第19話

「ボクの、せいなんだ、ボクが、あんなこと言ってしまったから。ボクが大人しく、騎士国に行っていれば……」


 広場にある扇状に広がった階段に腰を落ち着けて、トトは全てを話した。それから凛々子が貸してくれたハンカチを目に押し当てて更に泣いた。

 しばらく凛々子は何も言わずにトトの背中を優しく撫でていた。それから、静かに尋ねる。


「お姉ちゃんのこと、好き?」


「も、もちろん!」トトはガバッと顔を上げた。だが、表情はすぐに曇っていく。


「……でも、ボクは臆病で、お姉ちゃんのこと、一度も助けてあげられなかった。いじめられても、何も言い返せなかった」


 そんな自分が、本当に嫌だった。悔しいのに、何を言っても仕方がないと片付けた。耐えること以外に、何もできなかった。


「でも、今トトはこうして、凛々子たちに会いにきた。お姉ちゃんを助けるために」


「で、でも……もう、遅いかもしれないじゃないか。今更ボクが助けに来たところで、やっぱりもうおね」

 と言ったところで、凛々子がトトの両頰を両手で挟んだ。目を細めてトトを睨んでいる。


「でもをでもで返すな」「す、すいません」


「お姉ちゃんを助けにきたんでしょ! ヒーローが一番最初に諦めてどーすんだよ。手遅れでも何でもいいから、とにかくやれる事は全部やるの。悪い奴がいたのなら、ボコボコにしてやんなきゃ。そんで強くなったトトを、お姉ちゃんに見せてあげるんだよ」


 凛々子の眼差しは、強い。ぼやけたトトの視界にも、彼女の瞳に宿る光はまっすぐにトトに届いた。

 思えば凛々子は、トトがどれだけ落ち込んでも、一度も弱音を吐くことはなかった。これだけ探しても見つからない姉を、必ず見つけられると信じて疑わない。


 トトにはないものを凛々子は持っていて、そしてトトを支えてくれている。そんな凛々子に、トトは憧れてしまった。こんな風に強くなりたいと、心の底から思った。

 涙が一筋流れて、凛々子の手を濡らした。トトが「うん」と頷くと、凛々子は手を離して、強気な笑みを浮かべた。


「話してくれてありがと。おかげで凛々子のやる気が2億倍上がったからもう大丈夫」


 いつもあまり表情のない彼女が笑うと、何故だかこちらの気持ちまで熱くなる。2億の数字にも何の根拠もないけれど、凛々子が大丈夫というなら大丈夫という気がしてくるから、不思議だ。


 気がつけば、辺りはすっかり暗くなっていた。


「凛々子も早くオレンジワンピの子見つけなきゃ。よし、明日もがんばろ」


 そう言って、凛々子はトトの手を引いて、二人は今日の捜査を切り上げた。

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