耳鳴りの聲

海凪あすた

第1話 僕

キーンキーン

リーンリーン

ジジジジジジジジジジ


あぁ、今日も厄介な耳鳴りが僕を襲う。

耳を塞いだところで大きくなるこの耳鳴りは

僕が鬱と診断されてから、この調子である。


最近はドク、ドクッと脈打つような音とともに

一瞬くらっとするようにもなった。


あの診断がされてからもう1年近く

朝起きられない、会社に行けない、などというような状態からは回復し

それなりに活動することができるようになった。


とはいえ、家から出ようものなら、階段につまずいて転んで死んでしまったり

エレベーターのワイヤーが切れて落下死したり、車に轢かれたり、バイクや自転車に轢かれたり

誰かに付け狙われて殺されたり……そんなありえなくはないけれど、常に最悪な想像ばかりをして

焦る自分を抑えながら帰宅するのは、正直つらい。


そんなことは万に一つの可能性なのだと笑われるだろう。

自分でもわかっている。

それでも、周りの視線や言動行動すべてが恐ろしく感じるこの状況を

どう説明したらいいのか、僕にはわからない。


あぁ、また耳鳴りが邪魔をする。

どくりどくりと頭の中で脈打つような音。

コイル鳴きのような高音の音。

もううんざりだ。


医師に相談して薬をもらったところで解決なんてしなかった。

僕はずっとこいつと付き合わなきゃいけない。

鬱だ死のう。といって死ねるほどの度胸なんて持ち合わせてない。


死への恐怖を克服できないのだ。

僕なんかよりも、もっともっと苦しい人は、きっと死という概念すらなくて

命を絶っていったんだと思う。


死者はしゃべらないからわからないけれど。

僕なんかが軽々しくしていい話でもないけれど。


でも痛みや苦しみもなく、この世界からおさらばできるなら

ちょっと、いやかなり興味がある。


僕の鬱は軽い。耳鳴りは、消えないけれど。

せめてタイピング音が耳鳴りをかき消してくれないかと、そう願うばかりだ。

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