第27話
警察官の3人はトトを追いかけて取調室を出ていった。だが凛々子だけは、出口の前で立ち止まった。そしてゆっくり振り返ったあと、シオンの前に歩み出る。
「ねぇ、プリマにお金盗らせたの、アンタでしょ」
「……なんの話だよ」
「プリマが盗みをした事をアンタは知ってた。だから警察がプリマを捜査してるって聞いて逃げたんでしょ。盗みがバレて捜査されてるんだ、って思ったから。違う?」
シオンは、何も言い返せなかった。
くだらない喧嘩で捕まるなら、まだ良かったのだ。だが盗みで捕まるのは、嫌だった。盗んだ理由は、金がないからで、金がない理由は、魔物狩りが必要とされなくなったからだ。そしてその現実と向き合えない自分が、世間に晒されてしまう。しかも、自分の手は汚さず、プリマを使った。どこまでも、自尊心が傷つけられない。そんなシオンの弱さが露呈してしまうのを恐れた。
「でも残念。あの子は盗みに失敗したの。凛々子に見つかったからね。アンタが今持ってる銀貨は、凛々子とシルヴァが貸したお金」
酔いは、もう覚めている。でも、プリマの話の時から既に思考が追いつかない。大きすぎる衝撃への防衛本能だろうか。何も感じられなかった。気分の悪さだけが胃と胸の辺りに残っているのが、なぜか今頃になって気に掛かる。吐いてしまいたい。
凛々子は静かに話し続ける。声を荒げることも、表情が歪むこともなかったが、震えた声には、確かに怒りが滲み出ていた。
「謝ってたよ、あの子。凛々子に捕まった時、何度も何度も謝ってた」
「……知らねぇって」
「言わなかったよ、アンタのことも」
顔を伏せたまま、シオンは何も言えない。
「プリマが……、プリマがようやく見つけた居場所が、今ここにいるアンタだなんて。凛々子信じたくないから」
それから彼女は、取調室を出ようとして、もう一度こちらを振り返った。今まで整っていた顔が、歪んでいた。
「プリマにもし何かあったら、絶っ対に許さない」
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