮らし。料理の腕は非常によい。几帳面。俺を連れてきたのは俺を協力者にするため。俺の持つ力について知っている。合ってるか?」

光は少しの間言葉を忘れていたが、我に返り話し始めた。

「正解だよ。何故そんなことまで?」

「詳しい説明は省略するけど、これが俺の右目の力だ。右目でものを見ると、観察力と思考力が強化されて普段は分からないことが分かっちまうし、体も恐ろしく早く動かせる。その分とても疲れやすいんだが。すまない、タオルかなんかをもらえるとありがたいんだがいいかい?」

光が持ってきたタオルを、亮太は右目を隠すように頭に巻き付け固定した。

「で、この力は一体何なんだい?」

「異能力だ。」

「異能力?」

人との関わりを極力減らしていた亮太にとって、初めて聞く言葉だった。

キョトン、とする亮太に、光は説明し始めた。

「知らないのか?異能力っていうのは…」


以下、長くなったので省略。


「つまり、この世界には異能力っていう不思議な力を使っている輩が何人もいて、俺もその1人ってことか。」

説明を聞き終えた亮太は、納得したようなしていないような顔である。

「ってことは、俺の異能力は、観察力・思考力と判断力を強化する異能ってことか?」

「分からん。俺には異能の種類や特徴は判別できないんだ。」

「うおい無責任な。」

亮太は脱力しずっこけかけたが、気を取り直し尋ねた。

「そういや、あのおっさん達は誰だ?」

「俺の異能力を悪用しようとしてる奴らの手先だ。この町:松ヶ崎町には、自分の異能を悪事に使う奴や、人の異能を使ってよからぬことを企む奴が何人もいる。俺1人で全員を相手取るには無理がある。協力してくれないか?」

光の頼みに、口をつぐみ考え込む亮太。ややあって、口を開いた。

「正直、乗り気じゃない。」

「なぜだ?俺が信用できないか?」

「いいや。お前は信用するに値すると考えている。乗り気じゃないのは、俺がこの力を好ましく思っていないからだ。」

真剣な表情に言葉を失う光。彼をよそに、亮太は語り続ける。

「この力のせいで、俺の体はおかしくなった。俺は周りから不気味がられ、嫌悪され、いじめられた。この力さえなければ、俺は普通の学生生活を送っていたかもしれない。今の俺にとっちゃ、この力は自己嫌悪の対象でしかねえ。」

「お前の気持ちはわかるよ。それは俺だって同じだ。俺だってそう思ってた時期があったさ。でもな、そう思ってるだけじゃ何にも始まらないんだよ。前に踏み出そうとは思わないのか?なあ、俺がどうしてお前に声をかけたか、分かるか?」

唐突に振られた質問に、亮太は答えられなかった。

「目だよ、お前の目。昔の俺みたいな、この世界に何も求めてない、何も映らない目をしてたんだ。だからお前に声をかけた。昔俺に前を向かせてくれた人と同じようにな。」

光の言葉は厳しく、しかしどこか暖かかった。

「外に踏み出すのは怖いかもしれない。だけど失われたものに恨みを持ってもなんにもならないんだ。俺と一緒に来る気はないか?」

光の言葉を聞いた亮太は、しばし黙り混んだ直後、決心した。

「わかった、やる。まだこの力は好きにはなれないが、やるだけやる。」

「そうこなくっちゃな!よろしく!」

とびきりの笑顔で手を差し出す光。亮太はその手を取り、新たな世界に踏み出した。

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