第2話 怖がりな邪神様
◇◇◇
そう健気にも決心してやって来たというのに、肝心の邪神様のお姿が見当たらない。昼なお暗い魔の国の城にいらっしゃる筈なのに。私を国境まで送ってくれた騎士団の皆さんは、魔の国の入り口近くでそそくさと帰ってしまった。いまさら帰れない。
「すみませーん!誰かいませんかー!」
広く立派な城はどこもかしこもがらんとしており、生き物の気配を感じられない。
しょうがないので玄関を破壊し、城の部屋を一つずつ開いていく。どこもかしこも豪華で綺麗な部屋が並んでいる。流石邪神様。素晴らしくお金持ちのようだ。
「ちょっとー!すみませーん!私、生け贄としてやってきたメアリーです!邪神様ー!あなたの花嫁がやってきましたよー!」
城の最も奥深くにある一番豪華そうな部屋にたどり着いたとき、ようやく、人の気配を感じることができた。
「邪神様?邪神様ですか!?そこにおられますか!」
「……」
部屋の中からなにやら声が聞こえるが、くぐもっておりよく聞こえない。私はますます大声を張り上げた。
「なんですか!声が小さくて聞こえませんっ!もっと大きな声で仰って下さい!」
「か、か、帰ってくれ!」
「そういうわけには参りません!私は国の使命を負ってやってきたのですからっ!どこから食べて貰ってもかまいません!さぁ!召し上がれ!」
「いいから帰れー!」
このままではらちがあかないと判断した私は、遠慮なくドアを蹴破った。バキッと、音がしてドアが開くと、部屋の隅でうずくまっていた男性がガタガタと震えながらこっちを見ている。
「邪神様?」
「ひ、ヒイー!何なんだ君は!なんでいきなり家にやってきて家中破壊してるんだっ!怖いよっ!何が目的だっ!」
と、なにやら喚いている。どうも調子が狂う。ここに住んでいるのは恐ろしい邪神様のはずだが、間違いだろうか。
「あなた誰ですか?」
「君こそ誰だーーーーーっ!!!」
もっともな質問である。私はコホンと小さく咳払いしながら、
「失礼いたしました。私隣国のカラフ王国から参りました聖女のメアリーと申します。この度王命により邪神様の花嫁として参りました」
「は、はぁ?邪神って誰のこと?隣国?聖女?訳が分からないんだけど」
「この城は邪神様のお城では?」
「ここは僕の城だっ!勝手にはいってくるんじゃないっ!大体目くらましの魔法と侵入防止の結界を張り巡らせておいたのにどうなってるんだっ!」
「ああ、解除しましたけど?」
「ひ、ヒイー!な、なんでそんな事ができるんだっ!」
「なんでと言われましても。聖女だから?」
「そんな聖女がいるかっ!」
「だ、大体この城の周りには恐ろしい魔獣どもがゴロゴロいるはずだが!?」
「ああ、浄化しときました」
「は、はぁ!?そんな簡単に倒されるようなレベルの魔獣じゃないぞ!」
「いや、聖女だから?」
「君はそればっかりだなっ!聖女だから何でも許されると思ったら大間違いだからなっ!」
取りあえず邪神様は興奮して話にならないので、心を落ち着けるために回復魔法をかけて差し上げる。
「パーフェクトヒール!」
「う、う、うわぁぁぁぁ!!!」
眩い光が城中に溢れ出す。
光が収まったとき、目を疑った。部屋の隅っこでガタガタ震えていた男性がいきなり変身したのだ。確かさっきまで真っ黒な刺青を全身に施したファンキーな外見をしていたのだが、すっかりサッパリ無くなっている。
「イメチェン?」
「ば、馬鹿な。呪いが、消えた……」
「ああ、趣味かと思ってたんですが、呪われてたんですね」
「趣味なわけあるかっ!あ、ああ!こんなことが!こんなことが起こるなんて!」
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