第21話 こんなに楽しいひとときが⁉︎

1月22日金曜日!相変わらず寒いけど、気分は上々。

やっとめいちゃんに会える日が来た。

5時半に目が覚めてから全く眠れない。

エアコンののタイマーを入れ、6時に布団から出てめいちゃんに会う時の下準備をした。着ていく服も、バッチリ決めてるめいちゃんに合わせてグレーのブレザーにブラックのタートルネックにした。

オードパルファンのサンプルも届いたから忘れないよう今晩履いていくブーツの前に置いておこう。

さて、ちょっと早いけどもう準備も整ったからモーニングに行くことにしよう。


7時56分、駐車場に着いたが、やっぱり誰も来ていない。

58分にカランコロンを開け、先に注文も済ませた。

マガジンラックに新しいタウン誌が置いてあったからなんとなく手に取ってみた。

表紙にはなんと、ソバ特集と書いてある。

俺が行ったことない店も載ってる。写真は天ぷらソバしか載ってないけど、麺の太さもつゆの色も俺好みだ。

よし、帰りに忘れず2部買って帰ろう。

8時になると、みんなゾロゾロ入って来た。


「えー!浩二が一番じゃん、どうしたん?」


めいちゃんに会えるのが嬉しくて早くから目が覚めた、なんて言えないよな。


「昨日早く寝たから、今朝も早く目が覚めたんだよ」


「へーえ、俺なんか何時に寝ても7時過ぎまで目が覚めないのに」


お前はそうだろう。

金曜日は植木と未央ちゃんが一段と嬉しそうだ。

土日にどこへ遊びに行くか悩んでいる。

俺もめいちゃんと、ここがいい?あそこがいい?って悩んでみたいよ。

まあ、いいや、今日と明日は会えるから。


モーニングはいつも通り楽しく終わり、仕事も順調に終わった。


今日は夕方 "ダークブラウン" に寄る暇はない、というか頭の中はそれどころではない。

帰りにタウン誌の最新号を買わなければ。

今日は話題満載だ。

いや、まてよ。今日と明日に分けよう。

そうだ、今日はタウン誌にしよう。

そして明日香水のサンプルを持って行く。

よし、完璧だ!


