第2話

 見つかった。


その思いだけが、脳内を駆け巡った。背後には、この革袋の持ち主が恐ろしい顔をして立っているに違いない。振り返ることも、逃げる事もできずに、プリマは固まった。


「それ、盗ったでしょ」


 しかし、その声を聞いた瞬間、プリマは考えるより先に首を回していた。婦人と呼ぶには、あまりにも若々しい声だったから。


 プリマの腕を掴んでいたのは、まだ10代であろう少女だった。17歳のプリマと同じくらいだろうか。金と茶色の混ざった髪を高い位置で束ね、Yシャツに、襞の多くついた短い紺色のスカートを履いている。異国の者なのだろうか、見たことのない服装だった。むっとした顔で、まっすぐにプリマを見ている。


 小銭袋を盗られた婦人はと言えば、まるでこちらに気づく様子もなく、金を失った今もなお絹織物に執着していた。

 何も言えないでいると、少女はプリマから革袋をひったくった。そしてプリマの手を掴んだまま、持ち主の婦人に大声で叫ぶ。


「おばさん! ねえってば、おばさーん!! 落ちてたよ! 紐切れちゃってるよ!!」


 少女の言葉に、プリマは目を見開いた。心は僅かに安堵したが、それはすぐに罪悪感と居心地の悪さに変わる。すぐにでもここから消えてしまいたくなった。


 やっとの事で少女に気付いた婦人は、おばさんと呼ばれたことに何とも複雑な表情をしたように見えたが、自分の小銭袋に気がつくと、「あぁ、ありがとう」と短く言ってそれを受け取った。そしてまたすぐに、それどころじゃないのよ、とさえ言いそうな切り替えぶりで、群衆の一部に戻っていった。


 少女はそのままプリマの腕を引いて、大通りの人混みを抜けていく。プリマの罪は告発しなかったものの、このまま見逃してくれるわけでもなさそうだ。手を振りほどいて走って逃げようか。そう思ったが、半ば放心状態に陥っているプリマは行動を起こせずにただ少女に引っ張られていく。


 路地を数回曲がり、少女は人通りがまばらな通りへ出た。すると彼女が急に立ち止まるので、危うくぶつかりそうになる。それからくるりとプリマに向き直り、少女は言った。


「お金、ないの?」


 焦げ茶色の大きな瞳がまっすぐにプリマを見ている。

 彼女の問いの意図がわからず、プリマは戸惑った。彼女の瞳に、自分はどう映っているのか。いや、どう映ればいいのだろう。考えあぐねて、プリマは尋ねる。


「あ、あなたは」

「いや別に誰でもよくない? まぁいいけど。凛々子。ケーサツ」

「けー、さつ?」


 はじめは、からかっているのかと思った。警察の制服も着ていなければ、娼婦のように足を露出したこの少女が。警察だなんて。

 だが凛々子と名乗ったこの得体の知れない少女は、胸のポケットから警官のバッチを取り出したのだ。


「あっ! ちょっと!!」


 弾かれたように、プリマは大通りへと走った。

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