第23話 めいちゃん、怒った?
1月24日日曜日、目覚めたのはなんと8時過ぎだった。
これから5日間めいちゃんには会えない。
起きた瞬間から昨日一昨日の楽しいひと時が頭に浮かんだが、不安も増していた。
フレグランスランプに火をつけて、リア充の気分に浸ることにしたから少しは気にならなくなるだろう。
朝飯は卵かけご飯にしよう。
アツアツご飯に卵をかけてさあ食べようとした瞬間、植木から電話がかかった。出ようか出るまいか一瞬迷ったが、やっぱりご飯がふやけないうちに食べることにした。これがめいちゃんだったら迷わず出たけど…
卵かけご飯とインスタントのナスの味噌汁を食べ終えて、コーヒーをたててから植木に電話した。
「なんか用だった?」
「お前、ランチ一緒に行かない?未央ちゃんと優ちゃんがさあ、フラワーアレンジメント出来たらくれるって言うからランチ奢ってあげようかと思ってるんだけど優ちゃんの分はお前が奢ってよ、お前にあげたいみたいだから」
「俺いいよ、今飯食ったばっかだし、俺よりパパにあげた方がずっと喜ぶんじゃない?」
「パパにあげる訳ないだろ!お前のかあさんにフラワーアレンジメント習ってるのも絶対秘密なんだってよ」
「あー、面倒くせーなあ、何時ころ何処にいけばいいかLINE入れといてよ」
「おお、サンキュー!じゃあ後で」
あと3時間くらいだからジョギングしてシャワーでも浴びておこうか。少し気分転換した方がいいよな。
11時ころ植木からLINEが入って
「駅の向こうにあるパスタの店に12時集合」
俺はパスタよりソバがいいけど、まあいいや、和風きのこソースにしよう。
めいちゃんとだったら、朝は卵かけご飯と味噌汁、昼はソバ、夜はご飯とヘルシーなおかず、そのあとビール飲みながらちょっとおつまみって感じだろうな。
はっ!無理に決まってる。横顔した知らない、夜しか会えないのに、妄想だけが膨らむなあ。
パスタ店に入ってそれぞれ好みのパスタを頼み、ピザをみんなで摘むことにした。
未央ちゃんも優ちゃんも相変わらず元気で植木はしょっちゅう未央ちゃんに振り回されている。
「4時ころ終わるから今日は迎えに来てよね、その時お花あげるから」
「ええ?持って来てくれるんじゃないの?」
「今日のアレンジメントは不安定だから私が助手席で持ってた方がいいの」
「なんか面倒くさいんだね」
「じゃ、要らない?」
「いえ、要ります」
「浩二さんも4時ころ優ちゃんを迎えに来てね」
「あ、大丈夫。私が持って誠さんの車に乗せてもらうから、浩二さんちの下まで送って。それで浩二さんに渡したらまたうちまで送ってください」
「はいはい、かしこまりましたよ」
優ちゃんにも振り回されてやんの。
「浩二も暇だったら取りに来いよ」
「うん、お前の車に乗せてもらうよ。
それなら優ちゃんも行ったり来たりしなくていいし、俺マンションの下で降ろしてもらうから」
夕方植木の車で俺んちまで行って生徒のおばさん達に見つからないよう優ちゃんが作ったブーケのようなものを抱えてマイルームの下まで送ってもらった。
ブーケを何処に置こうか迷ったが、玄関だと出入りする時しか見えないし、出窓の上だと夜空を見ながら眠りにつく時気が散るから嫌だし、結局ダイニングのテーブルの上に置くことにした。
明日から4日間めいちゃんには会えない。
でも俺は腑抜けにはならない。
ソバ打ちを習得しよう。そうだ、話のネタが無くなったらソバを打って持参しよう。
ネットで揃えて次の休日から練習する!
うんと上手く打てるようになってめいちゃんと店でも持てたら最高だな。
よし、道具が届くまで、頭にインプットしておこう。
今夜の星は全く見えない。あ、めいちゃんに貰った宇宙のハンカチがあった。枕元に置いたらめいちゃんの夢みるかな?
