第5話

「これで、見捨てたわけじゃないから」


 警察署からの帰り道、プリマは凛々子が言った言葉を頭の中でずっと反芻させていた。

 あの後、シルヴァに文句を言われながらも、凛々子は本当に警察署からプリマを帰した。


 手の中の銀貨を弄びながら、プリマはとぼとぼと人混みの中を歩く。すでに日は沈みかけていたが、夜の花火に向けて、人はむしろ増えているようだ。


 大きな窓がはめ込まれている誰かの家の前で、プリマは立ち止まった。部屋の中は真っ暗だ。家族みんなで祭りに出かけているのだろう。物売りたちはすでに店を閉めていたが、食べ物屋台はまだ明かりを煌々と灯しながら商売を続けている。おかげで、自分の顔を窓ガラスに映すことができた。顔や両腕の肌の感触を確かめて、プリマはホッと肩の力を抜いた。

 だが確かに、ひどい顔をしていた。頬が痩せてきているような気がする。口角も眉も下がり、目の下にはうっすらとクマができている。明るい色の服で着飾っても、滲み出る疲れは隠せない。


 銀貨五枚をたまたま手に入れたところで、今の生活が変わるわけじゃない。自分のひどい顔は、きっと変わらないだろう。もちろん、その場しのぎにはなる。だがいずれ金がなくなればまた、プリマは警察の世話になる。どうせ凛々子はそう言いたいのだ。そしてまるで聖人のように、銀貨五枚という時間を与えた。


 何様のつもりなのだ、と腹の立つ一方、安堵している自分がいるのもまた事実だった。

 これで、彼に怒鳴られたり、殴られたりすることはないだろう。


 突然、笛のような高い音が響き、プリマははっと振り返った。そのあとすぐに大砲のような爆発音が轟くと、真っ暗な夜空に、大輪が咲いた。同時に、歓声が湧く。花火が始まったのだ。

 2年前は、彼と一緒に祭りの店を見て回り、花火を見た。あまりにも楽しかったのに、あっという間に散ってしまった花火を見て、なぜだかすごく虚しい気持ちになったのを覚えている。

 美しいものや、楽しい時間は、長くは続かない。それらはいつも、終わりの儚さと共にある。


(でも、すがり続けるしかないもの)


 花火に照らされる銀貨をしばらく眺めた後、もう一度窓ガラスに向き直って、両手で自分の両頬をぐいっとあげて、プリマは笑った。


 それから、彼の待つ家に向かう。

 部屋に入る前に、プリマは五枚あるうちの一枚の銀貨を、ポケットに入れた。

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