マイルームに帰り、シャワーを浴びて軽く食事をした。

今日も寒空の中、俺は歩いて行こう。

夜風は冷たいけれど俺の心は暖かい。

めいちゃんが住んでるから…

なーんちゃって。

金曜日の夕方は街も賑やかだ。特にカップルが多い。

俺がめいちゃんと並んで歩ける日は来るんだろうか…。

顔に傷があっても、目がすごく垂れてても、すごく釣り上がってても俺は気にしないのに。理由だけでも教えて欲しいけど、聞かれたくないんだろうな。

悩ましいなあ。

もう "ジュエル" に着いてしまった。

まだ7時半だ。

向かいのカフェでサンドウィッチでも食べて行こう。

そうだ!窓側の席でめいちゃんが入って行くのを見てみようかな。

いや、そんなことするような人間にはなりたくない。

やっぱりサンドウィッチを食べたら先に入っておこう。

この店初めて入ったけど、いつからあるんだろう。サンドウィッチはまあまあだけど、コーヒーはやっぱり "ダークブラウン" だ。


7時55分、 "ジュエル" に入った。

琥珀色の店内は大好きだが、めいちゃんの顔が判別しにくいのも事実だ。

8時になると、入口から入って来る人が気になってしょうがない。

でも落ち着いて余裕のあるフリをしよう。

めいちゃんがすぐ見られるようタウン誌を2つ並べてカウンターの前に置いた。1分もしないうちに誰かが黙って隣りに座った。


めいちゃんであることは解ったがなんかクスクス笑っている。


「こんばんは。見て!私も同じもの買って来ちゃった。私も2部!なんか気が合うよね、ふふ」


「わあ、ホントだ!最新号はソバ特集が載ってるからね」


うれしーい!めいちゃんも俺と同じこと考えてたんだ。

ま、めいちゃんの場合は、自分を守る為2部買ったんだろうけど、そんなことはどうでもいい。

やっぱり気が合うんだ。


優しそうなバーテンダーが注文を取りに来たので、俺はジントニック、めいちゃんにはホワイトレディをお願いした。


めいちゃんは先週とは違う帽子を被って来たが、今度はツバが広くて一段と顔が見えない。

でも先週より良く笑っている。俺も嬉しい。さりげなくめいちゃんに聞いてみた。


「僕はソバ特集のとこだけは読んだけど、他はまだ目を通してないんだ。めいさんはもう全部読んだの?」


「ええ、時間があったから一応全部読みました。

雑貨屋さんもいろいろ載ってたから良さそうなところ今度行ってみます。」


「そうなんだ、ソバ屋さんはもう行った?」


「はい!十割そばのお店すごく良かったです」


「そう、良かった、気に入ってもらえて。

このタウン誌に新しいお店載ってるね」


「ええ、ここだと自転車でも行けるからまた行ってみます」


めいちゃんは前を向いてタウン誌を読みながら話してるし、同じように俺も前を向いて話してるからカップルというよりは会議中の2人と言った感じだ。

俺は時々、横目でめいちゃんの方を見るけど、めいちゃんは全くこっちを向かない。

でも先週より良く笑うし、話しかけてくれる。

優しそうな話し方、きれいな声、笑った横顔はとっても素敵だ。


「あ、この雑貨屋さんフレグランス置いてる」


「え、どこどこ?」


俺はつい、めいちゃんのタウン誌を覗いてしまった。でもめいちゃんは怒らなかった。

クスクス笑いながら俺の方にあるタウン誌を指差した。

優しそうな仕草だなあ、このまま頭撫でてくれないかなあ。


「ほら、32ページの右上に載ってる。

シダーウッドってウッディな香りでしょ?」


「うん、多分ヒノキとかスギが多いけど、他の針葉樹の香りも入ってたりするみたいだね。俺ね、ウッディな香りの香水いくつかサンプルあるから明日持って来るね」


「ええ!いいの?じゃあ、ハンカチ持って来るから少しずつ振らせてもらってもいい?」


可愛いこと言うなあ、もともと上げるつもりで取り寄せたんだけどそれは言わないでおこう。


「いいよ、5個あるから全部試してみて」


「嬉しい!明日も楽しみね!」


俺の方こそ嬉しいよ、こんなに喜んでもらえて。でももう10時になるよ。


「あ、浩二さんは…あと30分くらい大丈夫?」


「え?うん、もちろん!僕は何時でも大丈夫だよ」


「良かった!じゃあもう少し付き合ってね。そのかわり今日は私がおごるから」


「それはいいよ。僕がおごるから」


「じゃ、やっぱり割り勘にしよ。

私、自分の分は自分で払いたいの」


「うん、そうだね、割り勘にしよ」


いい子だなあ、こんな人が男を騙す訳ないよ。今まで騙された女共とは全然違う。

俺は今日の為に今まで騙されて来たんだだろうな。

そのあとちょっとソバの話をしただけなのに、あっという間に10時半になってしまった。


めいちゃんはちょっとだけこっちを向いて頭を下げた。


「ごめんなさい、先に帰るね。おやすみ」


「はーい、おやすみ」


この瞬間が一番嫌だ。

どうしてもめいちゃんを疑ってしまう。

2人で楽しい時間を過ごしたのに、帰りは顔を見られないよう一人で帰ってしまう。

普通は一緒に店を出るよな。

でもやっぱりめいちゃんは悪い人には思えない。俺もそろそろ帰ろう。

楽しかったし、明日もまた会えるんだ。それだけでいいや。

歩いて20分、めいちゃんの優しそうな仕草や微笑んだ時の可愛らしさがしょっちゅう頭

に浮かんでくる。

話に夢中だったせいか全く酔わなかったから帰りにいつものコンビニでビールとちくわを買った。

暖かいマイルームに帰り、オードパルファンのサンプルを少しずつ手に吹き付けてみた。めいちゃんに一番似合っていそうな香りを選んでみた。果たして本人の好みと合うのかどうか…1/5の確率だから無理かな?


今日は星がくっきり光ってるから願いが叶いそうな気がする。


めいちゃんが俺を好きになってくれますように…

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