消える世界で。

けい。

第1話 見えない

藪から棒とはこのことだろう。


まだ寒さが残る3月。家の近くの市民病院で言い放たれたその言葉は、私の心を焦らせた。


「網膜色素変性症ですね。」


「…え?」


医師は50代くらいの愛想のいいお爺さんだ。緩く言ったその病名に、沢山のハテナマークを頭に浮かべる。


「今、周りが見えづらいでしょう?こう、丸く、ぼやぁ〜って。」


「あ、はい。」


「それがこの病気の特徴でね。…だんだん視力が悪くなっていってしまうんですよ。」


メガネかければ大丈夫かな。視力ぐらいだったら。


そう思ったら案の定。


「それでですね。最悪の場合、失明の可能性もあります。」


まじか。


その後、薬の説明やら過ごし方やら色々説明されたけれど、あまり頭に入ってこなかった。


「また来てくださいね。」


「…ありがとうございました。」


ペコリと軽く頭を下げ診察室を出る。


今日は休日なのに珍しくあまり混んでいない、待合室。

いつもなら2、3席あるぐらいでほぼ満席状態。

まぁ、小さいってこともあるけど。


そう思いつつ、端っこあたりにある席に腰を下ろす。


スマホをバックから取り出し、LI○Eを開く。

最近新しく買ったiPhone11。もうこれより上のやつが出てるらしいけれど最先端好きの痛いやつって思われてる感じがすごくて、買うのを躊躇した。


8エイトもよかったけどねぇ。」


くっ…、っと惜しむ気持ちを我慢するように目をギュッと瞑る。

でももう私には11こいつがいるんだ…!


よし、話を戻そう。


父のトークを開いて、診察が終わったことを連絡する。結果は…合って話したほうが良さそうだよね。


私、加藤千陽の肉親は父だけ。

母は、私がまだ小さいときに交通事故で亡くなってしまった。それからは父が一生懸命に育ててくれた。


そのおかげでこんな立派に成長しました!!


結構私やんちゃだったから、しょっちゅうお父さんに心配かけてたな。


そういえば、と医者が言っていた病気について調べてみる。


────。


「ははっ。なんか他人事みたいだな。」


自分を慰めるように、落ち着かせるようにそう言ってみる。

が、こうのあたりにすると、文字一つ一つが脳に焼き付いてくる。


いや、でも…

死ぬわけじゃないし!何とかなるでしょ!


持ち前の明るさを取り戻し、ポジティブに捉える。


「加藤さーん、加藤千陽さーん。」


受付のお姉さん呼ばれ、席を立つ。


「隣の薬局でお薬貰ってってくださいね。」


「はい。」


「お大事に〜。」


渡された紙を受取り、病院を出る。

そのまま言われた通り、隣にある薬局へ向かう。


「あれっ」


病院と薬局の真ん中にある駐車場に見覚えのある車が止まっていた。

父の車だ。


「よぉ。早かったな。もっとかかるもんかと思ったんだが。」


「今日そんな混んでなかったんよ。」


「珍しいな。」


んね、と相づちをうち薬局に入る。


ドアが開くと、店内に軽快な音楽が流れる。

最近流れる曲、変わったな。前はもっと古臭かったのに。


店員に、貰った紙を渡し席に座る。


「そういえば、結果、どうだったんだ?」


父は真剣な目でこちらを見る。


「あ、うんとね。」

「… 網膜色素変性症、なんだって。」




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消える世界で。 けい。 @K_yalou

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