生徒会


「失礼しまーす」

 翌日の放課後、一ヶ月以上遅れた委員会の顔合わせが開かれた。校内各地で一斉に行われた集会は、一から三年までの全学年が交流する貴重な機会だ。各委員会で仕事内容や新一年生の確認を行い、一年間のおおよその活動予定を決定する。

 生徒会も例外ではない。所属が決まった智と一も初となる生徒会室を訪れたのだが、ドアを開けた瞬間目の前の光景にたたらを踏んだ。

「やぁ、いらっしゃい。新入生だよね?」

 そこには三人の生徒しかいなかった。一人は前に見た二年のあおいで、他に男子生徒が二人。

 そのうちシャープペンシルを摘んでふらふら揺らしていた男がこちらに視線を流してにやりと笑った。

「そうっすけど······」

 智が複雑な顔をする。本来なら各学年から三人ずつと生徒会長が一人、合計で十名ほどの人数が集まるはずだ。それなのに三人しかいない現状を見て、一も同じような顔で眉をしかめた。

「嬉しいね。この状況じゃ誰も来てくれないかと思った。まぁ座って座って」

「あ、僕お茶いれましょうか? せっかくの一年生ですもん」

「あ、じゃあ僕の分もお願いね〜。葵も飲むでしょ?」

「飲みますけど。自分で動きなさいよそのくらい」

 目の前で繰り広げられる会話に瞬きをする。悠々と黒板の前に座る男子生徒がシャープペンシルを机に置く。そのまま手を流すようにして、「そちらへどーぞ」と空いている席を指し示した。

「珍しい子たちだね。今ここに入りたがる人いないんじゃない?」

 黒板の前の彼はにやりと笑って言った。ただでさえ細い瞳がキュッと糸のようになり、まるで胡散臭い化け狐でも見ているかのような気分になる。

 一方で、「あんまりそういうこと言わないでくださいよ〜。僕だって突然スカウトされて戸惑ってるんです」とお茶を入れていた生徒が一たちの前にティーカップを置く。ふわりと湯気を立てる紅茶のように、柔らかく綺麗な前髪が眼前を掠めた。髪と同じ亜麻色の瞳はくりくりと玉のように丸い。小さな身体と相まって、中学生、もしくは小学生と間違えてしまいそうなほどだった。

「紅茶、飲んでいいですよ。全部この人のポケットマネーなので」

 静かに見ていた葵が胡散臭い彼を指さした。智が「は、はい?」と首をひねったところで、細目の彼は「ああ、自己紹介しなきゃね」と今更のように口の端を上げる。

「僕は河上秦也かわかみしんや。会計担当の三年生だよ。そのへんのお菓子は僕の奢りだからテキトーに食べてね。今三年生の中でまともにここ来てるの僕だけー」

 ケラケラと笑う秦也に、葵が氷のような視線を向ける。それにわたわたと苦笑しつつ、幼げな生徒が「鳥部とりべ夏希なつきです!」と頬を和らげた。

「夏希くんも今年からなんだ。君たち、お名前は?」

 秦也はポケットからキャラメルを取り出すと、「そいっ」と机の上に滑らせて配り始める。

葛野智くずのさとし、一年生です。で、こっちが藤田一ふじたはじめ

「よ、よろしくお願いします」

 随分と自由で奇妙な空間だ。気圧されるように、一もぎこちなく頭を下げた。

「ふんふん、智くんと一くんね、よろしく」

 そう言いながらキャラメルを頬張ると、「君たち葵の知り合いなんだって?」と秦也がからかうように笑った。

「さして知り合いでもありません。一時期近所にいただけです」

「えー? 葵先輩ひどーい」

 既に慣れてきたらしい智の言葉に、葵が面倒くさそうな視線を流す。あははと首をすくめると、「ってか質問なんですけど······」と智が身を乗り出した。

「なんで三人なんすか? もっといますよね?」

 ド直球な言葉に秦也が「あっはっは」と肩を揺らした。この雰囲気の中で堂々と言ってのけた智が面白いのだろう。

「ま、ご覧の通りよね。だぁれも来たがらなくなっちゃった。真面目な子が多かったのに」

 席を立った秦也が教室の隅へ移動する。棚から名簿を手に取ると、「これどーぞ」と智に手渡した。







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