第2話 聲

正直なところ、僕、もしくは僕の文章に興味を持ってくれる人がいたことに

少し、いやかなり驚いている。

本当はボトルの中に宛てのない殴り書きを入れて、ネットの海に流し

それで満足するつもりだった。


誰かが読んでいることを改めて認識したとき

それだけでは満足できなくなってしまった僕を許してほしい。


さて、今日も今日とて耳鳴りがひどい。

コイル鳴きのような音は1年かけてある程度慣れてきたけれど

この脈打つような耳鳴りだけは、いまだ慣れない。


頓服用の薬はもらっているのだけれど

効いているのかというとそうでもない。

何せ慢性的な耳鳴りの上から突発的に鳴り響くのだ。

気休めのお守りとして、プラセボくらいは期待したいところ。


結局根本的な解決には至らなくて

騙し騙し生きているような、そんな生き辛さ。国からも手帳を受け取った。

未だに働くこともできず、手当を受け取りながら生活している。


もう同じような過ちを犯したくないから

なるべく自分のペースに合った仕事を探したいと思っているが

そんな都合のいいものはなく、ただこうして文章を書き連ねている。


かろうじて僕に残されたのは、稚拙な文だけである。

素人に毛も生えないくらいのアマチュア加減だ。


ゲーム制作会社に3年以上勤めたものの、大したスキルも、社会経験も

まともに築くことができなかった僕には

これしか残っていないと、そう思ってしまっているのだ。


ただの下っ端ADだったのだけれど

それでも何者かになりたいと、そんな思いが僕を狂わせる。


ずっと前から温め続けていた一つの物語。

きちんと紡ぎあげてやれるだろうかと、不安が付き纏う。

それでも綴るしか僕には選択肢がなかった。

大人になれなかった僕の、最初で最後のあがきである。


どうかこの聲が未来の僕にとって恥ずかしいものでありますように。

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