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湯気を立てる味噌汁を一口啜ると身体の芯にぬくもりが染みた。汁に浸ったネギと油揚げがやはり一番美味いと思う。
日が昇り始めた午前七時。ニュースキャスターが挨拶をしたところで、
神職である
そもそも家を継ぐことに迷いがあるのだ。あいにく一人っ子なので大声では言えないが、神の傍で生きる自信が無い。あれだけ得体の知れぬものを抱えて、家を守り抜くことなどできようか。一からすれば、神とはそういうものであった。
境内の掃除の後は
鮭をちまちまとつついていたら、父が本殿から帰ってきた。温めておいた鮭を一尾渡すと、一は黙々とご飯を平らげて「ごちそうさま」と席を立つ。
「今日、
父は「おう」と答えた。互いに口数が少ないからか余計な会話はしなかった。しかし学校の準備をして外に出ようとすると、父が「待て」と声をかけてきた。奇妙に思いながらそちらを見ると、彼は鮭の皮をつまんだままテレビを見ている。
「殺人事件があったらしい」
「え?」
「学校の近くだ。北側の住宅街」
テレビを見ると、本当に高校の傍だった。ここからは少し距離があるが、学校の位置を考えれば他人事とは思えない。
「遅くなるなら駅まで智くんと一緒にいなさい」
それだけ言うと、父は「行ってらっしゃい」と味噌汁を啜る。そんな彼をしばし見つめると、「行ってきます」と扉を開けた。
相変わらず爽やかな夏の朝だった。
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