おやすみ、めいちゃん…
1月25日月曜日、寒さのせいか、動きが鈍くなってる。これからは朝もエアコンのタイマーを入れておこう。
"ダークブラウン" に着いたのは8時5分。
みんなも今来たばかりのような感じだった。
いつものようにそれぞれ勝手にモーニングセットを頼んでいる。
「優ちゃん昨日はお花ありがとう。ダイニングテーブルの上に飾らせてもらったよ。なんか部屋が明るくなっていいね」
「良かった!時々お水を足してくれたら一週間は持つと思うからお願いしますね」
「浩二の部屋はグリーンが結構あるから花を置いても自然だろうけど、俺の部屋なんか花だけが浮いてる感じだよ」
余計なことを言うからまた未央ちゃんに突っ込まれてる。
「じゃあ、持って帰ろうか?」
「あ、いえ、それには及びません。グリーンを少し買います」
「週末に私が買うからそれまで待ってて」
「ホント?ありがと!それまで待ってます!」
はい、好きにしてください。
モーニングタイムも終わり、仕事も終わり、 "ダークブラウン" にも寄らず、コンビニでディナーのおかずを買い、帰り着いたらフレグランスランプをつけて、即シャワー。
そのあとディナーを食べ、片付けをし、さあ、いよいよソバ習得の時間!と言っても今週はまだ道具がないから脳内にインプット。
月曜日から木曜日まで4日間、リア充の日常が続いた。
1月29日金曜日、いよいよ今日だ。脳内にインプットしただけなのにもうすでにプロのソバ打ち名人になったような気がする。
だが、あんまりベラベラ知識をひけらかすと絶対引かれるからまずは専門書を見ながら話をしよう。あ、でも専門書は1冊ずつしかない。どうしよう。一緒に見てても顔は見上げないからって先に了解してもらうか?
なんか嫌だなあ。うーん、まあ、いいや。取り敢えず持って行こう。
脳内で何度もシミュレーションして完璧にソバの打ち方を覚えた俺は自信に満ち溢れていた。でも道具が届いて実際に打ってみるまでは自慢てきない。来週の今日はめいちゃんに美味しいソバをプレゼントできるだろう。
夕方までは長かったが、7時を過ぎて服を選んでいるとあっという間に出かける時間になってしまった。
数少ない上着の中でどれが一番マシか決めるのは本当に悩ましい。
結局ダークグレーのジャケットにした。めいちゃんの好きな色を聞いといて明後日の日曜日にめいちゃん好みのジャケットを買いに行こう。
のんびり歩いていたら8時5分になっていた。ひょっとしてめいちゃんはもう来てるかなと思ってカウンターの方を覗くと先週とは違う帽子を被っためいちゃんらしき女性が座っていた。
「ゴメン、のんびり歩いてたら8時過ぎちゃった。もう何か頼んだ?」
「はい、私今日はビールにしました」
「ホント?僕も今日はビールがいいな。これ、日本ソバの打ち方が載ってる本と日本中の老舗が載ってる本買ってみたんだ。
どっちも一部しかないから読みにくいかも知れないけど見てみて」
俺はビールが来たからめいちゃんの顔を見ないようにグラスを持って注いであげた。
めいちゃんも同じように俺のグラスを持って注いでくれた。
その時ふと不思議に思った。
俺がめいちゃんの顔を真正面から見てないようにめいちゃんも俺の顔を真正面から見たことないはず…別に見たくもないってことか?
こんなに打ち解けて気が合って楽しいのにどうして俺のことが気にもならないんだろう。なんだか俺って一人で盛り上がってるバカな片想いヤロウのような気がしてきた。
そして聞かなければいいのに衝動的に聞いてしまった。
「俺、めいちゃんと向かい合って楽しく話したいって思うんだけど、めいちゃんはそんなこと思ったりしないんだ」
めいちゃんは首を横に振ってくれた。
「ううん、私も向かい合って楽しく話したいんだけど顔を見られるのはどうしても嫌なの」
「どうして?俺、全然顔なんて気にしないよ」
「ごめんなさい、ダメなの!今日はもう帰るね」
「あ、ゴメン、もう言わないから明日も来てくれる?」
コクリと頷いたように見えたけど、横に振ったような気もする。
どうしよう、もう会えないのかも知れない。店に入ってまだ30分も経ってないのに。
ああ、こんなはずじゃなかったのに、もっと楽しく過ごすはずだったのに、どうして何も考えずにあんな、めいちゃんが嫌がること分かってるのにあんなこと言ってしまったんだろう。
まだ8時半だけど、俺ももう帰ろう。歩いて帰る元気なんてないからタクシーで帰ってもう寝よう。
めいちゃん、ごめんね、おやすみ…
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