第3話 呪われた王子

◇◇◇


 話を聞いてみれば、彼は我が国とは比べものにならないほど広大な領地を持つ隣国カシミールの第一王子だった。


 優秀な魔術師でもある彼は、国王と一緒に国を盛り立てていたのだが、あるとき第二王子派の策略によって邪悪な魔道士に死の呪いをかけられたらしい。


 術者の命と引き替えにしたその呪いはとても強く、国中の魔術師の力をもっても、呪いを解けるものはいなかった。


 王様と王妃様は嘆き悲しみ、聖女の力が有名な隣国に聖女の派遣を要請し、王子の呪いを解いたものは花嫁に迎えると約束して国境にある森の城を与えられたと言うことだ。


「いや、我が国では邪神の生け贄にされるともっぱらの評判でしたけど?」


「なんでだっ!」


「いや、なんでと申されましても。十年間毎年聖女を派遣し続けているのに一人も帰ってこないので、てっきり花嫁とは名ばかりで、隣国の邪神様に生け贄として食べられているのかと。属国ゆえに文句も言えず、渋々従っていた次第です」


「十年間一度たりとも聖女がきたことなんかないっ!」


「おかしいですね?確かに毎年『贄の聖女』として魔の城に派遣されているはずですが……もしかして、城までたどり着けなかったとか?さきほど、目くらましの魔法と結界を張っていると仰ってましたよね?」


「あっ……」


「まぁー、あの程度の魔法や結界に阻まれる程度の力なら、呪いは解けなかったでしょうが」


「あ、あの程度……私の渾身の結界が……」


 でも多分、こっそり家に帰っちゃったんだろうなぁ。そう言えば、騎士団の人たちがわざと城より前の段階で一人にしてくれていた。あれは、上手く逃げろと言うことなのだろう。


 生け贄にされる少女達を思う騎士道精神である。何人かはチャレンジしたかも知れないが、城を見つけられずに諦めたのかも。王子様には気の毒だが。


「と、とにかく、呪いを解いてくれたこと、心から感謝する」


「いいえ、どういたしまして。ところで、どうしてお一人なのですか?流石にこの城で独りで住んでいる訳ではないのでしょう?」


「食事を作ってくれる料理長やメイド、騎士達がいるが、食材なんかの調達のために、たまたま留守にしてるんだ。護衛がないととてもこの森の中を歩けないからな。ここにいたのは、暗殺を防止するためでもあるんだ。平然と一人で城にやってこれたのは君ぐらいなもんだ」


「ああ、なるほど。どうりで誰もいらっしゃらないと思いました」


 と、そこに大勢の声と足跡が聞こえた。


「カイン殿下!カイン殿下!ご無事ですか!」


「ああっ!お城のドアが全て破壊されている!」


 二人の間に気まずい沈黙が広がる。ちょっと、やりすぎたかなぁ。生け贄としてすぐに役目を果たそうと張り切ってたし。


「……申し訳ありません」


「……いや、呪い解いてくれたし。うん、いいよもう」


 さすが王子様。心が広い。


「カイン様!ご無事でしたかっ!」


 立派な騎士の服装をした人達が一斉に雪崩れ込んでくる。


「敵の襲撃ですかっ!」


「敵はどこですっ!」


 口々に叫ぶ人達になるべく見えないように、そっと部屋の隅に移動しようとしたそのとき、


「あっ!ああ!カイン様!そのお姿は!?」


「あ、ああ!呪いがっ!遂に呪いが解けたのですね!」


「神に!神に感謝を!!!」


 今度は喜びの声で沸き立っている。良かった良かった。これでドアが破壊されていた件は、きっとうやむやになるだろう。うん。私がひとりコクコクと頷いていると、


「聖女様!あなたが聖女様ですね!」


「ああ!偉大なる聖女様!我が国の第一王子であるカイン様を救ってくれたこと、心より感謝致します!」


「「「聖女様!聖女様!」」」


 なんだか滅茶苦茶感謝されてしまった。良かったね。


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