河上秦也
「グレーのマーカーで塗られてるとこあるでしょ。その子が殺しちゃった子ね。で、下の子が母親殺されちゃった子。二人とももう抜けてるの」
まるで遠足の思い出でも語るかのような口調だった。智は顔を顰めつつ、「じゃあ他の人達は?」と視線を上げる。
「ほんとは来るはずなんだよ。生徒会は他の委員会と違って三年間所属し続ける仕組みなの。君たちも知ってるでしょ? だからここに書いてある子達はみんな今年もいるはずなの。ま、周りからの風当たりが強いんじゃない? ここにいるってだけで気味悪がられるからね。しかもほとんどが大人しくて真面目な子だったからなおさら。非難されずに生き残ってるのは我が強くて信頼も厚い僕らだけだよねん」
そう言って秦也が
「貴方と一緒にしないでください」
「はいはーい。葵くんは優等生だから冤罪かけられなかったんだもんね。僕とは違う違ーう」
飄々としている秦也を見つめ、智は薬を飲んだ赤子のように口を曲げた。そして蔑むような瞳をもって「何もしないんすか? この現状に」と眉を寄せる。爛々と燃える彼の瞳が、冷めた紅茶に赤々と映っていた。
しかし対する秦也は呑気な声で「んー?」と口の端をあげる。
「逆に君なら今何をやるの?」
突拍子もない問いだった。それに少し怯んだものの、智は「俺なら、今すぐ人を集めて生徒会が機能していることをアピールします」と自信ありげに噛み付いた。
「なるほどね、まぁ大事だよねアピールは」
そうだろと言いたげに智が肩を下ろす。「ならすぐに」と身を乗り出したところで秦也がクルッとこちらを向いて目を細めた。
「甘いよね」
その一言に智の笑顔が崩れた。「はい?」と眉を寄せた彼を見て、「君、覚えてないの?」と秦也が意味ありげににやついた。
「一くんに教えて貰ってたじゃない。時と状況を見て待ち続けることの大切さ。狩りの基本よね。それで成功したのが君たちでしょ」
「は?」
その瞬間、一は思わず智の前に出ていた。目をぱちぱちさせる智をよそに、秦也の顔をじっと見つめる。
そこに見えた一筋の愉悦が渦を巻いてこちらを見つめた。細められた瞳の奥には、明らかにこちらをからかって楽しむ悪魔のような色が見える。それを読み取った瞬間、パチリと遠い景色が瞬いた気がした。
「智は忘れっぽいんです」
静かに零した声に、秦也は「なーるほどねっ」と肩をすくめる。
「こりゃ失敬、もう知ってるものかと思ってたよ。じゃ、君だけか。ちなみに君さ、今から時間ある? あ、智くんは抜きでね」
ペラペラと紡がれた言葉に眉間を狭めると、一は迷うように智の方へ振り返った。彼は神隠しにでもあったかのような顔をして、「何の話だ?」とこちらを見上げている。
「なんでもない。多分人違いだよ。話だけ聞いてくから待ってて」
そう言って秦也と共に生徒会室を出た。一人取り残された智に「あ、あの······紅茶入れ直しましょうか?」と話しかける
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