第18話
獣人は、毛の色によって身分が決まっている。
王族の白銀、貴族の黒、平民の灰色、農民の茶色、と言う順番で身分が下っていく。全身茶色の毛を持つトトは、一番低い農民の身分だった。もちろん、両親もトトと同じ、全身茶色の毛を持っている。
だが、姉だけはなぜか、茶色、黒、白が混ざった斑模様を持って生まれてきた。
獣人は、自分の毛の色や毛並みを重視し、誇りを持っている。それ故に、奇妙な配色を持つ姉の姿は大変に気味悪く映り、彼女は小さな頃からずっといじめられていた。
狼ではない生き物の血を引いているのだとか、呪われているだとか、そんな言葉をよく浴びせられていた。
なぜ姉がそのような姿になったのかは分からない。ただ、見たことのない祖母が斑模様を持っていたという話を聞いたことがあった。その遺伝が姉に移ったのかもしれないと、トトを含め家族は思っている。だが、そんな事が分かったところで、どうにもならない。
姉の姿は、家族にも影響を及ぼした。
トトにも実は斑模様があるんじゃないかと服を脱がされかけたり、お前も呪われてるんだとか、そうやってからかわれたりもした。
騎士国への出稼ぎも、そのうちの一つ。要するに嫌がらせだった。
騎士国との繋がりを持つことができた獣王国では、その間の商売活動が奨励されている。強制ではないが、騎士国へ商売に行けば、売上にかかわらず納める税が少し軽くなるのだ。そして獣王国の納税は、一つの家ごとではなく、集落ごとに徴収する仕組みだ。だから、誰も行きたがらないその商売を、集落の仲間たちはトトの家に押し付けた。
両親は、それを受け入れた。姉のことで、肩身の狭い思いをしていたこともあり、集落の仲間たちの機嫌を取りたかったのだろう。断れば、また悪口を言われるだけだ。そして両親は、姉のいない時に、長男であるトトにその仕事を任せようとした。
トトはそんな両親に怒った。
「どうしてボクが騎士国になんて行かなきゃならないんだ! お姉ちゃんが行けばいいじゃないか!」
お姉ちゃんのせいなんだから。とにかく行きたくない一心でそう言った時、両親の目線がトトの頭上で固まっているのを見て、トトは言ってはいけない言葉が姉に届いてしまったことを悟った。
姉は、よく笑う人だった。いじめられても、つらい顔を見せることなんて、ほとんどなかった。
その時の姉の顔は、どれだけ時間が経っても忘れることはないだろう。あんなにも、痛々しい笑顔は。
「ごめんね、お姉ちゃんのせいで……。騎士国にはお姉ちゃんがいくから大丈夫。お姉ちゃんはね、もう色んなこと言われ慣れてるもん、今更何言われたってへっちゃらだもん」
そう言って、姉はトトの頭を撫でた。優しいあの手のひらの感触を思い出すだけで、心が痛くてたまらない。でも、姉はもっと痛かったはずだ。
結局それから謝る事も出来ないまま、5ヶ月後、つまり5回目の出稼ぎで姉は姿を消した。出稼ぎについて姉が文句をいうことはなかったし、トトに対する態度も今までと変わることはなかった。
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