第23話
「トト! 大丈夫!?」
大男が、凛々子に注意を向けたもやし男の隙をつき、薙ぎ払うようにして彼を吹っ飛ばしたのだ。
吹っ飛ばされたもやし男は、トトに直撃した。凛々子に手が届く距離にも達していない場所で、トトはもやし男の下敷きになりながら舌をだらりと垂らし、目を回している。凛々子が駆け寄ってきて、心配そうにトトの顔を覗き込んだ。拍手の音なんて聞こえない。獣人の登場という新たな展開に、歓声がヒートアップしただけだ。
(か、かっこ悪い!)
「へっ、やりやがったなぁ」
もやし男は自分の下にいるトトのことなどまるで気にせず、ニヤリと笑みを浮かべて立ち上がろうとした。乗っかっていた重みが抜けて、潰されていた肺が元に戻ると、呼吸が楽になった。
そして、息を吸い込んだその時だった。
懐かしい匂いがした。胸が、ズキンと痛んだ。
思わずトトは、大男に向かおうとするもやし男の手を掴んでいた。彼は驚いて振り返る。一瞬、あたりが静まり返った。
「は……? おい、何だよ、この犬」
「凛々子、この人……」
忘れるはずのない匂い。
「お姉ちゃんの匂いがする……!」
「えっ……!? ね、ねぇアンタさ、プリマって子、知らない!?」
もやし男は凛々子に両肩を掴まれて顔をしかめたが、プリマの名を聞いて表情を変えた。
黙っていた観客が、再び騒ぎ始める。隙をつくタイミングを伺っていたフルーツ屋の店主が、大男に攻撃を仕掛けたらしい。
「プリマ? プリマがどうした!?」
だが凛々子の警官バッチを見て、彼は固まった。
「ん……? 警察が、プリマを探してる……?」
「そーだよ、リリコ、ケーサツ! プリマを捜索中!!」
凛々子の言葉を聞くや否や、もやし男はトトの手を振りほどいて走り出した。
「あぁっ、ちょっと! いやこれ前もやったやつじゃん!」
「あいつ、何か知ってるんだ!」
トトと凛々子は、喧嘩の続きに湧く見物客を掻き分け、男の後を追った。
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