消滅

「裕ちゃん」


 伊井が医局のドアを開け、大声で叫んだ。荒い息を吐き、肩で呼吸をしている。裕太は立ち上がり、伊井の目を見た。伊井も裕太の目を見つめた。裕太は今まで見た事のない表情を見て、ただならぬ気配を察した。


「桐生……先生が——」


 裕太の頭にバットで殴られたような衝撃が走った。

 気がつけば走り出していた。医局を飛び出し、廊下を走った。すれ違う人とぶつかっても構わない、ただただ真っ直ぐ突き進んだ。

 3階の手すりから乗り出した。エントランスは吹き抜けになっていて待合に大型テレビが設置してある。そこで放送されていたニュースを見た。

 流れる映像を見ながら、喉元に熱いものが込み上げてくるのを感じた。全身の皮膚が凍りついた。


 アナウンサーは淡々と事実を述べていた。

 桐生智が自宅で自死していたこと、不審に思った管理人が部屋に入った時は数日経っていたこと。裕太にはそれ以外にはもう何も情報が入ってこなかった。心の中で何かがぱきん、と割れる音がした。

 関係者の情報を付け足すと、部屋の中は驚くほど整理されており、謝罪の意がこめられた遺書も見つかったらしい。隣には、通帳があり、残高は小児患者、家族をサポートするNPO法人に寄付したいとの旨が書いてあったそうだが、それに関しても不正に入手したお金を利用して良いのか、などとの意見が関係者からあり、保留にされた。

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