何故か有望株の仲間が追放されたので俺はソイツについていく事にした
猫鍋まるい
鎧意覚醒篇 第一幕 大鼠の穴倉
第1話 乗るしかない、この有望株に…!
「もうお前クビね、明日から来なくていいから」
冒険者ギルドの片隅で俺達のパーティーリーダーであるレオ・ライオネスは冷徹な声色でそう告げた。
クビを告げられたのはネルミという獣人族の冒険者でざっと二か月ほどの付き合いになるが、手入れの行き届いてないボザボサのくせ毛が顔を半分ほど常時隠しており、またあまり口数が多くなくボソボソと話すせいで細身の少年なのかはたまた少女なのかも未だに分からないありさまだ。
頭部から生える垂れた犬耳から獣人族である事は分かるのだが、肉弾戦を得意とする者が多い獣人族にしては珍しくネルミは味方のサポートを主とする聖術魔法の使い手”ライト・ホーリー”の
俺達のパーティーである”獅子の
とはいえリーダーのレオは「聖術魔法使いはもう事足りている」とロール被りを理由に挙げネルミのパーティー加入を渋ったのだが、副リーダーの俺がネルミの加入を後押しした事もあってここ暫くネルミは”サポーター”として俺達と共に活動してきたのだ。
そう、サポーターとしてだ。
もしもネルミが正規の冒険者としてパーティーに加入していたのであれば、今回の一件は不当な解雇だとしてギルドが定めた規約に従い突然決められた解雇の撤回を要求できたのだが…不幸な事にネルミは俺達のパーティーにサポーターとして参加していたのだ。
サポーターは冒険者と違い、自分からパーティーを離脱しても別段ペナルティーを科せられない代わりにパーティー側からの解雇にも抗う術を持たない。
こうして昨晩、俺達のパーティーからネルミは解雇…もとい追放されてしまったのだった。
今回の件、その発端であるパーティーリーダーのレオお坊ちゃまは、一応俺の幼馴染なわけで。
紅蓮の魔剣士として知られる騎士の一族、ライオネス家の子息であるレオは昔から我が強く…わがままな性格も理解してこれまで付き合ってきたつもりだったが。
幼馴染という関係を加味しても流石に今回の一件は見過ごせなかった。
ネルミを解雇するに至るような真っ当な理由がレオの中にあったのであればまだ納得できたのだが、解雇の話を口にしたその場でレオを問い詰めても個人的な不満のような言葉しか彼の口からは出てこなかった。
もとより依頼の途中で出会ったソロの冒険者のネルミを勧誘しパーティーに引き入れたのは俺だったので、今回ネルミをパーティーからほぼ独断で解雇したレオの横暴な態度を理由に挙げ俺も獅子の眼から脱退する事に決めた。
レオは散々悪態をついた後に「出ていきたいのなら好きにすればいい」と言っていたので、さっさと手続きを済ませた俺は晴れてフリーの冒険者となった。
レオはともかくとして、短い付き合いではない他のパーティーメンバーには事前に別れを告げようかとも思ったがネルミの一件を含め日頃からレオの言動に対し意見するような事が無いアイツ等なら、べつに俺がパーティーを離脱したところで何も思う事は無いだろうと結局連絡は入れないままパーティーから脱退してしまった。
(さてと、こうして俺は
普段より二時間も早く訪れた冒険者ギルド。
依頼書の貼り替え時間まではまだ一時間程あり、前日の残りか半ば放置されている依頼書しかボードに貼られていないこの時間帯は殆ど人の出入りは無い。
しかしながら俺のお目当ての人物は案の定、この早朝のギルドに既に訪れていた。
相も変わらずボサボサな髪から垂れる犬耳を揺らしながら、依頼書を物色するソイツに俺は後ろから声を掛ける。
「よっ、ネルミ。 昨日ぶりだな」
「……! じ、ジル…さん…? どうして…ここ…に? 」
「いやさ、あの後俺もパーティーから抜けちゃってよ。 んで、よかったら独り身同士一緒にパーティー組み直さないかって、アンタを探してたんだよ」
「…………」
無言のままパクパクと口を開閉するネルミ。
俺がパーティーを抜けたのはレオの我儘さに呆れたというのもあるが、実際のところそれが一番の理由ではない。
(俺はネルミ、コイツと仕事がしたい)
一目見た時から、どことなく他の奴とは違うと思っていた。
ただの勘違いかもしれない…そう思った事もあったがこの二か月、共に行動してみてハッキリと分かった。
ネルミは凄い才能を秘めている。
類まれな野生の勘か、鋭い観察力か。
とにかく、何事にも良く”気付くのだ”。
冒険者として大成するかどうかは分からないが、少なくとも過酷な仕事である冒険者として生きていくにあたってとても有利な力だ。
(そんな奴を野放しにしとくのはどう考えたって勿体ないっしょ)
有望株を見つけたら、とりあえずパイプを繋いどけ。
