第17話
凛々子はトトを連れ回しながら、露天商や道行く人に聞き込みもした。
「黒い耳した獣人、知らない? この子のお姉ちゃんなんだけど。……そっか。じゃあさ、オレンジのワンピース着てる人間の女の子は? 黒髪ロングでね、ハタチ手前くらい」
尋ねられた者たちの答えは全て「知らない」だった。そしてその半分くらいが、トトの姿を見て、または「獣人」と言う言葉を聞いて、顔をしかめた。体臭には気をつけているつもりだけれど、露骨に嫌な顔をして鼻を覆う者もいた。石を投げられたりしないだけマシか、とも思ったが、それは隣に凛々子がいるからかもしれない。一人だったら、今頃どうなっているのか、考えただけでも恐ろしい。
(やっぱりこんな所で、生活なんてできるはずないのかな)
組合のおじさんや、凛々子を含め警察の人たちが親切だったから、勝手に人間に対する期待が高まってしまっていた。たまたまトトの運が良かっただけで、道ゆくその他大勢の人々の反応の方が、いたって普通なのだろう。
そんなトトをよそに、凛々子は淡々と同じ調子で聞き込みを続けていく。その度に、トトの心はどんどん沈んでいった。やっぱり、姉はもう……。
夕方になっても、姉は見つからなかった。凛々子の探している人間も同じく、見つかる気配すらない。
2年も行方知れずのままなのだ。そう簡単に見つかるはずもない事は分かっていたが、もはやトトに希望の光は見えなくなってしまっている。
それでも凛々子はまだ諦めない。一度聞いた人にも「ねえ本当に知らない? 絶対? ほんとに?」としつこく聞いてしまうほどで、トトは呆れたら良いのか、感心したら良いのかよく分からなかった。
「ねぇ! トトはさ、おねーちゃんが見つかったら、まず、どうする?」「えっ」
凛々子が唐突に聞いてきたので、トトの暗い思考が一旦止まった。
「えっ、て。何? こっちが、えっ、なんだけど。まさか何にも考えてないわけ?」
確かに、姉を見つけることだけに必死になっていて、具体的なこと、例えばどんな言葉をかけようとか、何から聞こうか、などという事は考えていなかった。
いや、最悪の事態を想定して、考えないようにしていたのかもしれない。せっかく得られた希望が、また打ち砕かれてしまう可能性だってある。むしろ、その可能性の方が、高いと思っている。
もし、姉に会えたなら。
凛々子がそんな思考の扉を開いてしまったせいで、トトは押し寄せる感情を制御できなかった。
「謝りたいんです」
「えっ? ……って、うおぉ!? めっちゃ泣いてるし! ご、ごめん! なんかごめん!! え、えぇとこういう時は、アイス! アイス食べよ、ね!? あ、アイスないじゃんここ! くそー!!」
涙を止められないトトに、凛々子は焦りに焦ってよく分からないことを喚きながら、どこか落ち着ける場所を探し始めた。
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