伊井医師、逮捕の瞬間

「都立副都心総合病院小児科医師、伊井郁夫容疑者は容疑を否認している模様です」


 テレビのアナウンサーがニュースでそう告げた。映像では伊井がジャンバーのようなものを被せられ、車に乗せられるところだった。


「伊井容疑者は検査と偽って、10歳の女の子の体を舐めまわすなどして、準強姦罪に問われています。この事件について、伊井容疑者を良く知る人物は——」


 その後、画面がとある人物に移った。首から下だけで、白衣を来ている。声は加工してあった。


「彼はですね、前から注意はしていたんですよ、気をつけろって。その日の朝も言ったんですよ? でも……いつかはやると思ってました」


 映像が別の人物にうつった。その人物も同じく首から下の白衣姿だった。幾分小柄に見えた。


「ぼ、ぼくの伊井先生に対する印象ですかぁ。そうですねえ、仕事は真面目にやってましたが、小児科になった理由がその……なんというか、ロリコンというか。そういうのはどうかなーって前から思ってたんですよ」


 次は、伊井が刑務所で面会をするシーンだった。面会に来たのは白髪で髪が真っ白になった父だった。伊井は穴が開けられたアクリル板越しに、何と答えていいのかわからなかった。いつも威厳のあった父がすっかり弱々しくなっていた。


「私は悲しい……お前がこんな子に育ってしまったなんて。明らかに教育を間違えた私の責任だ」


 父は新潟にある大病院の院長をしていた。伊井はしばらく医師としての経験を積んでから、やがて院長を引き継ぐ、そんな暗黙の了解があった。


「私は責任をとって、院長を辞めた、医者もする資格はないと思っている。郁夫、お前の刑期が終わったら、父さんと一緒に逝こう。それまではしっかりと自分のやって来たことを反省するんだぞ」


 ——い、……おい、伊井先生!? ——


「はい!」


 そのあたりで伊井の映像が途切れた。そしてやっと我に帰った。そうだ、今は和気に診察室に連れてこられて、二人で話していたんだ、と。


「大丈夫か? とりあえず、謝りに行こう。誠意を見せることから始めるしかない」


 和気がそう言った直後、バタン、と診察室の扉が開いた。母親が立っていた。


「院長呼んで。私この病院訴えるから。この男、徹底的に潰してやるから」


——あぁ、おしまいだ、もう……


 伊井の視界がぐにゃりと音を立てて崩れ去ろうとしていた。

 その時だった。


「あれ? あんた、もしかして」

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