事あるごとに爺ちゃんはそう言っていたっけ。
「で、どうよ? 今度はサポーターとかじゃなくてさ。 俺とネルミ、冒険者同士で新しいパーティーを作らねぇか? ……っと、それとももう先約があったり…? 」
「え…。 な、ない…ないよ、先約。 でも、ホントにいいの…? ジルさん、なら…引く手数多だと…思う」
「いや、ネルミがいいんだって俺は。 もともと、俺が一目惚れして獅子の眼にも誘ったようなもんだし、な」
「ひっ…!? ひ、ひひ、一目惚れ…!? 」
「ん…? ああ」
(あの時からネルミの隠れた才能を感じ取って惹かれていたわけだし…一目惚れだったんだろうな)
「まっ、急に言われても困るよな。 俺は何時でも待ってるから、気が向いたら――
「よ、よろ…。 よろじくお願いじます!!!!! 」
「うおっ!? 急に叫ぶな……って! ネルミ…おま、な、泣いてんのか…!? 」
「う、うう…。 うれじ、嬉しくて…。 ジルが、い、言ってくれたこと、嬉じくて…! 」
「お、落ち着けって。 とりあえず、俺とパーティーを組んでくれるって事でいいんだな」
「うん、うん…! 」
「ったく、取り敢えず一旦外に出るぞ…ここで泣いてたら変に目立っちまうし」
疎らながら徐々に人が増え始めたギルドからそそくさと退出する。
何がそこまでネルミの感情を揺さぶったのかは分からないが、未だにズビズビ泣いている奴の手を握りながら大通りを二人で歩く。
(コイツの手小さっ! …ってか、柔らけぇ)
ギルド内で初めて聞いたネルミの大声。
予想外に高かった声から何となく察したが…もしかしてコイツ、
いや、別にネルミの性別が男だろうが女だろうが俺は気にしないのだが…女だと仮定して先程のやり取りを思い返すと…。
(何だかプロポーズみたいになっちまった気がする…)
冷静になって振り返ると、羞恥心から転がり回りたくなるので過ぎた事は記憶からポイして俺はこれからについて考える事にした。
(とりあえず、涙で顔がぐちゃぐちゃなネルミをこのままってわけにもいかねぇよな…)
今後の予定も話し合いたいし、せっかくならゆっくり落ち着ける場所がイイだろう。
そう思い、俺はネルミを連れて馴染みの喫茶店に立ち寄ったのだった。
◇◆◇
「いいのですか? レオナお嬢様」
「ッ…! 何がだ? それと、外ではその名を出すな、イリス」
「……申し訳ありません、レオお坊ちゃま。 ただ、彼をあのまま野放しにするなど、何を考えていらっしゃるのかと呆れ…いえ、このイリスには到底理解できないものでして…」
「相変わらず人を小馬鹿にするのだけは上手いな、お前は」
「お褒め頂き光栄です」
「褒めてない! ったく、なんでお父様はこんなヤツをオレに寄越したんだか」
「お坊ちゃま、グチグチと雑音を垂れ流すより最初の質問に答えていただきたいのですが」
「お前な! 仮にもオレのメイドなんだから、もっとそれらしい態度をとれよ…! 」
「イリスは貴女のお父様から子守りを任されただけで、貴女のメイドではありません。 そこのところ間違えてもらっては困ります、レオお坊ちゃま」
「ああ! もう! 分かったよ、いいからもう黙ってろイリス」
「黙るも何も、まずは質問に答えていただかないと」
「クソッ…! コイツ…! 」
「言っておきますが、手を出して痛い目を見るのは貴女ですよレオナ」
「……ッ! ホント、癪に障る奴だな…お前は」
「お褒め頂き光栄です」
「だから褒めてない! ……ったく。 いいか、お前がジルの事を気にしてるならその心配はいらない」
「…と、いいますと? 」
「アイツは元よりオレの
「はぁ…」
「なんだ、その溜息は」
「いえ、本当にそうなるのかと思いまして。 この二か月程、彼はあの獣人族に夢中でしたし」
「ハッ、それこそ気にする事はない。 ジルは昔から変なところでお人好しだからな、どうせあのみすぼらしい小娘が見てられなくて気にかけていたのだろう」
「ですが…街中で彼とあの娘が連れ立って歩いてるのを目にしたと、耳に挟みましたよ」
「は…………? それは…本当か」
「ええ」
「あの汚らわしい獣人め…。 ジルはオレのものなのに…。 クソッ、人のモノにベタベタと…! 」
「レオお坊ちゃま? 」
「くそくそくそくそッ! 」
「お坊ちゃま。 お坊ちゃま? 」
「アイツはワタシのだ…! ワタシの…! 」
(はぁ…。 これは暫く、話し掛けても無駄……ですね)
「失礼します」
我が儘
(何がワタシのモノ、ですか)
彼は…ジルは、イリスの王子様です。
彼と私の幸せな物語、これだけは誰にも。
誰一人として。
邪魔させない。
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